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キル・レコード・マジック ~忘却の英雄は失踪した戦友の真実を追う~  作者: rinoe


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9/13

流通

 一時間後……シェルシュはトルノーの事務所にあるお客様用ソファーに座っていた。トルノーも一緒に来たのだが、彼はは捕まえた子猫を依頼者の元へ引き渡しに行ってしまった。


 一応、淹れたてのお茶や茶菓子なども貰ったが、もう飲み干し、食べ終えてしまった。


 「………」


 本でも持っていたら、この暇な時間も潰せたんだけどな……なんて思いながら彼女は事務所の中を観察する。整理されていない雑多な棚の中、デスクの上にはあらゆる書類が置かれている。まだ出会って数時間の関係だが、トルノーの性格的になんとなくこの状態で放置しているのは想像出来る。


 だというのに、部屋には目立った汚れや埃などはない。それはきっと彼女──この事務所で事務作業を行なっているエニーのおかげなのだろう。


 今でもテキパキと作業を続けている。トルノーとは正反対な性格なのだとそれだけでなんとく分かる。しかし、ずっと書類作業をしているが、この何でも屋という仕事にはそれなりの顧客がいるのだろうか。一体、彼女は何の書類作業を行なっているのだろうか。


 そう思っているとガチャリ、と事務所のドアが開く。


 「ただいま、ちゃんと依頼料も貰ってきたよ〜」


 そう言って、金の入った封筒をぽんとエニーの机に置く。


 「……また私に全てを任せるんですか?」


 「俺に税金やら、手数料やら、そこら辺の計算が出来るわけないだろ?」


 「……まぁ、良いでしょう。それよりもずっとお待たせしてあるお客さんの対応をアナタはするべきでは?」


 「おっとっと、そうだったな」


 ……この人は私の存在を忘れていたのか?


 「すまない、思いの外時間がかかっちゃった。それでシェルシュ、改めて依頼の話を聞くが君の依頼は父の捜索、ということだな」


 「はい、私の出来る事ならなんでもしますから、お願いします!」


 「重い、重いよ。それに今はやるべき事がある」


 「やるべき事……ですか…?」


 「それはあのチンピラ共だ。まずはあいつらをなんとかしないと君は一生、追いかけられ続けることになるぞ。一体、君は何を見てしまったんだ?」


 「……私もよくは分からないんです。ただ──」




 シェルシュは今朝の事を思い出す。


 あの時は、ただ家から『ワイルド・フード』への近道として路地裏を歩いていた。薬物中毒者やアルコール中毒者、あとは薬物の売人といったマフィアとの繋がりのある者たちが闊歩している危険な場所だとは知っていた。しかし、彼女には自衛の手段があった。それに、その時はまだどうにかなるだろうという甘い意識であった。


 そして、彼女は目撃する。


 それは今朝、シェルシュを追っていたあのチンピラ二人と……もう一人、軍の制服を着た何者かと話しているところを。軍服の男の胸には盾と剣が描かれた階級章を身につけていた。


 そして一部分ではあるが、彼らの会話内容を聞いてしまった。


 『例のブツは……?』


 チンピラが制服の男へと尋ねる。


 『用意してある。このメモの書いてある場所へ行け、そこにある。が、それより先にやるべき事があるだろ?テメェら下っ端じゃ話にならない。スルサート本家の者を呼べ。これは互いのための取引だ。分かっているだろ?』


 『分かったが、アンタの言うとおり、俺たちは下っ端だ。俺らが独断で本家の人間を呼ぶ判断は出来ない。まずは俺らの上司、幹部であるエヌフィーと──』


 その時だった。


 『待て』


 その言葉は軍服の男から出た言葉であった。彼の目線は明らかにシェルシュが身を潜めている方向へと向いている。それは迷う事なく、まっすぐと。


 『誰かいるぞ、盗み聞きしているな!!』


 『『なに!?』』


 バレた、まずい!!


 そうして、シェルシュは急いでその場から逃げ去ろうとするのであった。




 「これが……今朝の出来事です」


 それを聞いたトルノー。そして、机で作業しながらも耳を傾けていたのであろう、エニー。この二人は明らかに嫌そうな表情をする。


 「それ……本当ですか?」


 エニーがシェルシュへと尋ねる。


 「え、ええ。軍服の男でした。しかし、軍の人間が関わっているとなるとやはり厄介ですよね……」


 「いや、俺も元々、軍人だからな。裏で軍の支給品なんかを横流しして、小銭を稼いでる奴がいるのは知っている。そういう相手だったら簡単だったんだがな」


 トルノーはため息をつく。


 そこら辺にいる軍人が起こした問題であれば、簡単な話。通報すれば済んだ。無論、軍の人間は身内を庇おうとするかもしれない。だが、こっちは戦争を終わらせた英雄ファイム・トルノーだ。通報を受ければ無視は出来ない。


 だが問題は──


 「本当にその男は盾と剣が描かれたバッヂを……階級章をつけていたんだな?」


 「……はい、それが?」


 「その男……ただの軍人じゃない、騎士だ!」

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