個人的には不可って意味で使ってる
新宿ダンジョン シカ地下
「全員集合したな?」
「「はーい」」
なぜか引率の先生のような立ち位置の小金騎士――もとい小金井仁を先頭にして、西乃明良と桜庭叶恵がやる気のない返事で応えた。
三人とも装備の点検は済ませてある。特に、連盟魚に鎧を損壊させられていた仁は念入りに確認済みだ。明良はいつもの愛剣を鍛冶職人から受け取り、使ったアイテム類の補充。叶恵は前回に引き続き魔女姿だ。
「今日も配信しながらの探索になるわけだが……事前に決めた通りに第6階層『不死軍駐屯地』の攻略をしていこうと思う」
ついに第6階層だ。アンデット系と呼ばれるモンスターがたむろする、死霊たちのゴーストタウンである。
ソロでの攻略が難しい階層が続くが、中でも6階層はしつこいことで有名だ。
そしてこの6階層が、今後しばらく明良たちの強化と稼ぎをメインとする階層である。
ダンジョン入り口の改札で、協会役員にシーカーライセンスを見せると「『静寂の地底湖』への中継部屋の使用をご希望ですか」と聞かれたので「はい」と答えた。
するとこの前転移してきた小部屋に案内され、転移陣の中に入るよう促される。
「それでは良いダイブを」
その言葉に見送られて、明良たちの体は消えた。
新宿ダンジョン 第5階層 『静寂の地底湖』 中継部屋
ひんやりと湿った空気が充満している。辺りは暗く、足元の転移陣が薄く発光しているだけの小部屋。
中継部屋への転移が終わったようだ。
「よし、皆はぐれてないな。今日は第6階層初見だ。生配信があるからって、調子に乗って進むのは止めような」
「さすがに前回で懲りたよ」
「いのちだいじに、いきましょ」
3人の意思は、すり合わせるまでもなくまとまっていた。そして第6階層へ続く階段を降りて行った。
新宿ダンジョン 第6階層 『不死軍駐屯地』
鼻を衝く異臭。それが肉の腐った匂いだと気づくのに、そう時間はかからなかった。3人は、しかめ面をしながら周囲を確認する。
第6階層は常時満月の夜のステージ。そして、ほぼ全域にわたって十字架の立てられた墓地が散見される場所だ。
他に、昔の西部劇にでてくるような町並みや蜘蛛の巣の張った寂れた屋敷などがあるらしい。
とりあえず見える範囲に敵がいないことにほっとしつつ、生配信をスタートする。
――コメント――
『お、はじまた』
『おつかなー』
『今日からナナシと小金ニキとパーティー組むと聞いてきますたw』
とさっそくコメントが流れた。
叶恵が前もってSNSにて宣伝していたらしく、同接数3000とまずまず好調な滑り出しだ。何人かは少額ながらすでに投げ銭をしてくれている。
「皆おつかなー。今日から私、ナナシ、小金騎士でパーティー組むからよろしくね~」
――コメント――
『今日もいいギャン泣き頼みますナナシさん』
『おつかな。ナナシの働きに期待が高まるワイ。すでにチータラと赤〇島用意』
『お前らクズかよ。あ、ワイもや』
相変わらずコメントが気持ち悪い。その中に、まれに小金騎士への応援メッセージも混ぜっている。が、全体的には明良と叶恵の絡みを望む声が多かった。
「今日は『不死軍駐屯地』の攻略にきてるよ~。ちょっとキモイのが映るかもだけど、皆ゲロ吐いても見てね♪」
叶恵はそれを最後にスマホをしまった。攻略開始の合図だ。
陣形は前から小金騎士、叶恵、ナナシ。叶恵を挟んで護衛するような並びだ。小金騎士を先鋒として慎重に歩みを進めていく方針である。
「ん、前の墓地から敵ありだ」
小金騎士の警告通り、十字架の下から手が飛び出してた。それもきれいに肉が削げ落ち、白骨化した手だ。
