流通 6
こうしてトルノーが訪れたのはセイムの東区のはずれ……シェルシュを助けたあの倉庫の近くを歩いていた。きっと偶然などではなく、きっとこの辺りはスルサート家の縄張りなのだろう。
もう既に周囲は暗く、かなり嫌な気配があちこちからしてくる。治安が悪い場所だとは知っていたが、昼間と夜でこれほどまでに変わって来るとは……。
きっと一人で歩いていれば、襲われていた事だろう。
「安心しろ、俺たちがいる限り、襲われる事はない。この辺りはエヌフィーが管轄している地区でな。俺たちに手を出せばどうなるか、馬鹿でも理解しているんだよ」
トルノーの考えている事を察したのか、男の一人がそのように述べる。
「アンタらはやはりおっかないな、マフィアと関わるのは今日限りにしたいよ」
「はははっ、この場で最も恐ろしいのはアンタだろうが!アンタは忘れているのかもしれないが、俺たちは五年前の戦争でアンタの戦いを見てるんだぜ!」
男たちはそう言って笑い飛ばす。
なるほど、何処かで見た事あるような気がするなと思えば、エヌフィーの部隊に配属されていた奴らか。他のチンピラと違って『兄貴』とか、『さん』を付けていなかったっていうのは、エヌフィーと長い付き合いだからなのだろう。
「よし、着いたぞ。ここが俺たちのアジトだ」
そうして目の前にあるのは、またもや倉庫であった。しかし、シェルシュが捕まっていた倉庫と違うのはより大きく、何百……いや、下手したら千人も入るかもしれないほど規模の大きい倉庫であるということだ。さらに、多くの人員が周囲を警備している。また倉庫の中にもかなり人の気配を感じる。
周囲の警備は男たちを見ると深くお辞儀をし、倉庫のドアを開ける。
「さて、行くぞ」
トルノーたちは倉庫の中に入る。
そうして最初に目の前に入ってきたのは──
「……スピークイージーか」
派手な光、騒ぐ人々、流れる音楽……いわゆりナイトクラブというものか。しかし、スルサート家がこのような場所で経営する場所がまともな酒場なわけがない。
「ここじゃあ薬物と人身売買を行っている。路地裏でラリってる連中と一緒にするなよ。成金、元貴族、政治家……俺たちより悪い奴らが集まっている。まっ、あまり気にしないことだ」
確かに権力者とはあまり関わりたくはない。既にあの戦争で騎士や貴族、軍上層部の奴らで苦しい思いをした。これ以上、嫌な目には会いたくない。
まっすぐ、前だけ見て、案内してくれる男たちの後ろをついていく。それでも端から見えて来るのは、目が変な方向を向いている人々。値札を首から下げた、裸の女性。もしも目を瞑って前を歩けるものなら、そうしたいものだ。
そうしてどんどん奥へと入っていくと、そこにはエレベーターがあった。
エレベーターには六階までのボタンがあり、男たちは最上階の六のボタンを押そうとする。が、トルノーは「階段はないか?」と提案をする。
エレベーターは密室だ。逃げ場がなく、戦闘になれば圧倒的に不利だ。そのうえ、この男たちはこれまで戦ってきたチンピラとは違う。あの戦場を生き抜いた強者、場所と条件さえ揃えれば、トルノーを倒すことも不可能ではないだろう。
六階までキツいかもしれないが、ここは警戒して階段で行くべきだ。
トルノーの考えを察したのか、男たちは「良いだろう」と了承する。
本当はめんどくさいので男たちも階段を使いたいのかもしれない。が、トルノーに対して敵意や悪意などはない事を証明したのかもしれない。彼らは無言でカツカツ、と階段を登り始める。
そうして軽く息切れしながら六階へ辿り着く。
六階もかなり広い。が、一階と違い、棚が並び、木箱が積まれている事からここは本来の用途である倉庫として使われているのが分かる。
(シェルシュの捕まった場所は薬物を取り扱っていたようだが、ここは違うようだな。あんな甘ったる匂いはしてこない。しかし、無臭ってわけじゃない。これは──)
懐かしくも、嫌な匂い。
二度と嗅ぎたくないと感じる、この匂いは──
(鉄と硝煙……武器や魔具の取引場ってとこかな)
そのように考えている最中、ようやく目的地へと到着したようだ。男たちは奥にあった部屋の前で止まる。ドアには『管理者部屋』と彫られている。
男たちは律儀にコンコン、とノックをして告げる。
「ファイム・トルノーを連れてきました」
『よくやった、入ってきてくれ』
ガチャリ、とドアノブを回し、男たちはトルノーに中へ入るように促すのであった。




