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口入れ屋を下ろして縛り倒した後、カウンターの奥の書類を探っていくと、随分と酷い実態が明らかになっていく。
たとえば口入れ屋を利用する人々を中心に簡単な情報などと、AやCなど生命エネルギーのランクと思われる「評価」の記された紙。
バツが書かれているのは死んだ、ということだろうか?
ロンドにはAと書かれていて、チェックがされている。
「ふーん……? 随分効率よくやってたみたいじゃない」
この口入れ屋はその立場を利用して、生命エネルギーを吸収する相手に接触していたようだが……大工の息子であるロンドはむしろ、口入れ屋に人員を提供して貰う側のはずだから……かなり手広くやっていたのは間違いない。
「かなり計画的だなあ……ていうか長期計画かこれ?」
「バツ印が多いですね。かなり状況が進んでいると考えてよろしいかと」
裏町であればたいした捜査をしなくてもいいし、裏町の住人以外は気にしない。
まあ、そんなところなのだろうが実際これまで上手くやってきているのが本当にどうしようもない。
資料を漁るたびにトリッシュは無言になり、しかし口入れ屋は縛り倒されたままで毒づいていた。
「クソッ……どうしてお前らみたいなのが今更……」
「そうよね。今更よね」
見ていた資料をカウンターに置いたトリッシュは静かにそう呟く。
「だからせめて、目に見える範囲のものは見過ごさないようにしてるのよ」
「偽善者が。そんなもので自己満足かよ」
「マトモな方法じゃ悪い奴等は逃げるし隠れるって知ってるから。だからこうするしかないの」
「は? 何を言ってる?」
「別に分からなくていいわよ。裏町が一番危ないって知ってるから先んじて潰そうとしてるだけだもの」
トリッシュが本来持つものを使えば、この街の事件を解決することなど簡単だ。
しかしそれでは噂になり過ぎる。
悪の種は何処にでもあるからこそ、派手な悪退治は出来ない。
敵には常に油断していてもらう必要があるのだから。
「だから、教えてほしいことがあるの。ケインってクソ野郎は何処?」
「は? いや、何を言って……ケ、ケイン? そんな奴は」
「知らない? 嘘ね。此処の資料はただの管理記録。で、あんたが雇われ管理人。一体何を報酬にしたの?」
迫るトリッシュに、口入れ屋は縛り倒されたまま……汗をダラダラと流す。
まるでそれだけは言えないとでも言うかのような、その仕草は明らかな「恐れ」を示して。
「言いなさい。何を隠してるの」
「まあまあ、そう言わないでよお姉さんたち。弱い者いじめはよくないよ?」
突然現れた少年に、しかしスケルツォがその瞬間に剣を突き付ける。
「おっと……怖い怖い。いたいけな少年になんてことするのさ」
「何が少年だ。あからさまに人間じゃねえ気を放ちやがって」
「人間だよ? ちゃんと街の名簿にも載ってる」
「スケルツォ。いいわ、剣をどけて」
「……ああ、お嬢」
「流石お姉さん! 僕がいたいけな子供だと」
「そういうのはいいから」
「え、そう?」
言いながら少年は指に嵌った赤い宝石の指輪に触れる。
「まあ、いいや。僕はケイン。お姉さんたちが探してたのは僕さ」
「ふうん? で、ケイン。その指輪は誰から貰ったの?」
「あ、これが何が分かってるんだ?」
「生命エネルギーを吸う指輪でしょ。随分吸って捧げたみたいだけど……その結果が何か分かってやってるのよね?」
「勿論さ。いつ死んでもおかしくない僕はこれで誰にも馬鹿にされない力を手に入れたんだから!」
ゴキリ、と。少年の……ケインの腕が変形する。
デーモン……レッサーではない。その上に位置する中でも力に特化したパワー・デーモンの腕だ……!
それはトリッシュを殴り飛ばそうと最短距離で振るわれて。
「……え?」
「この程度?」
トリッシュの手に、真正面から受け止められていた。
「う、嘘だ!」
「人間やめて、たかがパワーデーモン? それって、かなり損してると思うけど」
「嘘だ嘘だ嘘だ! 僕は……強いんだ!」
ケインの全身がパワーデーモンのそれへと変わっていく。
確かにパワーデーモンは強い。
その辺のモンスターの群れ程度であれば簡単に殴り殺す程度には。
レッサーデーモンにだって圧勝する。けれど。
「こんなところは出て、もっと幸せに暮らせる力を手に入れたんだ! だから、もっと捧げて、もっと強くなって……!」
「その先はただの血塗れの地獄よ」
「いいじゃないか! 僕が幸せなら! だから……お姉さんの生命エネルギーも!」
「あげるだけならいいけど。その行き先が悪神像なら……お断りね」
パワーデーモンの連続打撃を真正面から弾いたトリッシュの拳はパワーデーモンそのものを砕く。
そう。パワーデーモンは強い、けれど。
トリッシュのほうが遥かに強い。ただそれだけの力の論理だ。
「さよなら。人間をやめてそうなった以上……貴方にはこれしか救いがないわ」




