トランスポーター 10
あの兵士たちはプロのようだ。もしかしたら、西方戦争上がりの兵士なのかもしれない。しかし、フェルフェットが一番気にしている点はそこではなかった。
「トルノーがいないな……」
自分と同じ、魔術名持ちのファイム・トルノー。実際に会ったことはないが、かなりのやり手であるとは聞いていた。きっと互角か、それ以上──
それほどの相手であれば、一目見れば分かるはず。だが、奴はまだ出てきていない。それが最も怖い所だ。一番、把握しておかないといけない相手が見えないというのは、恐怖以外の何物でもない。
(まさか、シェルシュはこの件に本当に関係なかったのか?別件でここに来ていただけ?いや、こちらの油断を誘っているだけか?)
分からない。
だが、ここでずっと考え続けたってしょうがない。
「行くっきゃないか」
そういって、彼は次の場所へ移動を開始する。のだが──
「出現確認!発射!!」
彼の目の前には銃を構えている兵士たちがいた。
「マジかよ、さすがはプロ!!」
敵ながらあっぱれ、としかいうほかない。ここまで動きが読んで動くとは。だが、彼らは一つ、読めていないことがあった。それは──
「ァッ!」
「痛ッ!!」
「ち…ち、くしょう……何が…起きて」
次の瞬間、兵士たちは切断されていた。
手首が斬れた者もいれば、足や胴体ごと真っ二つになっていたりと、それは悲惨な光景であった。
「くそ……思わず人まで切断しちまった…………」
フェルフェットは思わずつぶやいてしまう。
そう、彼らが読めていなかったのは、彼の実力を圧倒的に見誤っていたことであった。
フェルフェットの足元まで押し寄せてくるのは兵士の莫大な血液。それと共に空気を通して鼻に香ってくるのは気持ち悪く、嫌だった、あの懐かしい匂い。
彼の頭の中でかつての戦場が思い浮かぶ。
敵味方死んでいく、あの光景が──
「ふん、何を感傷に浸ってるんだ、俺は」
フェルフェットは倒した兵士たちを無視し、歩き始める。彼が踏んだ地面には赤い足跡が残っていく。
「時代は変わったが、まだ終わっちゃいない。俺たちはまだ……負けてないんだ」
そう言い捨て、彼は再びテレポートし、移動を再開する。度も、何度もテレポートし、目的地へと向かっていく。視界ががらり、と変わっていく中、彼は到着する。
そこは十三号棟、玄関前。
『対象が到着!構え、構え!』
十三号棟を守るように、兵士たちが彼の前へ出る。
「しっかり連携が取れてるな、優秀な兵士たちだ。安心しろよ、今度は殺さず、ちゃんとお前たちを無力化してやるからな!」
そうフェルフェットが叫んだ瞬間だった。
兵士たちの銃が全てバラバラに崩れ去っていく。
それだけではない。
急に腕と脚に力が入らなくなり、その場で倒れていく。
「な、何が……?」
「か、体が、うごかねぇ」
困惑する兵士を他所にフェルフェットは進んでいく。
「だから言ったろ?殺しはしないってな。脚と腕の腱を切っただけだ。一ヶ月後にはちゃんと日常生活が送れる程度にはしといたから、安心して倒れとけよ〜」
そう言って、十三号棟へと悠々と入っていく。




