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本日5話目の更新です!
「……流石お嬢、と言うべきか」
「ああ。惚れ直すぜ」
「戯言を言うんじゃない。お嬢の耳が汚れるだろう」
火花を散らすスケルツォとカクタス。互いに武器を構えることこそないが、一歩も譲らないという気合に満ちて……その眼前に、トリッシュがヒョイと顔を出す。返り血一つないその姿は、トリッシュの技量故だろうけれども。
「うおっ」
「お、お嬢⁉ どうされましたか⁉」
「この件。どうしたらいいのかしらね? デーモンが盗賊の頭やってましたって言って信じるかしら」
「あー……まあ、どうすっかね」
「報告しない訳にもいかないでしょう」
「うーん……」
言われてトリッシュは頬に手をやり首を傾げる。悩んでいる時のトリッシュの癖で、元々美少女のトリッシュがそれをやると儚さが大幅に増し、トリッシュのことを知らない者ですらその憂いを掃おうと勇気を出して声をかけてくるほどだ。
当然スケルツォとカクタスはトリッシュの強さを知っている。知っているが……この場に跪いてその悩みを……当然知っているがそれはそれとして……聞いて解決してあげたいという気持ちになる程だ。
「お嬢。こういう場合は地元の警備隊に通報し現場確認してもらうのが基本ですが、ものぐさであった場合は証言だけで終わる場合があります」
「証言? どんな?」
「何処で誰が倒したのか……場合によっては誰が、だけで済むこともあるでしょう」
「ふーん。となると……あたしが倒したって話になると、面倒かしら」
トリッシュの疑問に対するカクタスの答えは単純だ。
「……恐れながら。お嬢が倒したというのは事実ではあるのですが、護衛の手柄を奪った自慢したがり、のように思われる可能性もあります。そういう事例も多くあるそうなので……」
そう、貴族の子供が強い護衛や騎士団を率いて「悪を1人で成敗した」のような自慢話を作ることは本当によくある話だ。
見た目はか弱そうな美少女のトリッシュが「盗賊団とレッサー・デーモンを倒した」と言ったところで、カクタスの言うように「自慢したがり、自分を大きく見せたがりの少女」と思われる可能性はなるほど、確かに大きいだろう。それはトリッシュとしても充分に理解できた。
となれば……それは何か余計な問題、たとえば警備兵からの噂として町に流れる恐れもある。
そういう効果を狙うのであればトリッシュとしても馬鹿にされるのはやぶさかではないが、今はどう考えてもそういう時ではない。そして何よりトリッシュは名声が欲しくて旅をしているわけでもない……となれば、答えは1つだ。
「じゃあ2人が倒したことにしてね、護衛なんだから」
「へいへい。ま、それが無難だよな」
「道中で上手く話を纏めましょう」
そう、スケルツォとカクタスは拠点を持たない旅の商会、「チリメン商会」の主たるトリッシュの護衛という役回りである。
ならばそういう話にしておくのが今とれる手段の中では一番面倒がない。
本当であれば盗賊団……しかもデーモンが統率していた盗賊団を退治したなどという話は面倒の極みではあるのだ。
何しろそれだけの武力を持っているという証明でもあるし、わざわざ盗賊団のアジトを襲撃する正義感のある集団だなどという話は、正直面倒ごとしか呼び寄せはしない。
トリッシュはそれを隠すことを良しとしない。何故なら、その事実自体が周囲への注意喚起……ひいては安全に繋がるからだ。
そう、トリッシュは正義と博愛を大事にする少女なのだ。
であれば、上手く話を作ることもまた、2人の役目なのである。
……というわけで、街道に転がした盗賊の回収も大事なことだ。
転がしておいた盗賊を……這って逃げようとしたようだが、全員捕まえ直して光の鎖で繋ぎ、奪った財物をアジトにあった荷車に乗せ進むトリッシュたちが到着したのはイチルの街だ。
大通り沿いの街というものは基本的に何があってもいいように巨大な壁で覆われている。
それは盗賊相手でもあり、モンスター相手でもあり……とにかく、何が来てもそれなり以上に防衛できることを前提にしているのだ。
当然イチルの街でもそれは同じであり、昼間から盗賊が出るほどなら当然、門が閉じられているだろうと思われたのだが……。
「めっちゃ空いてるなあ、門」
「全開だな……これでは盗賊が来ても閉められないだろうに」
スケルツォとカクタスの言う通り、イチイの街の門は文字通りの全開。
勝手に閉まらないように留め具をしっかりと噛まして、門を守る衛兵はやる気なさそうに槍を抱え欠伸をしている。
どう見ても盗賊が群れをなしてやって来ても防げそうにはない。
平和な街であればそういうこともある、けれど。
「ま、いいわ。行きましょ」
「おう」
「お嬢の望むままに」
トリッシュの合図で門へと歩いて行けば……衛兵たちがギョッとしたような顔で槍を構える。




