トランスポーター 13
シェルシュは飛ばされた勢いでそのままゴロゴロと床を転がる。その数秒後、彼女は痛いお腹を右手で押さえながらも、必死に立ち上がろうとする。
「無茶するなよ。俺も女の子をいたぶる趣味はないんだから」
フェルフェットはどうやら見逃してくれそうだ。このままシェルシュは背中を向けて逃げたとしても、彼が追撃して来ることはないだろう。しかし、彼女はこんな所で諦めたりはしない。
「はぁ……はぁ……、だから、なに?」
シェルシュは空いた左手でナイフを持ち、ふらふらとおぼつかない脚でフェルフェットとの距離を詰め始める。息も絶え絶え。体をめぐる酸素量が圧倒的に足りていない。というのに、彼女に瞳の奥に宿るその強い意思は──
その姿を見て、「はぁ…」とため息をつきながらフェルフェットは再び右手に魔力を纏わせる。
「動きとしては半人前以下だが、どうやら根性と気概だけは一人前のようだな。仕方ない。あまり女の子の顔にダメージは入れたくないんだけど……次は顔だ」
腹部や胴体に比べ、顔の痛覚は鋭い。目や鼻、口と言った重要な器官が多く、他の部位に比べて神経などが集中しているからだ。相手を怯ませる、意識を奪うのであれば、顔にダメージを与えるのが常套だ。
コツ、コツ、とゆっくりフェルフェットはシェルシュへと近づいていく。それは彼女を戦闘不能にさせるために。
「はぁ……はぁ……まだ、私にはコレもある!!」
そう言って彼女は右手をお腹から離し、ポケットから取り出したのは新たなナイフ。彼女はそれをフェルフェットに向けて投げ放つ。それらのナイフは弧を描くように、歪みながらも再び彼を追跡するように進んでいく。それに対し、フェルフェットが取った行動は──
「ほいっと」
それは避けるでもない。
防ぐでもない。
「目が慣れれば楽だね」
なんと、彼はナイフをキャッチして見せるのであった。
「嘘……でしょ?」
「まぁ、普通なら難しいわな。俺自身、やってみるまで出来るかどうか分からなかったが……やってみれば簡単だったな。しかし、これ、神代の遺物か?最初は魔具か、魔術で操作しているもんだと思ったが……これ、オート操作だろ?そんな状態で複数のナイフを操作出来るほど脳に余力が残っているとは思えんしな」
現代における魔術戦というものは魔力が重要視されがちだ。今の時代、誰でも簡単に魔術の知識が手に入るし、魔具だって増えた。故に魔力量、魔力の消費量、魔力の必要量……それらを計算し、常に意識することを最初に教えられる。
しかし、上澄の兵士になっていけばいくほど、魔力の量はさほど重要ではなくなってくる。そして、本当に重要になってくるのは『脳の余力』になる。
どれだけ魔術を維持、展開出来るか、体を動かせる余力は残っているのか、それらが重要になってくる。
「しかし、人の意思を介さず、勝手に動く武器か。面白い」
フェルフェットの意識がシェルシュからナイフへと向く。それはもう彼女を警戒する必要はない、戦いは終わったのだと、いうかのように。
「ま、まだ終わって──」
彼女はまだ諦めず、立ち向かおうとするのだが。
「いいや、終わりだ!光る部分もあったけど、戦い方も、ナイフの扱い方も……まだまだ!」
そう言ってフェルフェットは宣言通り、容赦無く顔面に一髪、入れ込むのであった。




