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面が良いだけで不審者と何も変わらないからね

 明良たちが夢の世界で幻覚を見せられている間のことを視聴者のみんなに聞いてみた結果――


 突然、3人は立ち止まりぼんやりと景色を眺めだしたそうだ。それからすぐに天使たちが耳元にやってきた。


 彼らは身の毛もよだつような愛の言葉をささやき始め、明良たちを雲の外へと誘導しようとしたらしい。


 が、そこで明良だけは立ち止まっていたかと思うと、夢の中での言葉を叫び始めて天使を惨殺。散々な罵詈雑言を吐き捨てたのち、意識が戻ったとのこと。



「ほぇ〜、やるじゃん俺」



――コメント――


『やるじゃん俺で草。やりすぎなんだよバカw』


『ナナシいなかったら全滅あり得たし結果オーライでは?』


『完全に悪役ヒールムーブだよw』


『「俺はツラのいい女が一番嫌いなんだ」で爆笑した』


『陰キャ拗らせてるだけなんだよなぁ』


『ここまで来ると拗れじゃなくて一本芯が通ってるだろ』


『かなちんだけビンタきつくて草。追いビンタでさらに大草原や』


『どうしようもない淫乱ピンクっぷりだったし残当ではw』



 コメント欄も大いに盛り上がっているようだ。こちらとしては明良の意識が戻らなかったら全滅していたのであまり笑えない状況なのだが……配信はエンタメ色が強いでこの程度の認識なのだろう。


「ナナシ君はよくあの誘惑に耐えられたね」


「ああ、正直俺は耐えられそうになかった。凄いなナナシ」


「だっていきなり自分に声をかけてくる美女とかキモいでしょ? 得体が知れないよ。面が良いだけで不審者と何も変わらないからね」



――コメント――


『面が良いだけの不審者www』


外見至上主義ルッキズムに真正面からグーパンしていくスタイル嫌いじゃないよ』


『ナナシ語録がまた一つ増えてしまったな』



 ナナシのこれまでの発言をまとめたセリフ集があるらしい。一部のマニアには受けそうである。


「ナナシが初対面で私のことを悪し様に罵った理由はそれかー……」


「うーん、大元はちょっと違うけど表層的にはあってるかな。美少女とか苦手だし、お前みたいなピンクは特に」


「ハイハイ。ひとまずここにとどまんないで先に進もうぜ?」


 小金騎士の救いの手によって言葉のパンチを収めた2人は頷いた。


 攻略WIKKIによると先ほどの通称『天使の誘惑ささやき』は、第7階層に初めて入ってきた探索者にしか起こらない現象なんだとか。


 その初見殺しにて約半分のシーカーが命を落とすというのだから油断はできない。最初だけしか通じないせいなのか、分かっていても食らってしまうのが『天使の誘惑ささやき』の恐ろしい点だ。防御不可の幻覚魔法を食らってパーティー壊滅という流れが『神楽かぐら天空てんくう』のやり口なのだ。

 

「全くやらしい階層だよ。反吐が出る」


「ナナシは相変わらず女が苦手だな。まあ仕方ないけどさ」


 小金井こがねいじんは、明良が中学生のときにどんな嫌がらせをされていたか知っている。だからこそ、性格に難はあれど、明良の女性不信にあれこれ言うつもりは無かった。


 むしろ負の感情を溜め込まず、口に出しているだけ健全とさえ思っている。


 叶恵には災難だが。


「そんなことよりほら、キモ天使からドロップアイテムが落ちてるよ」


「「!!」」


 雲の上に落ちた小瓶を3本拾い上げる明良。それを見た二人の目がかっと見開いた。


 『天使の惚れ薬』という……ありていに言ってしまえば媚薬の一種である。使用者の体液と混ぜ、1滴でも飲ませてしまえば、瞬間に催淫効果を発揮する。自身で飲めば強力な強壮滋養効果を発揮する。効果は24時間。


 さらに驚愕なのは……効果時間内での妊娠率が100%になるというものだ。


 これは『天使の誘惑ささやき』を突破し、囁きの天使を倒したときのみ手に入るレアアイテム。入手数は一人一本までなので、プレミアとして超高値がつく。

 基本的にダンジョンアイテムは時価だが、売値にそこまでの変動はない。

 

 それを踏まえての『天使の惚れ薬』の売値は、




 ――――最低1000万。そして売値も買値も時価である。


 世の好事家、好色家たちが喉から手が出るほど欲しがり、大枚をはたいてでも手に入れたがる希少なアイテムだ。


 少子化対策のために政府も常に『天使の惚れ薬』の買い取りを受け付けているが、こちらは定額で1000万なのでほとんど使われていない。そのため小規模なクリニックなどではまず手に入らないし、大病院などが探索者たちから直接買い取るケースはあるが、非医療品なので医療費控除や国からの助成費がでない。


