流通 3
そこは西区、四番通りのとあるバー。今はまだ夕方頃ということもあり、まだ開店していない。が、中には人の気配があり、夜に向けて準備をしている事が分かる。
そのバーの前に一人、立っている者が一人。
ファイム・トルノーであった。
「ここがスルサート家の事務所、か」
店の見た目だけで判断するのであれば、何処にでもある酒場。しかし、エニーの情報ではここがスルサート家の事務所だという。彼女が収集する情報は絶対だ。
ドアの前にはクローズドの看板が立てられている。が、今は関係ない。迷う事なくドアノブへ手をかける。運が良い事に鍵がかかっていない。トルノーはガチャリ、とドアを開ける。
開けてすぐ目に入ってきたのは、多くの人が入りそうなホールに、多くのテーブルと椅子。そしてバーカウンターではキチっとした服装の男がグラスを磨いていた。
「おや?店の前の看板が見えませんでしたか?営業は七時からですので、もうしばらくお待ちを──」
「安心しろ、俺はちゃんと文字も読めるし、目が腐っているわけじゃない。俺はスルサート家に用事があって来たんだ」
その言葉を聞いて男は「……かしこまりました」と言って、店の奥へと行ってしまう。
(さて、どうなるか……)
それから一分も経たないうちに、再び店の奥からこちらへと向かってくる足音が響き始める。が、それは明らかに先ほどの男のものではない。明らかに複数人、床から振動が伝わってくるほどの人数でこちらに向かってきている。
そして、ゾロゾロと出てきたのはこれまたスーツを着た男たち。服装だけで言えばそこら辺のサラリーマンか何かだと思うだろう。だが、彼らが持っているのは物騒なものであった。
銃にナイフ、剣……。
「アンタが何者で、何しに来たのか知らないが──」
一人の男がトルノーの前へ出て、回転式拳銃のハンマー部分を上げながら、淡々と話し始める。
「アンタは何しにここへ来た?どうしてここが俺たちスルサートファミリーが裏で経営している酒場って知った?質問の答えによっては死んでもらう。質問に答えない場合も殺す。今ならまだ酒を飲みたくて来た客と認めれば、何もなかった事にしてやれるが?」
そういって、トリガーに指をかけ、銃口を向ける。
「残念ながら、俺は客じゃない。エヌフィーに会いたくなってな、奴との面会を取り繕ってくれよ」
その言葉を聞いて、ざわつき始める。
『エヌフィーの兄貴!?』
『あの人の知り合いなのか?』
『いや、しらねぇよ。俺もエヌフィーの兄貴とは会ったことすらないんだからな』
その時、このざわつきを切り裂くようにパァン!と火薬が破裂する音が響く。
「黙れ、てめぇら。コイツがエヌフィーの兄貴と知り合いであろうと、スルサート家と無関係であっても、ここにアポも取らずに来たことだけが揺るがない事実だ」
落ちたハンマー部分を上げ、銃のチャンバーがかちゃり、と回転する。
「俺たちは舐められたら終わりだ、こんな何処ぞの馬の骨とも分からない奴に優しい対応する必要はない。そうだろ?」
そう言われ、周囲のチンピラたちは目つきが変わる。
「おい、ちょっと待てよ。俺の名前はファイ──」
自分の名前を言おうとしたその時、男は容赦無くトリガーを引く。トルノーは咄嗟に魔力を身にまとい、防御を取る。弾丸は魔力の膜と衝突し、はじけていく。
続け様に二発目、三発目と撃つ。それに合わせ、拳銃を持っていた他のチンピラたちも撃ち始める。弾丸一発一発には魔力が込められている。が、トルノーには一切、到達することはない。
「どんだけ分厚い魔力の膜だよ、これ!」
「ちぃっ、上級魔術師レベルだな!!」
どうやら全員撃ち尽くしたようで、弾丸の雨が止む。トルノーの肉体はやはり無傷。この時点でチンピラたちも彼が只者ではないことを悟る。が、今度は剣や槍を持っていた者たちが刃に魔力を込め、トルノーに突っ込んでいく。
トルノーは「はぁ」と軽くため息を吐く。
(喧嘩する前の自己紹介を止められちゃ仕方ないか。ここは上手く切り抜けることが出来ると思ったんだがな……本当にめんどくせぇ!)
一人一人相手するのも面倒だ。ここは一気に──
そう思い、トルノーが本気を出そうとした時だった。
「中級魔術〈リストレイント・オブ・チェーン〉」
その詠唱と共に、何処からともなく鎖が飛び出し、チンピラたち全員を拘束し始める。
「なんだ、これは……!?」
「う、動けねぇ」
ギチギチに拘束された彼らは、トルノーへ強い敵意を向けながらも、動けずにいた。
「悪いな、部下が勝手にやった事だ。許してやってくれ」
そう言って店の奥から出て来たのは、やはりチンピラと同じくスーツの男。しかし、彼らと違うのは赤色の目立つスーツを着ているという事。また、彼の足元には魔法陣が展開されており、そこからチンピラたちを拘束している鎖が伸び出ていた。
「俺はこの酒場のオーナーであり、エヌフィーの部下のウォルツだ。上から聞いているよ、ファイム・トルノー様」




