3話、後ろ髪をひかれる
そのうち放課後になって、部活動の猛々しい掛け声が聞こえてきた。
俺はまだ食堂でだらだらと時間をつぶしていて、岩のように固くなった背中を伸ばせば、肩甲骨の辺りからベキベキと、気味のいい音が鳴り響いた。
誰か来るわけでも、何かあるわけでもないこの空間に段々と辟易してきて、おもむろにすっと立ち上がる。
もうそろそろ帰ろう。そう思って荷物をもって食堂を横断した。
ガチャ
食堂の、入り口のドアが開いた音がした。
しかし、俺はまだ前に立っただけで、ドアに触れていない。
驚いて少し体が跳ねたが、ただ、女性の教員が入ってきただけ。それだけだった。
教員は俺の顔を見ると、ばつが悪そうに俯いて、隠すように顔をそむける。
俺は彼女に軽く会釈をし、横目に様子を見ながら、すれ違って外へ出た。
出ると、蒸し暑い空気が立ち込めて、食堂で冷えた体が台無しになってしまった。
廊下にはどこからともなく聞こえてくる掛け声と、吹奏楽部が練習をする音が、やかましく響いていた。
歩いて教室に向かって、ふと、俺は立ち止まった。
誰かに後ろから掴まれたような、後ろ髪を引かれたような気がした。
どうも前に進もうとすると、気がかりがあるのか、足と胸がひどく嫌がる。
理由は分かっていた。
自分が今、何をしなかったのか。
何をしなければいけないのか。自分自身がそうしたいことも、もちろん知っていた。
俺は体を反転させて、ゆっくりと歩き始める。
先ほどまでとは打って変わって、トン、トン、と羽のように軽い足取りだった。
食堂に着くと、ドアを開けて辺りを見回した。
相変わらずシンとしていたが、一人、ぽつりと人が突っ伏して座っているのが見える。
俺はさっき使った自販機で、もう一度ブラックコーヒーを買った。
落ちてきたそれを取り出すと、手が痛くなるほど冷えていて、心地よかった。
俺は歩み寄り、その人の肩をそっと叩いて、コーヒーを差し出す。
「はい先生。元気出してください」
驚いて顔を上げた森本先生は、目をはらしていた。




