5話
龍華と並び、人混みへ足を踏み入れる。
その途端、空気が変わった。
わずかに重い。
皮膚が、ぴりりと粟立つ。
濃密な龍気と受験生たちの緊張が混ざり合い、張り詰めた空気を生み出していた。
二人は人の流れに従い、建物の中へ入る。
吹き抜けの広いロビーには、多くの受験生が集まっていた。
その中央には、一基の龍炎炉が据えられている。
腰ほどの高さまで石で囲われた円形の炉。
その中心には、一振りの黒い剣が深く突き立てられ、刀身を包み込むように青紫色の炎が静かに燃え盛っ
ていた。
不思議なことに熱は感じない。
だが、炎からは濃密な龍気が絶え間なく溢れ出し、ロビー全体を満たしている。
受験生たちは事前に送られてきた認証札を取り出し、一人ずつ炎へ投げ入れていく。
札は燃え尽きることなく淡い光へ変わり、炎の上へ文字が浮かび上がった。
『受験番号 A-0218』
『第一試験会場 第三試験室』
表示を確認すると光は静かに消え、認証札だけが元の姿で落ちてくる。
龍華は認証札を取り出した。
白銀色の光沢を帯びた、金属とも紙ともつかない不思議な質感の札だった。
「じゃあ、先にやるね」
そう言うと、龍炎炉の前へ進み、迷うことなく認証札を炎へ放る。
札は吸い込まれるように炎へ消え、一瞬だけ淡く輝いた。
次の瞬間、光の文字が浮かび上がる。
――受験番号 S-0182
――第一試験会場 第三試験室
「同じ教室だといいな」
龍華は認証札を受け取り、小さく笑った。
続いて昴龍が前へ出る。
認証札を取り出し、静かに炎へ投げ入れた。
その瞬間――
轟ッ――。
龍炎炉の炎が爆発するように膨れ上がった。
青紫色の炎は一瞬でロビー全体を覆い尽くし、天井近くまで駆け上がる。
昴龍は思わず目を見開いた。
――俺か……?
考える間もなく、炎は瞬きをするほどの時間で元の大きさへ戻る。
まるで何事もなかったかのように。
「っ!?」
誰かが息を呑む。
数人の受験生が反射的に身を引き、一斉に顔を上げた。
「今……何だった?」
「炎が急に……」
「気のせいか?」
ざわめきは広がる。
しかし、それが何だったのか理解できる者は誰もいない。
あまりにも一瞬の出来事だった。
昴龍もまた、龍炎炉を見つめることしかできなかった。
やがて炎の上へ文字が浮かび上がる。
――受験番号 S-0183
――第一試験会場 第三試験室
「お兄さまも同じ教室だね」
龍華が安心したように微笑む。
「ああ、みたいだな」
昴龍は認証札を受け取り、小さく頷いた。
胸の奥に残る小さな違和感だけが、消えずに残っていた。




