6話
二人は並んで第三試験室へ向かった。
案内された教室は、拍子抜けするほど普通だった。
長机と椅子が規則正しく並び、白い壁が続いている。
どこにでもある学校の教室と変わらない。
違うのは、床と天井に幾重にも刻まれた複雑な術式だけだった。
淡い龍気が静かに巡り、教室全体を包み込んでいる。
昴龍と龍華は指定された席へ腰を下ろした。
一席分ずつ間隔を空けた座席。
誰一人として口を開かず、教室は静寂に包まれていた。
やがて試験官が教壇へ立つ。
「これより、入学試験第一試験・筆記試験を開始します」
その声とともに試験用紙が配られた。
問題は、龍族史、龍族社会の法体系、基礎龍言の読解、人間界との境界規則など、多岐にわたる。
昴龍は静かに問題へ目を落とした。
焦らず、急がず。
一問ずつ確実に解答欄を埋めていく。
教室には紙をめくる音と筆が走る音だけが響く。
その中で、隣から聞こえる筆音だけは一度も止まらなかった。
龍華だ。
迷いのない筆運び。
昴龍は視線を向けることなく、その音だけを聞いていた。
やがて試験時間が終わる。
「筆記試験終了。筆記具を置いてください」
試験官の声が響く。
一斉に筆が止まり、静寂が教室を包んだ。
受験生たちは順番に教室を後にする。
廊下へ出ると、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
「どうだった?」
龍華が振り返る。
「悪くなかった」
昴龍は短く答える。
「そっか。私も大丈夫そう」
安心したように龍華が微笑む。
「なら、よかった」
昴龍も小さく笑い、歩き出した。
廊下では、問題について話し合う受験生たちの声が飛び交っている。
「最後の龍言、難しくなかった?」
「法体系の問題、あれ迷ったよな」
そんな会話が耳へ届く。
だが、昴龍は聞き流していた。
気になっているのは試験ではない。
ふと、ロビーで見たあの炎が脳裏によみがえる。
認証札を投げ入れた瞬間。
ロビー全体を覆い尽くした青紫色の炎。
周囲も確かにざわついていた。
それでも、何が起きたのか理解している者はいなかった。
――あれは、一体何だったんだ。
考えても答えは出ない。
昴龍は小さく息を吐き、その思考を胸の奥へ押し込めた。
歩きながら、ふと隣を見る。
龍華はいつもと変わらない歩幅で歩いていた。
その姿を見て、昴龍は静かに前を向く。
ここでは二人とも特別な存在ではない。
ただの受験生だ。
その時、校舎内へ放送が響いた。
「これより、実技試験の案内を開始します。受験生は係員の指示に従ってください」
昴龍は静かに息を整える。
胸の奥に残る違和感を抱えたまま、龍華とともに歩き出した。
本番は――ここからだった。




