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5話、鉢合わせ
長い沈黙の後、先生はごめんね、とだけ言って席を立った。
向けた背中は虚しい空気をはらんでいて、俺は自然と手を伸ばしていた。
先生の服の端に触れる。
「どうしたの?」
振り向いた彼女は柔らかく微笑んだ。
いつも通りの優しくて、穏やかで、かわいい森本先生。
俺はそれを見て、胸を締め付けられる。
違う、先生は心から笑えてない。我慢して表情を作ってる。
「先生……」
「なに?」
言葉が見つからない。少なくとも、さっきの言葉の否定だけでもしなくてはいけないのに。
先生は馴染めてますって、一人じゃないんですって。
でも脳裏に浮かぶ言葉はどれも薄っぺらくて、口から出したらきっと紙切れみたいに破れてしまう。
だから、
「無理しないで」
俺は精一杯の笑顔を作って言った。
先生は「ありがとう」と、俺の頭に手を乗せた。
彼女の表情からは、まだ仮面が剥がれてなくて、
そしてまた、先生は背を向けてゆっくりと歩き出す、離れていく。
俺はただ茫然と見つめていた。
先生はドアの前に立ち、扉に手を掛ける。
ガチャッ
彼女の背中がビクッと跳ねた。ノブを回したのは、先生ではなかった。
開く扉、そこから顔をのぞかせたのは、
京吾だった。




