トランスポーター 19
フェルフェットはだらり、と体をだるそうにしながらも、必死に起き上がる。
「はは……面白い想像力だな。ったく、さすがは英雄ファイム・トルノーだ」
こればっかりはもう強がってもいられない。トルノーは見事、自分の能力を暴き、ここまで追い詰めたのだ。固有技能頼りの男ではないらしい。
だが、まだ自分は立っている。
意識は残っている。
戦う余力も、全身の火傷による痛みで思考も鈍いが……終わりじゃない。
「おいおい、もうそこまでにしたらどうだ?これ以上やっても、お前が死ぬかもしれないだけだぞ?」
「はははっ、そうかもな。だが、まだ俺にも隠し手はあるんだよ」
フェルフェットは両手に魔力を集め、詠唱を開始する。
「固有具現化、開始」
そう言うと、彼の魔力はどんどん練られ、剣の形へと変化していく。
「固有具現化!?まさか、そこまでの魔術師だったとは……!」
すぐさまトルノーは脚に力を入れ、フェルフェットとの距離を詰め始める。弱っている相手に追撃入れるのは心苦しいが……仕方がない。現代の医療技術と治癒魔術を利用すれば、手首、足首を切断してもすぐにくっつけられる。とにかく、今はもう抵抗できない状態へと──
その時だった。
「うッ……!?」
背中に鋭い痛みが伝わり、どんどんそれは体内へと侵入していく。そして、その痛みは心臓まで到達し、トルノーに致命傷を与える。
「はぁ……俺の固有具現化に気を取られたな………、だが、油断してくれて助かったよ」
トルノーに襲いかかってきたモノ……それは先ほど、フェルフェットと戦っていたシェルシュが使っていた神代の遺物。あの自動追従するナイフであった。
まさに無防備、予想外の所からの攻撃でトルノーは倒れ込む。「ごほっ!ごほっ!」と口から血液が飛び出してくる。肺にも血液が流れ込み、呼吸するだけで苦しくなっていく。
「いざとなった時のために一本、拝借しといてよかった」
「ぁ……っ……!」
トルノーは体を動かそうとする。が、力が入らない。呼吸もできない。どんどん体が冷たくなってきているのが分かる。早く、傷を塞いで……血が出ていくのを………止めな…………い、と。
「おいおい、無茶するなよ。それ以上、動くと本当に死んじまうぞ?」
死ぬ……そうか、俺はここで死ぬのか。
ようやく、俺も地獄にいけるの……か。
トルノーはそのような事を考えながらも、力を振り絞り、立ち上がる。しかし、とうとう体をめぐる血液量、細胞を動かす酸素量が足りなくなり、トルノーはばたり、と倒れて意識を失ってしまうのであった。




