束の間の休息
次の日の朝……。
シェルシュは今日も『ワイルド・フード』にて朝食を食べていた。
やはりテーブルの上に乗っているのはハンバーガーやポテトと言ったファストフード。近年では健康面で悪いと言うのは聞いているが、やはり安くて美味しいものはそう簡単に止めれない。
そう思いながら、今日の幸せを頬張っていると、からんからん、というベルの音と共に出入り口のドアが開く。新たにこの店に入ってきたのは──
「おっ、奇遇だな」
ファイム・トルノーであった。
「んん!ん、んんん!!」
バンズと肉でいっぱいになっている口の中をもごもごと必死に動かすが、声にならない。
「食いながらしゃべるな。良いトコ育ちのお嬢様がすることじゃない……って、そもそもどうしてこんなチェーン店で飯食ってるんだ。金はいっぱいあるんだろう?」
あのウォルモース家だ。貴族、政治、軍、あちこちに幅を利かせているあの家出身のシェルシュがお金を持っていないという事はあまり考えられないものなのだが──
シェルシュはようやくゴクリ、と口の中のものを飲み込み、トルノーの質問に答える。
「私は家の中では最も発言力も、権力もない存在ですよ。当主の娘というだけのこと。何も築けていないし、何も生み出せていない。そんな私がお金持っているわけないじゃないですか」
「あー……たしかにな」
よくよく考えてみれば、そうだ。
ウォリスさんは優しく、常識人であると同時に、自分にも、他人にも厳しい人だった。自分の可愛い娘だからと言って、力のあるウォルモース家に頼って生きていくという事はさせないだろう。しっかり自分の足で立ち上がり、歩いていける教育をしてきたのだろう。
「一応、貯金はありますけど、トルノーさんへの依頼料で吹っ飛ぶ程度ですよ」
「……お、おう…ごめん」
シェルシュとは一応、契約の関係だ。しっかりお金をもらって、責任を持って、全力でウォリス・ウォルモースを捜索する約束をしているだけだ。そこに何の問題もなく、また彼女が決めたことなのでトルノーに悪い点は何処にもないのだが……。
やはり未成年の少女からお金をむしり取る事に罪悪感が芽生えるというものだ。先ほどの話を聞けばなおさら、だ。何度も言うが、自分には一切、悪い点はないのだが。
ないのだが!!
「……ですが、本当に私の父は見つかるのでしょうか」
彼女はぽつり、と呟く。
昨日の夜、自宅に戻ったトルノーも軽く過去の新聞からある程度、情報を集めていた。それで分かったのはウォリスは一年前に行方不明になり、それから一切、情報がないということだけ。最後の目撃情報はウォルモース家を出ていくの家政婦が見送ったという、本当に何処へ向かったのか、何が起こったのか、彼は一体、どうなってしまったのかも分からない状態。
トルノーもこんな事件、初めてだ。
一体、何から手をつければ良いかも分からない。
しかし──
「安心しろ、一度受けた依頼は必ず遂行する。俺の店は顧客満足度ナンバーワンの店だ!」
トルノーそう豪語する。
シェルシュはその姿を見て、安堵する。
昨日はトルノーの想像もしていなかった一面を見る事になったものの、やはり彼の実力は本物。実際に倉庫で拉致された時は助けてもらったし、ストールトンやエヌフィーの関係から本当に信用されていたのだな、と実感した。
「えぇ、改めてお願いします。私の父を!ウォリスを!見つけてくだい!」
「おお、任せろ!」
こうしてトルノーとシェルシュは同じ道を歩む事を誓うのであった。
……それが長く、修羅の道であるということを知らずに。




