表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/30

最悪の中の最悪だ

第5階層 『静寂せいじゃく地底湖ちていこ



 暗い洞窟の通路にはところどころに水たまりのような水源があった。水面は光源もないのにあやしく輝いており、周囲を神秘的にライトアップしている。


 ――静謐。この階層を例えるならその一言に尽きる。『静寂の地底湖』には特殊な仕様が存在する。


 明良は近くにあった石ころを拾うと、適当に放り投げた。放物線を描いた石は、じめじめとした地面を数回バウンドして水たまりに吸い込まれていった。


 だが、発生するはずの音は限りなく小さく、明良たちの耳に届くころには周囲にほぼ吸収されてしまっていた。


『動画から音が聞こえねぇw』

『声もなんか聞こえづらくね? ヘッドホンで音最大にしたのにあんま変わらん』

『それ4層にもどったら鼓膜死ぬやつw』



 コメントを確認すると、どうやら配信でも音が伝わりにくいようだ。


「攻略WIKKIに書いてあった通り。この階層ではほとんど音は聞こえない。それこそ環境音や他の探索者たちの戦闘音も聞こえないだろうね。かなり厄介だ……」


 これをソロ攻略するのはほぼ不可能だろうと思った。まず敵の接近に対して反応が遅れる。ほぼ視界頼りでの索敵となると常に背後を気にしながら進まなければならない。よほどの精神力がなければ次の階層にたどり着くまでに精神が擦り切れて参ってしまう。


 最低でも二人で攻略すべき階層。実際、ここで躓いてソロシーカーを引退する者が続出している。


――もし、仁ちゃんがいなかったら。


 そう考えるだけで明良はゾッとしない気持ちを味わった。しかし、今日は三人パーティー。役割分担ができる。


「俺はマップを見ながら案内を。小金騎士は前方、炎上姫は後方の警戒を。これでいって、何かあったら声を掛け合おう」


「うんうん……って炎上つけんなコラァ!」


「まあまあ姫落ち着いて」


 と、一悶着はあったものの仁、叶恵ともに作戦自体にに異論はなかった。


 意見が一致したところで探索開始。


 『静寂の地底湖』に生息するモンスターは、今までとはやや異なる。個々が群を抜いて強い、というわけではない。というより……


「来たぞっ!」


「「っ!!」」


 ――群自体が()として強い。


 前方を中止していた仁義からの警告。その瞬間、目前の水溜りが音もなく弾ける。


「シャー」


湖群魚パーティーフィッシュ!」


 水中から飛び出したそいつ()は、風を切りながら突撃してきた。


 いわしの成魚に酷似した見た目をしており、常に5〜10匹で群れて行動する魚型のモンスターである。


 それらがほぼ無音で、矢のようにかっ飛んでくるのだ。それも自爆覚悟の特攻で。


 湖群魚を確認したときには、3人は打ち合わせ通りに動いていた。


 仁が構える大きな盾に全員が身を隠す。


――ガガガッ!と正面で衝突する湖群魚。その反動で仁の足がわずかに後退した。


「うわっ、結構威力あるぞこれ。プロ野球投手並の球威はありそう」


 感心する仁に対して明良は苦い顔をする。


「大きさに差があるとはいえ、2、30センチの生物が飛来してるんだ。威力がないほうがおかしいさ」


「ひぃぃ、やっりぱ来るんじゃなかったかもぉぉ!?」


 情けないお姫様を尻目に呆れつつ、湖群魚の第一波をやり過ごす。どうやら大半は盾に激突、魔素として消滅したらしく、残りはたったの一匹だった。 


 そしてこいつらはここからが地獄なのだ。


「早く仕留めて!」


「わかってるってば!」


 叶恵がボウガンを放つが、着弾する直前に湖群魚の口が開いた。少し遅れて矢が突き立った。最後の湖群魚は、音もなく地面に落ちてそのまま消え去った。


 そこには魔結晶は無く、ドロップアイテムもない。


 それが何を意味するか、新宿ダンジョン攻略WIKKIで予習をしていた明良たちは血相を変えた。


「クソッ! プラン変更! 小金騎士の盾に隠れて最短ルートを突っ切るぞ! 奴らが来るっ!」


 明良は迅速に陣形と作戦の立て直しを図った。


 湖群魚は、一個の群れを完全に倒しきったときには魔結晶とアイテムを落とすが、仕留め損なうと逃げて他の群れと合流する。


 さらに、湖群魚の特性として某RPGで言うところの『仲間を呼ぶ』がある。人間には聞こえない発声により、この地底湖中の仲間に増援を頼むのだ。


 そうなれば最後、地獄の無限ループが始まる。


 倒しても倒してもリポップする湖群魚を相手に、果てのない長期戦を強いられ、最後には齧られて死ぬ。これまでのモンスターとは質も量も桁違いの戦いとなる。しかもすべて倒しきらねば利益は雀の涙。探索者泣かせの筆頭モンスターだ。


