取引
その頃、北方において広大な土地を持つエルフ単一族国家、セレシアでは──
「ダルシェントに比べて、やっぱり寒いな」
そう言いながら、白い息を出しているのはフェルフェットであった。『寒い』と文句を言いつつも、彼の表情は少し嬉しそうだ。やはり、生まれ育った故郷というのは、どんな苦しい環境でも心と体に染み付き、安心出来るものになってしまっているのだろう。
彼はコツコツ、と歩いている。その場所は暗く、狭い廊下。一体、何処か分からないが、予定がなければ、近づきたくもないほど寂しい場所であった。そして、その廊下の突き当たりにあるドアを開けて、広がるその場所は──
「待っていたよ、お疲れ様」
廊下に比べ、そこはかなり明るく、また生活感の溢れた部屋であった。きっと火の光ではないのだろう。天井全体が明るく輝いている。きっと魔術によるものだろうか?また、高価そうな絨毯に、ふかふかのクッションがついた椅子。
そして、その椅子に座り、フェルフェットへ声かけたのは一人の女性であった。彼女もまた、エルフなのだろう。耳が尖っており、ただの人族ではないのが分かる。見た目は若そうに見えるが、他種族よりも寿命が長いエルフだ。きっと本当は百歳は超えているのかもしれない。
「例のブツは?」
その女性の言葉にフェルフェットは指をパチン、と鳴らす。すると、空間に真っ黒い穴が空き、そこへ手を伸ばす。そして、彼が取り出してきたのは一本の杖。巨大な樹木の枝で編み込まれたような、古から伝わる杖と肌で感じるもの。そんな杖の先には複数の明るく、強く、煌めく宝石が埋め込まれていた。そう、プロディギィウム・セプトルムであった。
「よくやった、上出来だ!」
軽い労いの言葉と共に、プロディギウム・セプトルを手に取る。
「おいおい、こっちは頑張ったんだぞ。そんな軽い言葉で済ませるな。ダルシェントに侵入して、警備網を突破して、英雄トルノーと戦って……ちッ!予定にないことばかりで大変だったんだぞ!」
「あぁ、分かってる。なぜか情報が漏れていたりと大変だったもんな。報酬は予定額よりも大幅にはずませてやろうじゃないか」
その言葉を聞いてフェルフェットの表情が少しゆるむ。が、すぐに意識を切り替える。報酬をもらうまで任務は終わらない。現在進行形で任務は進んでいる。
「さて、報酬は手渡しが良いんだろう?」
「あぁ、金が用意出来なければ、依頼料に相当する物品だって良いんだぜ?っても、アンタほどの相手であれば、金に問題ないだろうな……スパルーヴァ・ノルコフ少将閣下」
スパルーヴァ・ノルコフ。かつての戦争において、あらゆる戦術、戦法を用いてダルシェントを苦しめた。まさに鬼才の戦略家。彼女であれば、どんな駒を与えられても負けることはないという。




