トランスポーター 4
ジェイニルが止まったドアには『神代の遺物第三保管庫』とネームプレートに書かれていた。どうやらこの中にあるモノが今回の件で狙われているようだ。
「少し待っててください」
ジェイニルはそう言った瞬間、両手に魔力を込める。すると、ドアの前に魔法陣が出現する。彼も魔力で空中に魔法陣を描き、出現した魔法陣をピッタリ重ねていく。
かなり珍しい方式だが、トルノーは知っていた。これは法陣照合式というものだ。
数千年前に開発された、結界の行き来を行う方法だ。まぁ、分かりやすく説明するのであれば、鍵と鍵穴という風に考えてもらって構わない。鍵穴に合う鍵を差す。これを魔法陣で行っているだけだ。出現した魔法陣に、事前に教えてもらった正しい魔法陣を描き、合わせて結界を開ける。
本当に魔術の教科書に載っているレベルの、石器時代の方式だ。
「さぁ、空きましたよ、どうぞ中へ」
そう言って、ドアを開け、二人に中へ入るように勧める。それに二人は何も思わず、そのまま入っていくのだが……。
「「!?」」
部屋の中へ一歩、足を踏み込めた瞬間、視界が歪み、自身の体がまるでゴムのように伸び縮むした感覚に襲われる。ぐわんぐわんと気持ち悪いほど世界が狂って数秒後、周囲を見渡すと、そこはありえない景色であった。
「おいおい、これも神代の技術ってやつかよ……」
そこは真っ白な世界が広がっていた。天井も、壁もない。何処まで見ても、真っ白な空間がだだっ広い世界がそこにはあった。そして、そんな広い空間を活用するかのように、棚が置かれ、そこに剣や杖が置かれている。……いいや、それだけじゃない。美術館に設置されていてもおかしくないようなモニュメントに、巨大な大砲と言った兵器まである。
「ここが第三保管室……ここ魔術学連合の中で最も理解できず、解析すら不可能で匙投げられた神代の遺物が保管されている場所になります」
遅れて入ってきたジェイニルが困惑する二人に説明を行う。
「この真っ白な世界も神代の技術ってやつか……?」
「はい、この倉庫内にある水晶の力でこの空間を展開しています」
「魔力の維持費とか大変そうだな」
基本、魔力は魂から生成されるものだ。常に展開されている結界などは周辺にいる人や生き物から少しずつ刈り取って維持されているという。しかし、これほどの規模の術となれば、必要な魔力は想像もつかない。
「いいえ、水晶から無限にエネルギーが湧き出てくるので、ほぼ無料の空間ですね」
……さすがは神代の遺物、トルノーの常識をあっという間に超えてくる。いや、まぁ……エヌフィーが使っていたあの剣も、魂がないというのに魔力を発生させていたのだが。しかし、無限に湧き出てくるとは。神代というのは熱力学すら覆してしまうというのか。
「それで?この中で一体、何が狙われているんですか?」
ようやく状況を飲み込み、整理し切って落ち着いたシェルシュがジェイニルに尋ねる。
「この倉庫の奥にある一つの杖です」
そう言って彼はパチン、と指を鳴らす。すると、トルノー達の視界が再び歪み始める。周囲のものが光の線となって伸び、どんどん後方へと置き去られていく。これじゃあまるで、自分たちが光の速度で前へ進んでいるかのような感覚になる。
「これです」
そうして、いつのまにかジェイニルが両手に持っていたのは大きな杖。巨大な樹木の枝で編み込まれたような、古から伝わる杖と肌で感じるものであった。そんな杖の先には複数の明るく、強く、煌めく宝石が埋め込まれていた。
「これはプロディギィウム・セプトルムと呼ばれる杖です。かつてこの地にいたとされる戦神が持っていたとされる杖で、一振りで大地が割れ、掲げれば雷が落ち、払えば炎が降りかかる、と呼ばれるほどの力を持っていたとされる神代の遺物です。今は出力は落ちていて、神話で語られるほどの威力は出ませんが、それでも現代兵器以上の火力が出る禁忌の杖です。持ってみます?」
ジェイニルは杖をトルノーへ向けるのだが、すぐさまトルノーはビクビクしながら「そ、そんなぶっそうなモノを人に向けるな!」と叫ぶ。予想以上のビビり具合に「はははっ」と笑いながら、杖をぽいっと、まるでゴミでも捨てるかのように投げ捨てる。
しかし、杖は意思を持っているかのように地面スレスレで浮かび上がり、そのまま真っ白な世界の奥へと飛んでいくのであった。
「さて、ここまでで、質問がなければ案内、説明はここまで。この件、お二人にお任せしますよ」
ジェイニルは深々と頭を下げながら、トルノーたちにお願いするのであった。