 本当に不妊治療を必要としている者たちからしてみれば、形だけのアピール(政府は無能)であると取られても仕方がないだろう。


 


「こ、これが……最低1000万の瓶……? 嘘だろ、俺の手のひらくらいの大きさしかないのに……?」


「ふ、ふひひ、これで借金貧乏生活ともおさらばよ……」


 見事に欲の沼にドはまりした二人を見て、やれやれと明良は苦笑いする。



――コメント――


『俺らの目の前に3000万円……うせやろ?』


『いや、今調べてきたけど最近7階層に行く新規シーカーが少ないからバカみたいに値上がりしてる』


『うはwww 協会のウェブオークション見てきたら2000万で即買い取り希望とかあるwww』



「にせっ……!?」


コメント欄も突然降って湧いたレアアイテムに混乱を隠せていない。かくいう明良も暫定の売値に興奮を隠せなかった。


「改めてシーカーってのは、儲かるけど業の深い仕事だねぇ……」


 ひとまず『天使の惚れ薬』は明良のアイテムポーチにしまい、3人は7階層の攻略を再開した。


 攻略マップと現在地をしきりに見比べながら雲の階段を昇る。そろそろ全体の半分も進んだ頃だろうか。


 第7階層の主力モンスターがやってきた。

 

「天使兵団だっ! 数は……およそ30! 戦闘準備!」


 空の彼方から飛来するは双翼の美男美女たちの軍勢。手に手に剣と盾、弓と矢をたずさえて蒼碧の空を駆ける。


 神の尖兵たちが明良たちの侵犯者のもとへ押し寄せていた。


「僕が行くっ!」

 

 明良が先駆けとなって天使兵団に接敵する。

 先頭をく盾剣の天使兵と鍔迫り合い、するりと受け流してむき出しの首に一太刀浴びせた。


「オッ!?」


 オットセイのような野太い悲鳴を上げながら天使が消滅する。 


――1体ずつなら問題ないな。けど……


「オオン!」


 弓兵天使たちの一斉射が始まる。一糸乱れぬ動きで矢を番え、弦を弾けば、晴天に殺意の雨が降り注いだ。狙いは後方で待機する2人、小金騎士と桜庭叶恵だ。


「矢の雨がくる! かなちゃんは俺の後ろに!」


「了解! 隙を見て深淵魔法アビスマギを使うよ!」


 矢の雨から身を守りながら叶恵がそう言う。


 対群攻撃ならばたしかに深淵魔法の方が適性は高いが……


 乱戦の中、明良は叫ぶ。


「駄目だ! こいつらの知性は他のモンスターより高い! ヘイトを集めたら狙い撃ちにされるぞ!」


 明良の忠告が、叶恵の呪文詠唱をやめさせた。

 第7階層のモンスターは今までの獣型や魔物型とは違い人型。それが関係しているのか、物事の優先度プライオリティを考えられる程度の知能を有している。


 例えば、後方から攻撃を仕掛けてきたり支援をするようなサポーターから優先して始末する。といったアルゴリズムだ。


 それは深層に進めば進むほど顕著になっていき、最新層のモンスターは間並みの知能があるとの噂だ。


 加えて天使たちは飛行ユニットであり、身軽ゆえそこそこ素早い。深淵魔法アビスマギの種類にもよるだろうが、回避されて反撃されるリスクもある。とどめの一撃以外で使うのはやめたほうが良いだろう。


「小金騎士と桜庭叶恵は、僕が剣盾持ちを全部潰すまで防衛に徹してくれ!」


「っ……けどそれじゃあ」


 俺たちがいる意味が無い。と言いたかったが、重武装の小金騎士に多数への機動戦は難しい。結局、言いかけた言葉を飲み込むしかなくて悔しさをかみしめる。


「いいじゃん小金くん。適材適所って奴だよ」


 前線で体を張る明良を尻目に叶恵がそんな慰めをする。しかし、小金井はそんなきれい事で片付けたくはなかった。


「かなちゃん、いやそういうんじゃないんだ。俺はナナシを1人にさせたくない。また、1人で向こう側に生かせるわけにはいかないんだ」


 小金井は、中学生の明良を助けられなかった。いや、正確には助けきれなかった。明良をいじめていた女子グループは壊滅させたが、それでも明良は高校に進学せずに、ダンジョンという危険地帯に赴かせてしまった。


「そんなのは、もう二度とごめんなんだ。俺はナナシとダンジョンを行くんだっ!」


 ドクン――!


 小金井の強い決意が、その叫びとともに戦場にとどろく。瞬間、天使たち全員の意識が小金井に集中する。同時に小金井は体からあふれ出した、衝動的なエネルギーに驚いていた。


「今のは――なんだ?」

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