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確信。そう、それは確信だ。
人間、生きていれば色んな死に方をする。
けれど「急な衰弱死」というものはそこに到る理由が限られていて、しかもそれが疫病や呪いを疑われる頻度で起こっている。
そしてそれは大概の場合、破滅教徒が生命力を吸った場合だ。
だからこそトリッシュは確信していたのだが……その怒りも、この裏町を見ると萎んでくるのを感じるのだ。
裏町。一言で言うのは簡単だが、此処に暮らしている人々は一部を除けば好きで裏町にいるわけではない。
此処でしか生きられない事情もある……そしてそれは、究極的には統治側の責任だ。
違法だからと掃討せずにいるのは、こうした場所で暮らしている人々がそれなりの治安を維持しているからでもある。
無論、勝手に建築された建物が無数に並んでいるのは良くない光景ではあるのだが……トリッシュには、この光景は自分の無力さの象徴にも思えるのだ。
「……お嬢。別にお嬢のせいじゃありませんぜ」
「ありがと、スケルツォ。でもね、こういう現実を見るためにあたしは旅をしてるのよ」
「分かってますがね。全部抱える必要はねえんですぜ」
裏町にも秩序はある。
大人だけではなく子どももいて、何やら荷物運びをしているのが見える。
それはこの場所で生き残るために自然にそうなったのだろうけども。
そうかと思えば、酒場らしき場所に入っていく大人もいる。
懐の余裕具合がそういった生活の差になるのだろうが……求めている情報を手に入れるには何処に行って誰に聞けばいいか?
その答えは簡単だ。
酒場に堂々と入ったトリッシュは自分に向けられる視線を全く気にせずにカウンターにいるマスターらしき男へと最初の一言を言い放つ……!
「ミルクをお願い! なければ、お酒じゃないものを!」
「お、おう……ジュースでいいか」
「いいわ!」
酒場で「お前酒飲めるのか」「酒精の入ってないもんはねえぜ」「ミルクでも飲んでろ」的なからかいは定番だが、こうも堂々とされるとからかうタイミングというものを逸してしまう。
「俺も同じもんを」
「私もだ」
「3人分ね。代金はこれで」
カウンターに銀貨を1枚置くトリッシュに、マスターは頷き銀貨を仕舞いこむ。
そうして出されたのは3杯のぶどうジュースだが……ワインでも仕込む気なのか仕込んでいるところがあるのか……まあ、どちらでも構いはしない。
「……お前ら、盗賊倒したって連中だろ」
「へえ、耳が早いのね」
「そういう商売もやってる。それ目的だろ?」
「話が早いのは好きよ」
再びカウンターに置かれた銀貨1枚は、これから聞くことに関する情報料を支払うという明確な意志だ。こういった場所では、財力を示すことが何よりの交渉カードになり得る。
「で、聞きたいことは何だ?」
「この辺で起こってる急な衰弱死について。なんでもいいわよ」
「……それなら、これでいい」
マスターは置かれた銀貨を回収すると「原因については正直分からん」と口にする。
それが本当に分からないのか破滅教徒と関わりたくなくて言っているのかはトリッシュには判別できない。
(ま、後者かしらね? 別にそれはいいけど)
「そこまで期待してないわ。でも、そしたら何が分かるの?」
「まだ生きてる奴がいる。大工のシルバの息子が同じようなことになってる」
「ふうん? それはいい情報ね。場所は? お見舞いに行きたいんだけど」
「あと2枚。それで見舞い用のフルーツもつけてやる」
「5枚出すから、第一印象がよくなる何かを頂戴」
「……栄養剤をつけてやる。酒場のニドからの見舞いだと言え」
「ありがと」
そういうのは大事だ。知らない奴が「衰弱しているお前の息子に会いに来た」などといえば、斧で追い回されても仕方がない。
だが裏町は大体が顔見知りだったりする……だからこそ、こういう手管も必要になる。
「随分やり方が手慣れてるじゃねえか。裏町に縁がありそうには見えねえが」
「何処にいようと礼儀と第一印象は大事よ。そうでしょ?」
トリッシュのそんなウインクと共に放たれた言葉に酒場のマスターはニヤリと笑い「違いねえ」と頷く。
そう、今のトリッシュの言葉は「同じ人間だから」という意味も含まれている。
それはこんな場所にいると忘れがちで、裏町の外から来る人間は大抵持ち合わせていないものでもある。
だから酒場のマスターは、そんなトリッシュに珍しくタダで助言を言う気になっていた。
「あまり深入りするなよ。危ねえ話だぜ、こいつは」
「ご忠告ありがと、気をつけるわ」
ぶどうジュースをあおると、トリッシュは「ごちそうさま」と空のグラスをカウンターに置く。
「作り方はそんなに悪くないと思うわ。あとはぶどうの品質ね」
「そりゃ無茶な話だ。俺にはどうにもならん」
「あははっ、そうね!」
去っていくトリッシュに珍しくマスターは手を振って……そんな自分に少しだけ、驚いていたのだった。




