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本日3回目の更新です!
チリメン商会。
院長はそんな旅商会など聞いたこともないが……元より院長はそんな商売人事情には詳しくない。
何よりも旅商会などというものは、日々生まれて消えていく泡沫のような定めだ。
何処かで立ち上げたと思ったら、1年後には何らかの理由で消えている……その理由は商売の失敗であったり盗賊であったり、ライバルに潰されたりと様々だが、とにかく厳しい世界だ。
このチリメン商会なる連中が盗賊団を倒す程度には強く、その稼ぎを寄付する程度には金にどうにも困っていないらしいということは分かる。
そして、それを寄付した先に奪いに来る連中が出ることを懸念する程度にはこの街の治安を信用していないという話でもある。そこまでは分かる。
だから院長は聞かなければならない。
「……その、失礼ですが。此処は曲がりなりにも中継都市の1つであり、傭兵が混ざっているとはいえ治安は一応良好です。流石に孤児院を襲撃して来るとは、流石に……」
「そう言いつつも不安はあるのだろう?」
「それは、まあ。これほどのお金が入ってきたのは初めてですので……」
「そう見えるな」
カクタスが素直に頷けば、スケルツォが笑って……やがて「いや失礼」と咳払いする。
「まあ難しい話じゃねえよ院長さん。世の中には思ったより馬鹿が多いし、調子に乗った馬鹿は普通の馬鹿よりタガが外れやすいってだけの話だからな。統制が効いてるなら何の問題もねえ話だ」
「はあ……傭兵を疑っているという話なのは分かりますが……一応治安側ですし、そこまではしないと信じたいものです」
「それでいいさ。疑心暗鬼は心を腐らせる。孤児院の院長にゃあ、そういうのは似合わねえ」
無論、あまり疑わなさすぎても問題は出るだろうが……ひとまずそれは別の問題だ。
院長もそれを分かっているのだろう。「分かりました」と頷き立ち上がる。
「何があっても動きやすい部屋をご用意します」
「ああ、頼むぜ」
「お手数をおかけする」
そんな3人が院長室を出れば、聞こえてくるのは歓声だ。
「ほらほら、捕まえちゃうぞー!」
「きゃー!」
「あー、捕まったー!」
「ズルい私もー!」
どうにも追いかけっこをしていて、トリッシュが捕まえる役のようだが……どういうルールなのか子供たちがトリッシュに抱き着きへばりついている。追いかけっこが成立していない。抱き着かれごっこか何かだろうか?
「……お嬢。それはどういうルールの遊びなんだ?」
「追いかけっこのはずなんだけどねー。でもなんか皆自分から捕まりに来るようになっちゃった」
「おう、そうかい……仲良しで何よりだぜ」
「お嬢のカリスマか優しさか……何かしらが伝わるのだろうな」
「真面目にボケてんじゃねえぞカクタス」
まあ、トリッシュが子どもに好かれるのはいつものことなのでスケルツォとしても「またか」という話ではある。
子ども相手に子どもばりの無限の体力で全力で遊べるトリッシュは、子供たちと混ざって遊ぶのは大得意だ。今日もそれが発揮されただけの話に過ぎない。
カクタスはともかくスケルツォも体力に自信はあるが、流石にトリッシュと同じように出来るかといえば「出来ない」が答えになる。身体を動かすこと子供たちと遊ぶことは、何か違うエネルギーを使うことであるような気がしてならない。
「適当なとこで終わりにしてくださいよ、お嬢! 子どものほうが潰れちまう!」
「分かってるわよ! 任せて!」
まあ、スケルツォやカクタスからすればそんな「毎度のこと」ではあるが、院長はポカンと口を開けていた。たまに来るボランティアでもあんなに子どもに喜ばれ、子どもと共に喜んでいる人は……少なくとも院長は見たことがない。
「……驚きです。あんな方がいらっしゃるとは」
「だから俺たちも着いていってんだよ」
「ああ。人生を捧げるに値する」
……本当に不思議な一行だと、そう院長は思う。
この護衛だという2人だが、どう見ても「ただの護衛」などではない。
商会を隠れ蓑にした貴族の御一行……にしては「お嬢」と呼ばれる少女が元気いっぱいすぎるし、この2人にしても護衛というには少々熱量が高すぎるようにも見える。
とはいえ経験上、そういうのに深入りしてもロクなことにはならない。
だから、院長はそれ以上考えないことにして愛想笑いを浮かべるのだ。
「そうですか。商会内で仲が良いのは素晴らしいことですね!」
そのくらいで「締めて」おくのが一番いい。
知るべきでないことを知ってもロクなことにはならない。
親切は本物なのだから、それを大人しく受けておこうと。院長はそう決めていた。
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