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キル・レコード・マジック ~忘却の英雄は失踪した戦友の真実を追う~  作者: rinoe


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少女の依頼 4

 その頃、一方、ファイム・トルノーはセイムの西区にある自分の事務所へと戻っていた。


 「ただいまぁ〜」


 事務所には一人の女性がデスクに座って事務作業を行っていた。彼女の名前はエニトス・モワリー。知り合いからはエニーと呼ばれており、トルノーから信頼されている。


 「おかえりなさい……ってどうしたんですか、その怪我!?」


 トルノーは先ほど、路地裏へと落ちてきた衝撃であちこちに擦り傷をつけていた。服も少し泥がついている。きっと初めましての人に良い第一印象を与える事は出来ないであろう。


 「ちょっとね、迷子の猫捕獲の依頼受けてたでしょ?それで追いかけている時に怪我を。まぁ、骨は折れてないし、大丈夫だよ。それとも何?俺のこと心配してくれてんの?」


 「心配ですよ!怪我したら働けないでしょ!そしたら誰が稼いでこの事務所回すの!!私の給料は一体、誰が払ってくれるんですか!?」


 「な、なんて冷たい女だ……」


 自分がこんな怪我を負っているというのに、自分ではなく金の心配をしているとは。彼女にとって大事なのは自分ではなく金のようだ。なんて悲しいことだ。


 ズタボロになった心と体を休ませるように、トルノーはソファーへと寝転ぶ。


 「その席、来客用なんですけど」


 「俺が経営している事務所で、俺が用意したソファー、俺が寝ることに誰も文句言わせ無ぇ。それに、今は客もいないし、来る予定もない。だろ?」


 「自分で言ってて悲しくないんですか?」


 確かに今月……というか開業以来、ずっとカツカツの生活だ。依頼は来ない、金は入ってこない。のに、やる気もない。世間は好景気だっていうのに。


 戦争から徴兵された多くの人々が帰ってきた。国内の人手不足が解消され、さらに経済復興を目指して国からの支援があった。戦争の技術が社会に流出し、自動車やラジオといった高級品が庶民が買える値段にまで下がった。生活の質は上がり、物価、人件費は上がって行っている。


 というのに自分は今、戦争で稼ぎ、溜め込んだ金を崩しながら、必死に客の来ない事務所を回している。将来性も、希望も見えない職場である事には間違い無いだろう。


 しかし──


 「そんなお前も、客も来ねぇこの仕事をよく続けるな」


 エニーに出してる給料だって、そんな大した金額じゃない。生活には苦労させてしまっているだろう。


 「だって私がココを出てしまった事を考えてみてください。仕事が来なくなって、道端で餓死してしまうんじゃないですか?そんなの目覚めが悪いし、戦争を終わらせた英雄の最後が餓死って……笑えないですよ」


 エニーは広報活動も行ってくれている。そのおかげで子猫探しが回ってきたんだ。彼女のおかげでカツカツの生活が出来る程度の金が入ってくる。


 「ははっ、ありがとうな。とりあえず、今は少し休ませてくれ。あのすばしっこい猫にはアイデンティファイ・ロケーション・ポイントをしっかり付けておいた。今も位置情報魔術で追えている。休憩したらしっかり捕まえておくよ」


 そう言って、トルノーは目を瞑りながら、肉体に魔力を巡らせ始める。細胞が活性化し、あちこちに出来た擦り傷を癒していく。切れた筋繊維は修復し、血管は繋がる。出血は止まり、みるみると傷口が塞がっていく。詠唱もない、魔法陣もない下級レベルの治癒魔術。しかし、トルノーが負った程度の傷ならこうやって簡単に治すことが出来る。


 痛みが引いていき、心音が落ち着いていく。このままゆっくりと深い場所へ、夢の世界へと行ってしまいそうだが、どうせまたあの悪夢を見るだけだ。ふぅー、と深呼吸し、目を開ける。


 子猫の位置は把握している。東区の方だ。


 「ちっ……また嫌な場所へと逃げ込んでるな」


 東区はこの街の中で治安の悪い場所だ。


 無論、東区全体が悪いわけではない。普通の生活を送っている者も多いし、大通りの方では警察官がパトロールをしている。しかし、路地裏や人気のない場所になると途端に世界が変わる。


 薬物依存者にアルコール中毒者はまだ良い方だ。マフィアやギャングといった奴らの縄張り争い、闇取引、噂じゃあ政治家や警察の賄賂受け渡しさえやっているという。


 仕事でもない限り、そんな場所へ行きたい奴はいないだろう。


 「んじゃ、体が無事に休まったし、とっとと捕まえてくるわ」


 そういって、上半身を起こす。


 少しとはいえ、横になっていたからか。ボサボサになった髪型を少し整え、立ち上がろうとした時、ふと、とあることを思い出す。


 「あぁ、そういえば猫追っかけている時にチンピラに出会ったんだが、そいつら、見慣れない武器を持っててな。なんと魔力回路が仕込まれている拳銃だった。何か匂わないか?」


 魔力伝導率の高い魔鉱石で作られた弾丸に魔力を込める事はあっても、拳銃そのものに魔力を込めることはない。なのに、チンピラの持っていた拳銃は魔力を送り込むための魔力回路が仕込まれている。


 やはり、聞いたことのない武器だ。きっと表では出回っていない代物だ。


 「……確かに妙ですね。少しこちらでも情報を探ってみます」


 「んじゃあ、任せたぜ」


 そうして、トルノーは再び子猫探しへと向かうのであった。

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