9
そして、夜。一番入り口の扉に近い部屋がトリッシュに、そしてその近くの部屋をカクタスたちは与えられたが……当然のように3人はトリッシュの部屋に集まっていた。
「で、あの院長は良い人ってことで確定かしら」
「俺の見る限りじゃ、それでいいと思いますがねぇ」
「同意します。厨房を見ても、あの院長室を見ても……とりあえずの不満はない、といったレベルを維持するのが精いっぱいといった程度に見えます。どちらかというと院長の栄養状態のほうが心配になりますがね」
「誠実なんでしょうねえ。子どもたちを優先しようっていう思考は立派だけど」
平等を心掛けている、とでも言うべきなのだろうか?
大人なのだから少しくらい多く食べても誰も何も言わないだろうに自分も子供たちと同じ量にしているからそうなるのだ。まあ、融通が利かないともいうのだけれども。
「ただまあ、そういうのは嫌いじゃないのよね。あくまで姿勢の話だけれども」
「あ、お嬢の悪いとこだぜ。そうやってすぐ新しい誰かに好意を示す」
「何よ。別に候補に入れるとは言ってないでしょ」
「言われても困りますが」
「カクタスまで……そういうのとは違うって知ってるでしょ?」
そう、トリッシュとスケルツォ、カクタス……あとヤシチの関係は少しばかり難しいものがある。
別に恋人同士というわけではないのだが、単なる雇用主と護衛の関係かといえば、それも違う……さておいて。
「でもまあ、最悪の場合は孤児院の塀をどっかのバカが登ってくると思ったけど……そこまで腐ってなくてよかったわ」
「そりゃそうですがね。もっと厄介そうなのが顔を出してません?」
「あ、ほんとだ。ヒューゴじゃないの。何してるのかしら」
塀の上に座りヒラヒラと手を振っているのは、一言で言えば美少年だった。
ふわふわと軽くパーマがかった金髪は夜だというのに月の光を受けて煌いており、ぱっちりとした青い瞳と小さな唇がその美しさ……いや、愛らしさを高めている。
着ているのは神殿所属を示す真っ白な神官服だが、飾りの無さすぎるソレは下級神官のものだ。
その辺の村にいてもおかしくない下級神官であり、しかしいれば誰もが振り向くような美少年。
存在自体がアンバランスで、されど目が離せない少年……ヒューゴは、窓からトリッシュが飛び出てきたのを見て「わあ」と声をあげる。
「ごきげんよう、えーと……今はトリッシュ様、でしたっけ?」
「そうよ、ヒューゴ。ごきげんよう、いい夜ね」
「ええ、月が本当に綺麗で……こんな夜って、なんだかテンションが上がりませんか?」
「分かるわ。走り出したい気分よね」
「ふふ、あの方と本当に真逆ですよねえ」
「あの子は元気?」
「ええ、今頃怒ってるでしょうねぇ」
「てことは、やっぱり此処……何か大きな問題があるのね?」
「運と勘だけで辿り着いちゃう辺り、血筋ですよねえ……」
トリッシュとヒューゴの会話の意味が分かるのは、この場にはスケルツォとカクタスしかいないだろう。ヒューゴは肩をすくめると、塀の下のトリッシュへと微笑む。
「ですが申し訳ございません。この身は貴方の妹様を選んだ身、ご挨拶は必要ですので参りましたが、これ以上の情報は渡せません」
「別にいいわよ。もうヤシチが探ってるから」
「あー、やっぱいるんですか、あのニンジャ……」
「そりゃいるわよ」
もしかするとこの瞬間もいるかもしれないが、ヤシチがその気で隠れていれば、トリッシュも探すのにちょっと手間がかかる。
「ま、そういうわけだから……あの子に伝言お願い出来る?」
「ええ……? まあ、伺いますけども」
「無理して怪我しないようにねって。あの子が先に来てまだ解決してないなら、相当厄介な話でしょうし」
「うわ、そういうこと言われないように『怒ってる』って言ったんですけど?」
「ライバル視されてるのは知ってるけど、妹を心配して何が悪いのよ」
「そういうとこなんですよねえ……」
大きく溜息をつくと、ヒューゴは神殿式の胸元に手を当てる礼をする。
「伝言はお預かりしました。今宵はこれで失礼いたしますね」
「ええ、おやすみなさい」
「おやすみなさい。どうぞ良い夜を」
塀の向こうへと消えていくヒューゴを見送って……絶対に声が聞こえない距離まで行ったことを耳で聞き取りながら、トリッシュは「スケルツォ、カクタス!」と2人を呼んで。
そこから数瞬もかからないうちに2人はトリッシュの側へとやってくる。
「今の、どう思う?」
「あくまで想像だが、本番は夜。そういうことなんじゃねえの?」
「私たちが此処で何かを待ち構えているのが不思議だったから確かめに来た。まあ、そんなところかと」
「そうよねえ。悪党が夜にコソコソするのは普通ではあるけれど……」
言いながら、トリッシュは「ま、じゃあ明日からね!」と笑う。
今すぐ動くつもりはないという、そんな宣言だ。
「あの子が夜に潜む何かを探すなら、そっちは任せていいと思うのよ」
「ふうん? お嬢がそれでいいんなら、従うけどよ」
「勿論よ。あたしたちはお天道様の下に出てくる悪党をぶっ飛ばすわ。それが何者であろうと……ね」
ブックマークや評価は今後の執筆の励みになります。
まだ入れていないという方も、今回のお話を機にぜひ入れていただけましたら、とても嬉しいです。☆☆☆☆☆をポチっと押すことで★★★★★になり評価されます!