 抜け出す方法はいくつか存在するが、シンプルなのは圧倒的な火力か、物量で押し切る。もしくは、少数のパーティーなら死ぬ気で逃げ切るかだ。


 明良たちは当然こちら。


 後ろから猛追して来る湖群魚の大群をバックに大逃走中である。ときおり被弾しそうになったときは明良が切り払っているが、皆少しずつ被弾してきている。


「うおおおおお、来てる! 来てるよぉぉぉぉ!? うじゃうじゃして気持ち悪いぃぃぃ!」


「バッカ、アキ振り返んじゃねえ追い付かれるだろ!」


「も~~~~やだ~~~~~~!!!」


 全員が全員、余裕など皆無で逃げる。前から飛んでくる湖群魚は仁が、後ろを明良が始末していく。


 幸い、この階層はそこまで入り組んでいないので、ルート取り自体は問題ない。通路の幅も3人くらいの広さしかないので囲まれるということもない。


 勝負となるのは、この先の地下階段へと続く大空間。あらゆる複数の経路と繋がる連絡広間であり、ど真ん中が一際大きな湖になっている。


 WIKKIによれば、『群魚の巣(パーティーネスト)』と呼ばれる無限湧きスポットであるらしい。


 ここで湖群魚の総攻撃を切り抜け、6階層に続く通路に抜けられれば……


 魚たちの弾丸パーティーを受けながら走っていると、目前に強い光が差し込んでいるのが見えた。


「飛び込めぇ!」


 仁の掛け声で3人は、『群魚の巣』に足を踏み入れた。


 そこで待っていたのは、空中を漂う湖群魚の大群であった。


 万事休すとはこのことか。


 明良はショートソードの柄を思わず握りしめていた。こんなところで終われない。シーカーランキングの頂点に立ち、『西乃雑貨店』を復活させるのだ。


「うおおおおおおっ!  こっちだイワシ野郎っ!」


「アキ!?」


「ナナシ君!?」


 単身突出した明良は、ショートソード片手に湖群魚を誘った。


 ――実力不足を承知で二人を連れてきたのは俺だ。こんな逆境くらい一人で切り開いてみせる……!


「シャー!」


「シャシャシャッ!」


 愚か者を見つけたとばかりに明良に襲い掛かる湖群魚たち。瞬間、明良の中でスイッチが切り替わる。極限の集中状態へと精神が移行し、接近する湖群魚をほぼ自動的に切り伏せていく。


――右から一個分隊(一体)


「シッ!」


 後退しながら斬り払う。湖群魚がまとめて五匹ほど瞬殺される。


――上から二個分隊(二体)。左右から一個分隊(一体)ずつ。


「まだッ!」


 殺到する湖群魚たちをバク転宙返りをしながら切り落とし着地。そのまま突撃が空振りした湖群魚の交差点をショートソードで一閃し、湖群魚を殲滅する。



――正面から二個分隊(二体)。上から三個分隊(三体)背後から一個小隊(六体)


「何匹来ようがぶっ殺してやる」



 その全ての位置関係を瞬時に把握し、最適な体捌きによって――時にアクロバティックかつ奇怪な――曲芸のような軽業で持って翻弄する。


 斬り伏せて、打ち落として、殺し尽くす。魔結晶やアイテムがドロップしても明良は無視して狩り続ける。


 すでに明良の目には生き残るための活路しか見えていない。ギラギラとした視線の見据える先は、地下階段がある通路の方角だ。


 仁たちは後を追いながら、明良の姿に驚愕していた。


「アキの奴やべーな! 今まで本気じゃなかったのかよ!?」


 すでにナナシ呼びなど忘れてすっかり幼馴染の呼称に戻ってしまっているが、明良の豹変ぶりを見れば仕方ないことだろう。


 後ろをついていくだけで屍の山(ドロップ品)ができている。湖群魚の大半を明良が担っているおかげで、仁たちは致命傷を受けることなく進めていた。


「希少種のゴブリンナイトを倒したってのも頷ける強さよね」


 叶恵もやや悔しがりながら明良の実力を認めていた。そして、ようやく『群魚の巣』の湖畔を半周し希望が見えて来たところで、ソイツは来た。


 ザザアッ!


 と音がしたなら響いていたであろう。水しぶきが湖畔中央から噴出する。湖群魚の更なる援軍かと身構えた明良は、絶望に目を見開いた。


 ――最悪の中の最悪だ。


 小型のビルほどもある背丈の巨人が、明良たちを見下ろしている。その頭を、四肢を構成するのは大量の湖群魚たちであり、それ自体が一つの生命体であり群体。


 『静寂の地底湖』において最悪のエンカウントモンスター。


「希少種……連盟魚クランフィッシュ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