ずぞぞ、と土をかき分けて手に錆びた剣を持った骸骨がまろびでてくる。
さっそおく骸骨戦士のお出ましだ。
「カタタッ」
「気持ちわるっ」
骨を鳴らしながらゆっくりと距離を詰めてくる骸骨戦士。知能は低いようで、敵は剣を安直に振り上げて小金騎士を襲う。
背後に叶恵がいるため、避けるような真似はせず剣を横に受け流していく。
湖群魚の魔結晶を取り込んで強化された体は、剣撃の勢いをほぼ殺してみせた。
これならばタンクとしての役割に支障ない。
「いけるな」
腕に残った衝撃の余韻を味わいながら、小金騎士はたしかな手応えを感じていた。
「そこ!」
骸骨騎士のよろめいた隙を狙って、頭蓋骨にボウガンの矢が突き立つ。が、それだけではまだ消滅しない。
「シッ!」
「ガッ!?」
トドメに明良が頭をショートソードの柄でかち割ると、骸骨騎士はあっけなく魔結晶とドロップアイテムになった。ドロップアイテムはスケルトンボーン……前腕の骨らしきなにかだ。砕いて肥料にまぜるだけで激的な植物栽培効果があるそうだ。昨今の日本の食料自給率に大きく貢献しているのだとか。
それらを明良が拾い集め、小金騎士にサムズアップ。
「今のは理想的な連携だった。主に小金騎士のパリィと俺のフォローが」
「あれれ〜、おかしいなぁ。私の攻撃は?」
「及第点」
「意外と優しめの評価に驚き」
「個人的には不可って意味で使ってる」
「少し見直して損したっ!」
実際、今の連撃で叶恵の攻撃はそこまで重要ではなかった。
これからの連携において必要な流れでもあるから、明良は叶恵が攻撃する隙を与えていたにすぎない。
それを踏まえた上で『不可』である。
――あるいは、この前顔を合わせたときに説明された切札なら俺は必要なかった。
が、叶恵は明良に負けず劣らずの秘密主義らしく、切札を使う様子はない。
それ次第で叶恵の評価は覆るだろうから、最終的な判断は見送り中である。
「ま、稼ぐには絶好の場所なのは間違いないね……ついでに連携を磨いていこう」
「「おう(はーい)!」」
明良と叶恵はなんだかんだ文句を言い合いつつ、骸骨戦士たちをバラバラにしていく。
その作業とも修行ともつかない最中に異変が起こった。
「敵に骨無死人が混じりはじめてる! 気を付けろ!」
仁の警告により二人も新たな敵に気づいた。
足をズリズリと引きずる腐乱した死体が迫っている。すぐさま明良が飛び出して、骨無死人の首を一閃。勢いのままにはね飛ばしてやった。
消滅した骨無死人は、その場に小さな魔結晶と『骨無し肉』をドロップする。
この骨無し肉、実は食べれる上に味も悪くないらしい。ひそかに愛好家もいるようで、割りと高値で取引されているとか。
「……! こいつ、手応えが軽い」
名前の通り、骨無死人には骨がない。それでどうやって立って歩いているのかは不明。一説によると、骸骨戦士と肉体を分かち合ったとか言われている。
そして、魂もまた別のモンスターとなり、己が肉体を求めて『不死軍駐屯地』を彷徨っているのだとか。
「気を付けろナナシ! 骨と肉が揃っちまった! 浮遊霊が寄ってくる!」
仁が骸骨戦士、骨無死人を相手取りながら叫んだ。いつの間にか、他のモンスターたちも生者の気配を感じておびき寄せられていたようだ。
「ちょっと! 黒くて大っきくてキモイ奴がいっぱい来てるんですけど!」
叶恵が指さした方には、真っ黒なマントを被ったような者たちが見えた。妖怪のダイダラボッチか海坊主のような見た目をしている。足はなく、わずかに浮遊している。良く見れば向こう側がやや透けていた。
第6階層にて最も厄介なモンスター。
――浮遊霊がきた。




