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キル・レコード・マジック ~忘却の英雄は失踪した戦友の真実を追う~  作者: rinoe


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トランスポーター

 あれから二週間後……。


 あの騒ぎが嘘だったかのようにシェルシュの生活には安寧が戻っていた。ガラの悪い連中に追いかけられることはなくなり、悠々と街中を歩くことが出来る。


 それも、トルノーの助力があってのことだ。


 彼には感謝しないといけない。今までも……そしてこれからも、だ。


 そう……感謝しないといけないのだが──




 「式が間違ってんだろ!?ここはネルトム法を使って求めるんだよ!!」


 そう言いながら、トルノーはノートに数式を書き、求まった解から魔法陣を描く。


 そう、シェルシュは事務所の机の上で魔術の勉強をさせられているのであった。ここ二週間で凄まじいレベルの知識と技術を叩きこまれているのだが……。昔から学校は苦手だった。教師という存在が好きになれなかった。そして改めて理解する。相手が英雄と呼ばれ、憧れを抱く者であっても、やはり先生という存在は好きになれるモノではないらしい。


 「あ、あのう……ここまで身に着ける必要ってあるんですか?」


 パンクしそうな頭を抱えながら、シェルシュは尋ねる。


 「当たり前だろう、自分の身は自分で守れるぐらいになってもらわないとな。だって君の命はまだ狙わているのだからね。スルサート家の件が終わったわけじゃない。それに今後、君のお父さん……ウォリスさんの捜索だって、どうなるか分からないのだから」


 二週間ほど経ち、トルノーは自身が使えるあらゆる情報網を用いて彼の情報を収集している。のだが、やはり一切、出てこない。だからこそ、見えてくるものだってある。


 (人が突如として消える、なんて事はありえない。であれば、ウォリスさんは何処へ行ったのか……これほどまでに彼の情報を消し去ることが出来る、完璧な情報統制を行える組織が関わっていると考えるべきだろう)


 それこそ、バックに国と言った大きな組織であってもおかしくはない。


 ウォリス・ウォルモースはこの国で最も力のあるウォルモース家出身でありながらも、不正や犯罪に対しても厳しい人だった。それは同じ貴族相手であっても、政治家であっても、彼は常に国の裏に巣食う

闇を排除しようと行動していた。


 そんな人だったからこそ、何処で、どんな目に合っていてもおかしくはない。


 (だからこそ、あの人の娘であるシェルシュだって、危険な場面に遭遇してしまうかもしれない。俺が四六時中見守るわけにはいかないし……少しでも強くなって貰わないとな)


 そう思いながら、ちらり、とシェルシュが書いている計算式を見る。


 「だからそこは引くんじゃなくて割るんだよ!!じゃないと変換すべき魔力量と変換後のエネルギー量にズレが生じるだろう!?」


 「ひ、ひえええ〜〜〜!」


 ゴシゴシと必死に消しゴムで書き直し、計算をしなおすシェルシュ。


 一応、下級魔術師の資格まで取っているとは聞いていたが……本当に『一応』レベルだったとは。中級まで取ってようやく実践で使えるかどうか、だ。そこまで彼女には這い上がって欲しい所だが。


 「まぁまぁ、勉強を初めて二時間、そろそろ休憩したらどうですか?」


 そう言って、エニーはトレーを運んでくる。トレーの上には美味しそうな茶菓子と淹れたての紅茶が入ったカップがあった。


 「うわぁ!ありがとうございます!!」


 そう言ってシェルシュは勉強していたノートを閉じ、お菓子とお茶を美味しそうに食べ始める。


 「あのー……俺の分は?」


 「アナタにはいらないでしょ?彼女は取引相手ですよ、この店の貴重な収入源です。これぐらいのおもてなしは必要です」


 「いやいや、オレ、オマエのジョウシ」


 「ダカラ、ナニ?」


 そう言って、エニーは再び自分のデスクへと戻ると書類作業を始めるのであった。


 なんて不幸だ!上司の機嫌取りも出来ない部下を持って……くそっ!


 うるうると涙を流しながら、現実逃避していると、事務所のドアがガチャリ、と開く。


 「よぉ、久しぶりだな、ファイム・トルノー。相変わらずしけた場所だな」


 そう言って入ってきたのはスーツを着た男であった。エニーは顔を上げ、男を確認するとすぐに立ち上がり、再びお客様ようの茶菓子とお茶の準備を始める。


 「おぉ、警部、半年ぶりぐらいだな。また警察じゃあ手に追えない案件か?」


 「そうだな、まぁ立ち話も何だ。ゆっくり、座りながら話でもさせてくれや」


 そう言って、男は大きな封筒を取り出すのであった。

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