6話、三本の線
京吾は先生と俺を交互に見ると、眉間にしわを寄せ、指を咥えた。
彼が指を咥えるのは何かを考えるときの癖だった。
……待て、駄目だ。今京吾に何か言わせてはいけない。
アイツが何か言ってはいけないことを言ったら、それこそ先生に顔向けできなくなる。
彼は通り過ぎようとする先生の手を、バッ、と掴んだ。
「ちょっ、京吾くん」
そのまま先生を半ば強引に、引きずるようにしてこっちまで来る。
嫌な予感の通りになったようで、これから起こるであろうことに絶望した。
彼の眉間にはまだ深いしわが寄せられていた。
「康介、仲直りしろ」
「は?」
予想外のセリフに固まる。
予感とは違う。
時々彼がやってしまう空気を読まない発言というよりは、脈絡がないだけの発言な気がした。
「先生と仲直りしろって言ってんだ」
彼の声色はいつもより暗くて、重かった。
口げんかするときとも、俺を叱る時とも違う。まるで子供を守る親のような響き。
いつもとは違う京吾の雰囲気に気圧されて、先生でさえ何も言えずにいる。
「あんたら、ひでぇツラしてる」
俺は先生の顔を見て、先生は俺の顔を見た。
先生は相変わらず目をはらしていて、鼻頭が赤かった。
何も解決していない、さっきも分かっていたはずなのに、それをまざまざと直視させられる。
でも何もできない。かける言葉はまだ見つからない。
もどかしい、悔しい、情けない、苦しい、恥ずかしい、
どうすればいい、どうやって……
「あっ……」
先生が声を漏らした。
くすぐったい頬に触れると、指に水滴がつく。
分かった時にはもう遅く、とめどなく涙があふれ出た。
先生が俺の手を取って、「ごめんね、ごめんね」と繰り返して言う。
目の前がにじんでよく見えなくて、でも、先生の左頬に一筋、線ができたのは良く見えた。
「先生……」
「なに?」
先生の顔は少しゆがんでいて、絞り出すようにか細い声だった。
やっと、ぼんやりと分かった。
俺が先生に言わなくちゃいけないことは、否定じゃない。
無理に笑わず、胸から出てくる言葉に身を任せる。
「また相談してくださいね」




