いくら有能でも人柄やべえのはやめといた方が良い
目はないはずの浮遊霊たちが、遠巻きに明良たちを見つめている気がした。
顔(?)には窪みが3つある。あれが顔なんだろうか。つい視線が吸い込まれそうになる。あるいは引きずり込まれそうになる、というべきか。
「浮遊霊だ! 叶恵は打ち合わせ通りにアレを使ってくれ!」
明良からの支援要請を受けて叶恵が杖を掲げる。
「やっと私の力を認める気に――「んなこといいから早くしろ」あーもう、わかってるってーの!?」
ドヤ顔キャンセルされた叶恵は、杖の先端に意識を集中――。口を開けば得体の知れない言葉が飛び出てきた。
「来たれ、深淵からの使者。踊れ、炎獄の子らよ――――」
――なんだ、これは。本当に人が発して良い言語なのか?
聞き続けていたら精神が侵されそうなくらい不快な音。耳に虫が入り込んできて、脳の中を動き回られているようだった。
「『ファイアダンス』!」
理解不能の言語――おそらく呪文による詠唱が終わりを迎える。
直後、杖の先から大小様々な火の球が顕現する。それぞれに個性があるように、火の子らは今にも暴れ出しそうなほど小刻みに揺れている。
「燃やせ」
その号令で、その鶴の一声で、浮遊霊の群れに殺到する。一つ一つが不規則に、意思を持っているかのように、浮遊霊たちに襲いかかった。
たちまち浮遊霊たちからキィキィと金属を引っ掻くような悲鳴が上がる。一度燃え移った浮遊霊を焼き尽くすと、次の標的へとターゲットを買えて襲いかかる火の子たち。
浮遊霊たちの何体かが『浄化魂』を落としていく。ちょうど占いに使うような水晶玉サイズで、みためもほぼソレだ。
こいつも単体で中々有用な代物で、使い切りではあるが、ストレスや鬱といった負の概念を吸い取り霧散させることが可能。最近では主にメンタルクリニックなどで使われる現代の必須アイテムで、一つ10,000円の高額取引品である。
「うぉ、すっげぇ……」
浮遊霊には単純な物理攻撃が効かない。一応、フラッシュ玉を使うと、硬直後しばらく実体を得るという特性があるため、物理主体の攻略も可能だ。
今回のように『魔法』を使える場合は話が別になる。
先程、叶恵が口ずさんでいた謎言語は探索者たちの間で『深淵言語』と呼ばれている。
『深淵言語』は何度聞き流しても後天的な習得はできない。同じ発音でもイントネーションで意味の違いがあるらしいが、正直なところ、異文化すぎて理解できないのが大多数の人間の見解である。
さらに『深淵言語』を意味のある羅列にし、ダンジョンに呼びかけると『深淵魔法』が発現する。
叶恵の場合は、ダンジョンからの声が聞こえるとのことで、それはうわ言のような、ただの独り言のような、形容しがたい『声』らしい。人間の声ではない。獣の鳴き声でもない。かと言ってただの音でもない。
ダンジョンの奥深く、深層と呼ばれる未知の領域から届いていると考察されているが、なぜソレを聞き取れる人間がいるのかは不明。
だが現実に魔法が使える事実が、あまたの人々を熱狂させ、ダンジョンへと駆り立てたのは間違いない。
――深淵魔法、これほど頼もしいとは思わなかったな。
「ふうっ、これでここのモンスターは全滅よ全滅! どうよ、私の実力は」
「ああ、よくわかったよ。最初に会ったときは実力を隠していて俺を騙していたってことがな」
「あ、あれー? そこ突いちゃう?」
図星だったのか視線を右往左往させる叶恵。
戦闘に一区切りついたのでここで配信の様子をチェック。
――コメント――
『深淵魔法初めて見た。使える奴いたんだ』
『何言ってるかわからんかったけど……凄く……厨二ですwww』
『おい、酔っ払いに深淵言語はオロロロロr』
『SAN値削れてるやつおって草。かくいう俺も吐き気ががが……』
『深淵魔法適正って10000人に1人くらいの才能って話だよ。ナナシたちとパーティー組んどいてよかったね。これでフリーだったらダンジョン明けに勧誘の嵐だっただろう』
『コスプレやなかったんやな……心の中でわろてしもうて堪忍なwww』
『うおおおおおお! 深淵魔法使いかなちん爆誕! かなちん! かなちん!』
コメント欄は多様なコメントで乱痴気騒ぎとなっていた。おかげでコメント欄は投げ銭祭りとなっていた。
叶恵の職分に関しては、深淵魔法使いというのが俗称らしい。他の探索者パーティーから見たら喉から手が出るほど欲しい人材ようだ。
確かに、アンデッドモンスターたちを一掃した火力はたいしたものだが……。
「いやいや、こんなのいたらサークラ(※組織の人間関係崩壊のこと)まっしぐらでしょ。いくら有能でも人柄やべえのはやめといた方が良い」
――コメント――
『ナナシも大概、人のこと言えない陰キャだろwww』
『散々な言い草だけど、かなちんがいい性格してんのは間違いないから返しに困るぜ』
『救いが小金ニキしかいないの地獄すぎん?』
「私とナナシが同レベル!? 私の人徳低すぎ……?」
「元から低いんだよなぁ……」
未だに最初に騙されそうになったことを根に持ちながら、明良がぼやいている。
平然とコメントを受け入れている様子を見て、叶恵が感心したように腕を組んだ。
「ていうかあんたもよく怒らないよね。結構馬鹿にされてると思うんだけど?」
「当たり前でしょ? 別に俺は自分が賢い人間とも思ってないし、いい人ぶるつもりないし」
そもそも明良が賢い人間だったら、ちゃんと高校に行って、大学に行っている。
きちんとした人格者だったなら、『西乃雑貨店』が潰れたからと言って、その原因であるダンジョンマーケット『DONE』を見返してやろうなどと思わず、ダンジョンに潜ることもなかった。
「ふーん、ま、そういう開き直りは嫌いじゃないかな」
「あっそ」
――というような感じで、一悶着があったものの攻略自体はかなり順調に進んだ。
希少種に遭遇することもなく(そもそも頻回にエンカウントするのがおかしいが)、ナナシパーティーは第7階層への階段を見つけるのだった。
話し合った結果、さすがに命を大事にと決めた手前、今日は撤退することになった。
――本日の潜果、約310,000円。
――本日の配信稼ぎ、約150,000円。




