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トリッシュは悩んだ。もうこれ以上なく悩んだ。
どうしたらいいだろう? どうすれば一番自然だろうか?
考えて、考えて……トリッシュは自分の「設定」を活かすことにした。
そう、チリメン商会という旅商会がこの街で商売のタネを探したところで、何の不思議もないし問題もない。
スケルツォとカクタスをお供に大通りを歩いていたトリッシュだが……そうして見ていると、旅人の数がそれなりに多いことに気付く。
大通りに盗賊が出る程度に治安が悪化していたはずだが……それにしては、街の人々の顔に不安がない。
商店には普通に商品が並んでいるし、どれも不足している様子はない。
「うーん……?」
試しにトリッシュは近くの店に近づき努めて明るく声をかけてみることにする。
「こんにちは!」
「はい、こんにちは。お嬢ちゃん、旅の人かい?」
「旅商人よ! 何か良いものがないか探してるんだけど……最近はどう?」
「いつも変わりゃしないさ。ああ、でも盗賊が退治されたみたいでねえ。いやあ、本当に良かった」
「へえ……盗賊が居たの?」
「そうみたいだねえ。たまに旅人が襲われたとかって話もあったけども。ま、悪は滅びるってことだろうさ」
「ふーん。あ、そのリンゴいくら?」
「90イエンだよ。でもリンゴは商品には向かないと思うけど」
「これはあたしのオヤツよ」
リンゴを受け取ると、トリッシュは指先でキュッと磨く。
艶のある、新鮮で良いリンゴだ……確かに物流は正常だ。
となると、大通りに出てきたあの盗賊たちは来たばかりだった?
いや、それにしては溜め込んでいた財物の量が多すぎる。
ということは、計画的に襲う相手を選んでいた……ということに他ならない。
(そりゃまあ、そうしないと即バレするだろうけど……予想より面倒そうな相手ね)
シャリッと音を立ててリンゴを齧るトリッシュを見ていた店主が「あー、そういえば」と声をあげる。
今思い出した、とでも言いたげだ。
「街長と懇意にしてた商会が夜盗にあったとかで。衛兵が忙しく動いてるみたいだよ」
「衛兵……なんか傭兵も協力してるってのは聞いたけど」
「あんまり関わっちゃいけないよ。盗賊の話もあったから、強い人たちがいるのはいいけどねえ」
店主の視線の先を追えば……なるほど、粗末な鎧と武器を身に着けた集団が何やらギャハハと笑いながら歩いているのが見える。
警邏のつもりだろうか? 何処にも注意がいっているようには見えないが……その集団からトリッシュを隠すようにカクタスとスケルツォがサッと壁を作る。
ただそれだけで傭兵たちはトリッシュに気付くこともなく何処かに消えていくが……質は悪そうだ、けれども。
(それでも孤児院に押し入るような真似がなかったのをみるに、統率はとれてるってこと……かしらね)
リンゴの芯までボリボリと齧ると、トリッシュは「ごちそうさま」と声をかけて歩き出す。
どうにも市場では実のある情報は取れそうにもない。
ならば次は商業ギルドにでも行ってみるべきかと、それらしき建物へ歩いて行けば……聞こえてきたのは、怒号だ。
「だからよお! ここ最近入ってきた連中のリストを作りゃあいいんだよ! 簡っ単なことだろうが!」
「これは街長直々の依頼だっての分かってんのか⁉」
どうにもガラが悪い。先程の傭兵たちだろうか?
しばらく耳を澄ましていれば、傭兵たちが唾を吐きながら出てきて……トリッシュに気付き、そのまま大股で歩いてくる。
即座に前に出ようとした2人をトリッシュが手で制すれば、傭兵たちはもう目の前だ。
「なんだ? お嬢ちゃん。ここらじゃ見たことねえなあ」
「 旅商会の者よ。昨日来たばっかり」
「ふうん? まあ、こんな嬢ちゃんじゃ無理か」
「それよりよぉ、来たばっかりなら案内してやるぜ? 俺ら色々詳しいぜぇ?」
「ありがと、でも仕事しないといけないからまた今度ね」
「俺らの機嫌とったほうが絶対いいって。なあ?」
腕を掴もうとしてくる男をトリッシュはするりと避けて。
「じゃあね!」
「お、おいコラ待て!」
「そこまでにしとけよ」
「お嬢に手を出すなら……護衛として容赦はしない」
剣に手をかけるスケルツォと杖を向けるカクタスの殺気に傭兵たちは恐怖に喉を鳴らす。
たとえチンピラじみた傭兵であろうと、実力差というものは分かる。
だがそれでも普段威張り散らしていればプライドというものが邪魔をして。
「まあまあ、普段街の平穏を守ってる人たちを威嚇しないの。これ、お詫び」
いつの間にか戻ってきていたトリッシュに渡された重たげな布袋に、そのプライドは霧散する。
「おう、気をつけろよ」
「ったく、俺らが良い奴でよかったなあ?」
上機嫌に歩き去っていく傭兵たちに笑顔で手を振ったトリッシュの視線が笑顔のままスケルツォたちへと振り向いて。
「今のはあんたたちが金で誤魔化す場面だったでしょうが……」
「あー、いや」
「申し訳ありません……」




