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キル・レコード・マジック ~忘却の英雄は失踪した戦友の真実を追う~  作者: rinoe


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流通 5

 ウォルツはだらり、と一瞬、体全身を脱力させたかと思うと深呼吸し、息を整える。一度リラックスしたおかげか、先ほど以上に体の感覚が研ぎ澄まされる。


 魂から生成され、体を巡る魔力。肌から伝わる空気の感覚、視界に入ってくる全ての情報。それらが全て新鮮のようで、全て自分が支配出来ているようだ。


 「小手調べは終わりかい?」


 トルノーもまたポキポキと指を鳴らし、リラックスしていた。


 「あぁ、ここから本気だ。アンタもまだ本気出していないんだろ?」


 「まぁな」


 そうして再度、互いに拳を構える。あんなに騒いでいたチンピラまでごくり、と固唾を飲んで戦いの行末を見守っている。それほどまでに二人の気迫は凄まじいものであった。


 (トルノーが化け物じみた力を持っているのは素早く緻密な魔力操作と技術だ。魔力量は俺以下、本来なら俺の魔力の守りを突破することすら難しいはずだ。しかし、先ほどの蹴りは軽く突破してきた。それは蹴りを入れるその瞬間、全身に纏わせていた魔力を足に一点集中させることで突破してきやがった。周りのチンピラにはそれすら気づいていない。それほどまでに素早い魔力移動!俺も一瞬、気づかなかった。一体、どんな訓練すればあんな素早く、緻密な魔力操作を可能にするんだ?とだが、そこが奴を倒すチャンスでもある!)


 勝利への道を見つけたウォルツは覚悟を決める。


 (俺よりも多い魔力量……戦場でもなかなか見なかったぞ。五年前の戦争にいれば、エヌフィー以上の力を身につけていたかもな。それに戦い慣れ……というより喧嘩慣れだな。動きも良い。だが、我流ゆえ、基礎が甘すぎる!)


 トルノーはこの戦いを終わらせようと、より一層、肉体に魔力を纏わせてウォルツとの距離を縮めるとボクシングのジャブのように素早く両拳で殴りかかる。


 それを見切ってウォルツもまた避けようとする。が、見切れていてもトルノーの動きに追いつけない。何度も拳が頬をかすっていく。全く反撃の隙がない。トルノーの拳が止まる事なく、どんどん放たれていく。それだけじゃない。一歩、また一歩と前へ出てどんどん距離と詰めていく。それに合わせてウォルツは下がりながら躱していく。そして──


 「拳に集中しすぎだッ!」


 トルノーは下がろうとしたウォルツの足を引っ掛け、体勢を大きく崩させる。トドメを刺す絶好の機会!トルノーは右拳へと一点集中、魔力を纏わせてウォルツへと振り下ろそうとする。


 しかし、それはウォルツにとっても反撃のチャンスであった。


 (俺だって馬鹿じゃない。拳に意識を向けさせていたのは分かっていた!だからこそ、いつ、何が起こっても良いように身構えていた!そして拳に魔力を一点集中させた今、トルノーの防御力は皆無に等しい!倒すならここだ!)


 ウォルツは体勢を崩しながらも、脚に魔力を纏わせ、腹部目掛けて大きく蹴りを入れる。


 「俺の勝ちだァァ!!」


 「ッ!!!!」


 トルノーの口から赤く。暖かいものがたらり、と垂れる。全身に痛みが広がり、思考を鈍らせていく。この蹴りをまともに喰らえば意識を保つのも難しい事だろう。だというのに──


 「常にカウンター狙いで攻撃のタイミングを狙っていたのは分かっていたが、まさかこの態勢から蹴りを入れて来るとはな……だが、この程度で倒れるほど俺は弱くねぇ!」


 トルノーは倒れる事なく、そこに立っていた。右拳に多大な量の魔力を乗せたまま。


 (嘘だろッ……!どうして倒れてねぇ……!?)


 困惑するウォルツにトルノーは「ふぅー」と呼吸を落ち着かせながら、容赦無く右拳をウォルツの顔面へと放つ。そのまま彼の頭は床へと叩きつけられていく。これまで味わった事のないパワーと衝撃に、一瞬で意識が飛んでいく。


 「お前は魔力に頼りすぎだ。基本、どんな流派でも、どんな格闘術でも魔力で肉体能力を向上させるのは基本中の基本だ。だが、土台になる肉体がヘボければ、どれだけ魔力量を纏っていても大した力は出ない」


 トルノーが訓練兵だった時も、一ヶ月間魔力なしの生活をした事がある。トレーニングの時も、実技訓練でも、どんな時でも絶対に魔力を使うなと教官に言われ、本当に苦しい一ヶ月を送らされた。だが、この期間があったからこそ、改めて魔術や魔力だけではなく、土台になる肉体を鍛えることもまた重要な部分であることを理解した。


 「どれほど魔力で強化しても、土台になる体がまだ貧弱すぎる。俺の鍛え上げた素の肉体でも耐え切れる程度にはな。喧嘩じゃあ魔力で解決していたのかもしれないが、今度からちゃんと肉体も鍛えることだな」


 トルノーは治癒系の下級魔法を無詠唱、無魔法陣で発動し、腹部を治しながら聞こえているかどうかも分からない倒れているウォルツへと語るのであった。


 周囲のチンピラはもう騒ぐのを止めていた。


 この男には勝てない。


 あんなにステゴロを得意としていたウォルツをあっさり倒してしまったのだ。圧倒的な力量を見せつけて。彼がファイム・トルノーと疑う者はいない。敵意を向ける者もいない。


 もう関わらない方が良い、と考えていた。


 そんな中、ガチャリ、と店のドアが開く。


 「アンタがファイム・トルノーだな?」


 店に入ってきたのは、同じくスルサート家の者だろう。キチっとスーツを着た男たちだった。だが、身につけているブランドモノの腕時計、高級な見た目の指輪と言ったアクセサリーからきっと……。


 「何があったか知らんが、ウォルツからアンタが入店してきたっていう話を聞いている。ついてこい、エヌフィーのいる場所へと案内してやるよ」


 「ようやく、奴に会えるのか」


 全く、最初から戦わず会えていれば楽だったのだが……そう思いながら、男たちへとついていくトルノーであった。

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