トランスポーター 20
「……さて」
フェルフェットはトルノーの体を蹴り、完全に意識がなくなったのを確認する。そして、なんとトルノーの体に治癒魔術をかけ始める。
「はぁ……無駄な殺しはしたくないとはいえ、俺は何をやってるんだか」
あの戦争で自分の国……セレシアは敗戦国になった。全ての罪はエルフ族になすりつけられ、いくつもの人間が戦犯として処刑された。まさに戦争後から我々、セレシアの国民、屈辱を与えられ続けてきた。だからこそ、他国の……特にダルシェントの人間なんて、心の底から憎んでいる。
というのに、無駄な殺しはしたくない。
自分でも矛盾していると思っていることだ。だが、あの戦争は苦しく、冷たいものだった。だからこそ、もう人は殺したくはない。だというのに、彼らの事を殺したいほど憎んでいる。
「……はぁ、めんどうな事を考えるのはやめだ」
とりあえず、トルノーの出血は止めた。自分は医者じゃない。今やったのは治癒魔術で細胞の治癒能力を底上げし、出て行った赤血球の量も増やしただけ。肺に溜まった血液はそのままだし、とにかく血がこれ以上、出ないようにしただけだ。
「無事に生きれるかどうかは、お前の精神と肉体……それと運次第だな」
そう言ってフェルフェットは進んでいく、自分がここに来た目的を果たすため……。
「神代の遺物の回収……それを成せれば──」
そうしてフェルフェットはこの白く、広大な空間を歩いていくのであった。
数時間後──
魔術連合支部では多くの負傷者、死体が見つかり、大騒ぎになった。警察関係者はもちろん、マスコミなども何処からか、情報をかけつけてまさに魑魅魍魎のようにひしめき合っていた。
一体、誰が行ったものなのか?魔術学連合支部が襲撃された理由は?今まで公になっていなかったことが少しずつ、漏れ出ては世間に色んな噂を広げていく。
そして……
「……ッ!」
トルノーは眼を覚ます。
そこは白を基調とした、簡易的な部屋。今は昼過ぎだろうか、ベッドのそばにある窓からは暖かい日差しが流れ込む。眩しいが、心地良くもある。
起きたばっかりだからだろう、記憶は曖昧で、少し混乱している。だが、ここが病院であると言うのはなんとなくだが分かる。というか、こういうのは別に初めてではない。戦場にいた時、このようなことは何度もあった。気がつけば野戦病院。痛みと苦しみで鬱屈とした雰囲気が流れるあの場所は──
「そう考えると、今の状況はかなりマシだな」
トルノーは再び瞼を閉じ、寝ようとする。まだ疲れが残っているのかもしれない。そう思い、怠惰になろうとしていたその時──
「おいおい、もう意識が戻ったのか」
ガラリ、とドアを開けて部屋に入ってきたのはアイノ警部であった。抱えている紙袋からは果物が見える。もしかしたら、お見舞い品なのだろうか。
「さすがは英雄ファイム・トルノーだ。あれからまだ十時間しか経ってないって言うのに」
そう言って、ベッドの近くにあった椅子に彼は腰掛ける。




