トランスポーター 6
シェルシュはエルフの青年の言葉に深く考え込んでしまう。
私は何かを成し遂げることができるのだろうか?
世の中に生きる人々のほとんどは生きることに精一杯だ。法律を守り、今の生活を守り、家族、友人の平穏を守る。それだけで充分。そして、その生き方もまた、素晴らしいことなのだろう。
だが、シェルシュの周りにいる人間は違う。
父のように軍人として国を守る、ストールトンのように騎士団の団長として王や民のために戦う、トルノーのように戦争を終わらせた英雄……。
何かを成そうとし、確実に栄光を積み上げている。
私もまた、彼らのように何かを成し遂げる事は出来るのだろうか。
「まぁ、今はまだ夢はなくてもいいさ。私だって、将来どうなっているかなんて分からない。今も、昔も……後悔してばかりさ」
シェルシュはエルフの青年の顔を覗き込む。
彼の表情は悲しそうで、何かを悔いているようであった。
彼の過去がどんなものなのか、分からない。だが、人間の三倍は生きるエルフだからこそ、抱える苦悩やストレスも人間の三倍なのかもしれない。
「そういえば、アナタはエルフですよね?どうしてここに?」
「あぁ、私は仕事の下見に来ていただけなんだ。ほら、エルフって言えば魔術なところもあるだろ?」
エルフの肉体は他の種族に比べ、魔力量を多く生成することができる。
細胞やDNAと言った部分によるものだったか……専門家じゃないためあまり詳しくないが、本来であれば肉体が崩壊するであろう許容量以上の魔力量を纏っても、エルフの肉体はそれに耐えられる。だからこそ、多少燃費の悪い魔術、魔法陣であっても、エルフは魔力量を気にすることなく魔術が使える。
そういう点から、昔からエルフイコール魔術というイメージがあった。しかし、近年では魔術学の研究が進み、魔術が普及した結果、エルフ以外の種族でも魔術を扱いやすくなったため、そのイメージは払拭されつつある。
とはいえ、だ。エルフの肉体構造的に他種族よりも魔術が扱える事には変わりはない。きっと彼は魔術の勉強のためにここへ来たのだろう。
「それで、シェルシュ。ウォルモース家の君はどうしてここに?魔術学を勉強するなら、もっといい場所があるだろう?どんだけ学費が上がろうとも、君の家であれば払えるはずだ」
「私は勉強のために来たわけじゃありません。私もちょっと仕事で……」
「仕事、か。どんな?」
うーん、かなり難しい話だ。
ここに有名な元セレシア兵であるフェルフェットが来るから、警備のために来ました!なんて言えるわけがない。そもそも、この件は世間に公開されていない秘匿情報だ。べらべらと喋るわけにはいかない。
「えーっと……まぁ、実験のお手伝い?的な。まぁ、私一人はなくて、もう一人、手伝ってくれる人がいるんですけど……そのぉ」
自分でも言ってて思うんだが、嘘が下手じゃないか?
いや!急に来るとは思っていなかった質問だから仕方がない。事前に考える時間があれば、もっとマシな嘘がつけたはずだ。そうに違いない。
「もう一人?その人もウォルモース家の人かい?」
「いいや、その人はトルノーと言って──」
「トルノー!?あの伝説の英雄、戦争を終わらせたファイム・トルノーか!!」
エルフの青年はかなり驚いた様子であった。
「うわぁ……まじか。会えるならサイン欲しかったな」
どうやら、かなり大ファンの方のようだ。もう少し早く彼のことを教えておいた方が良かったのかもしれない。だったら先に支部を出たトルノーに追いつけたかもしれないのに。
「まじかよ、まじかよ!くそっ!!」
「そ、そんなに悔しがらなくても……」
「そ、そうだな。またの機会にしよう。とりあえず今日はここまでだな」
エルフの青年は立ち上がる。
「シェルシュ……君がどんな人か、少し分かった気がする。ウォルモース家の人間だから、遠い世界の人のように感じていたけど、君も一人の人間なんだね。それじゃ、ありがとう」
そう言って、青年は彼女の前から立ち去るのであった。




