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そんなことってある!?

 10体くらいの毒蜘蛛を殲滅していると、そのうちに仁が「そろそろ三人でのチームプレイも磨いとこうぜ」と提案した。明良と叶恵はこれに了承して、次の毒蜘蛛を待った。


 第4階層『悪食あくじき氷原ひょうげん』での基本戦術は、仁を前衛にして明良が遊撃、後衛から叶恵がボウガンやアイテムで援護をするという流れだ。もちろん、毒蜘蛛と悪食では仮想敵としてかなり違う。本番での動きを想像し、差を補完して戦う必要はあるだろう。


「と、思ったんだけどア……ナナシが強すぎて俺が蜘蛛をはじいたらすぐに倒しちゃうな」



『ナナシ無双でつまらんなー、4階層はよ』

『普通はここまで余裕はない定期』

『期せずしてかなちんの姫プレイになってるの笑う』



「確かに。おい桜庭ちゃんと仕事しろ」


「理不尽なパワハラっ!?」



『×仕事してない ○仕事させてもらえない』

『ナナシ君かなちんに辛辣なのほんま草なんや』

『それを楽しみに視聴している俺らクズだよなw』



 ――うーん、だって最初の出会いで俺を利用しようとする気満々だったしこれくらい自業自得の範囲では? それに……


「命懸けのシーカーに理不尽もパワハラもないよ。嫌なら死ぬ前にやめるんだね」


「くぅ〜……この正論パンチ陰キャマン……!」


 叶恵は美少女がしてはいけない形相――具代的に述べると尊厳が傷付くレベル――をしていた。



『かなちんのご尊顔が仁王とムンクの叫びを足して2で割ったみたいになっちゃった……』

『言ってること"だけ"は正しいんだよなあ』

『かなちーもう泣きそうwww 酒とつまみが止まらないよwww』

 


 昼間から人の生き死にの様を魚に一杯ひっかけている人間失格視聴者たちはともかく。そろそろ視聴の同接数が伸び悩んでいるのは確かなので、明良たちは次のステージに進むことにした。


新宿ダンジョン 4階層 『悪食あくじき氷原ひょうげん



 さて主戦場を移した明良達は、悪食ことウェアイーターに挑む準備を始める。吹雪いてはいないものの、凍て付く冷気と暗雲とした鉛色の空は、探索者らのやる気を削ぐには充分なものだ。


 そんな中、明良たちの士気は高かった。特に明良自身のモチベーションは最高潮である。何も出来ないまま敗走させられた相手に復讐できるのだから当然だろう。


 全員、寒冷対策のために耐寒ポーションを飲み干す。一本千円だが効果時間は一日と長く、長期戦にも強い代物だ。飲み干すとたちどころに寒さを弾き飛ばすように全身が暖気を帯びた。これで手がかじかんで武器を取り落とすことはない。


 明良は愛剣の鞘を撫でつけると獰猛に唇を吊り上げた。


「ミミズ狩りを始めるぞ」


「おっしゃあああ!」


「お、おー……」


 やや引き気味の叶恵をよそに盛り上がる男性陣。そこには絶対に悪食を討伐するという意気込みが現れていた。


 次の階層までの最短ルートを確認しつつ、三人は雪原を往く。誰の足音も付いていない処女雪を踏み荒らしながら進んでいくのは中々爽快である。しかしながら目的の相手はまだ現れていなかった。


「うーん、悪食は個体数が少ないな。ダンジョンでここまでモンスターと遭遇しないってのも珍しいぞ」


「悪食って巨体だから階層ごとにのリソースみたいのを多く使ってるんじゃない?」


 なんて言いながら仁と叶恵が話している。が明良からすると喜ばしくない状況であった。せっかく準備を万端にしたのに、目的の相手は一向に現れないのだからそれはそうだろう。


「ねえ、もしかしてなんだけどさ……これ、このまま次の階層に行っちゃうってことないよね?」


「いやいやまさかそれはないだろア、――ナナシ~」


「そうよ何言ってるのかな、この陰キャは~アハハ」










――20分後。



「何もない!? そんなことってある!?」


 明良は第5階層に続く地下階段の前で絶叫した。人材も装備もアイテムも意気込みも、全てを理想的な状況で集めたにもかかわらず結果は無慈悲だった。


 まだ戦って惨敗から撤退した方が、配信的にも取れ高があったように思える。



『悪食さん、はーつっかえ……』

『シーカーあるある:目当ての相手にエンカウントできない。あると思います』

『バチバチのフラグ建て乙w』



 などとコメント欄も騒いでいる。叶恵も予想外のアクシデントに「うーん」と頭を抱えていた。


 悪食を探して第4階層を周回する選択肢を選んでもいいが、このだだっ広い氷原を探し回るのには常に疲労が付きまとう。最善の行動は、悪食を倒すことではない。絵面的にも代わり映えしなくてマンネリ化するのは間違いない。


 明良はそう判断して、一つの決断を下した。


「小金騎士、桜庭。行こう、5階層へ」



『マジかよ!? 死ぬぞ!?』

『配信的には正解なんだけどヤバない? Lvだけ上がっても意味ないんやで?』

『いや待てナナシだけなら行けるかもしらんぞ』



「俺はナナシがOKなら行くぜ」


「私は…………」


 仁は即断でついていくことを表明。その逆に叶恵は返事を渋っている。命の危険が高いダイブと配信の取れ高を比較しているのだろう。


 明良は、例えここで叶恵が引き返しても何も言わないつもりだった。自分の実力をきちんと把握した上での結論ならばそこに文句はない。


 叶恵はしばらく目を瞑って考え込み、その脚先を地下階段の方に向けた。


「いきましょ! ここで引き下がったら配信者失格だからね!」


『流石www 炎上上等Dライバーは格が違うぜwww』

『炎上姫! 炎上姫! 炎上姫!』

『ギャン泣きするまで帰る訳にはいかないよねえ!』



「炎上姫!? ってかギャン泣きコメント同一人物でしょ!?」



 叶恵は視聴者たちと和気藹々と盛り上がっている。明良は叶恵を眺めながら、ふうんと感心していた。


――コイツのこと嫌いだけど、リスナーからは愛されてるんだな。


 人間としては正直信用できないし、相容れない人種だ。しかし、配信者としては一流なのかもしれないと評価を改めた明良だった。


「じゃ行こっか……炎w上w姫w」


「炎上姫言うなーーーー! てか草生やしてそうな笑い方やめろーーーー!」


 仁は二人を見ながらなんだかんだ仲良くね?とか思ったが、絶対否定されるのが見えていたので口には出さなかった。


――ちなみにコメント欄が盛況だったのは語るまでもなかった。

狙ってるときに限って湧かないんだよなぁ(惨敗)

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