↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/11

4話、相談

「はい先生。元気出してください」


 森本先生は顔を上げると、赤く腫らした目を大きく開いて、俺と缶コーヒーを交互に見た。


 段々と気恥ずかしくなってきた俺は、押し付ける様に渡した。


 彼女は戸惑いながらもそれを受け取ると、カシュっと、気持ちのいい音をさせてプルタブを開いた。


「……ありがとう、西城くん」


 森本先生はそう言って、そっと缶に唇をつける。


 首がクッと動いて、コーヒーが喉を伝ったのが分かった。


「いえ」


 俺は椅子を引いて、先生の隣に腰かけた。


「優しいのね」


 先生はそう言って、小さなため息をついた。


 その横顔には、影が見えた気がした。


「恥ずかしいとこ見られちゃったわね」


「まあ、はい」


 俺がそう言うと、先生は俯いた。


 それから長い静寂が訪れた。


 何度か話しかけようかと思ったが、言葉が喉で止まって、結局出てはこなかった。


 自然と気まずくはなかった。


 そうやって先生と一緒にいると、なぜか京吾と同じものを感じる気がする。


 結構経って、俺はおもむろに口を開いた。


「……先生って、京吾と似てますよね」


 そう言うと、ひと呼吸おいて、彼女は笑った。


 割れるように、思いっきり笑った。


「なんかおかしかったですか?」


「いえ、本当にな思って。……なんでそう思ったの?」


「わかんないです。ただ、一緒にいると同じ感覚になるっていうか。なんでですかね」


 そう言うと、先生は少しの間黙ってから口を開いた。


「京吾君とは、いつから知り合いなの?」


「今年からです」


「そっか、羨ましいなあ」


 俺には、先生が何を羨ましいと言ったのか分からなかった。


 彼女は俺の方を見て、ニコニコと微笑んでいた。


「……先生だって、友達いるじゃないですか」


「えぇ、いるわね」


 俺はますます分からなくなって、眉間にしわを寄せた。


「じゃあ何が羨ましいっていうんですか」


「相性いいのがね、いいなぁって」


「……そうですかね」


 そんなこと思ったこともなかった。


 京吾と一緒にいて、特別面白いわけでもなかったし、気が合うわけでもなかった。


 何となくつるんでいるだけだった。


「一生ものよ、大事にしなさい」


 そう指摘されて、「まあ、はい」と、適当に受け流す。


 森本先生はコーヒーに口をつけて、今度は大きくため息をついた。


 先生の唇が湿って、艶めかしく映った。


「わたし、先生向いてないの」


 突然、彼女はそんなことを口走る。


 俺は何となく「そうですかね」と言って、


「……今日のことなら京吾に謝るよう言います」


「違うよ、さっきのことじゃないわ。……馴染めないのよ、どうしても

 私頑張ってるのよ、先生たちとも仲良くやってるし、授業も頑張ってるんだけどね」


 今日みたいに、


 一生懸命に努力したのに空ぶって、失敗して、他の先生に迷惑をかけて。


 不甲斐ない自分に絶望しているのだろか。


「大丈夫だと思いますけど」


 俺がそう言うと「ありがとう」と、先生は微笑んだ。


「でもね、そうしてると私疲れちゃった。」


 先生は目を細めて、


「結局、根本では”学校”に馴染めてないのよ。

 そういう意味で私、京吾君と似てるわ。彼も私とおんなじで浮いてるの。」


 その言葉で頭の中にあった靄が晴れた。


 それは京吾と先生の同じ所、そのものだった。


 俺が感じたのは、学校という日常の外に連れ出してくれる解放感だった。


 先生は口を閉じて宙を見つめていた。


 俺は先生の自虐を否定しようとする。


 しかし、森本先生が京吾と同じで馴染めていないと納得してしまったから、否定の言葉は薄っぺらくてとても言えない。


 俺は黙って、唇をきつく結んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。