7話、コイバナ
「じゃあ京吾くんは水田さんが好きなの?」
「先生すぐ恋愛に持ち込もうとしますね」
「いいじゃない、教師の数少ない楽しみなの。……で、どうなの?」
「好きじゃないと思いますよ、どちらかといえば水田の方が気にかけてる気はしますね」
「へぇ、意外ねぇ。水田さんがあんな自由な子好きなんて」
森本先生は目を細めてニヤニヤしながらこちらを見る。
「そうですか?水田って結構やんちゃなタイプだから、お似合いだと思いますよ」
「やんちゃ?水田さんが?」
「そうですよ、いつも猫被ってるだけです」
先生は「そうなんだぁ」と言ってベンチから立ち、グッと背伸びをした。
腕の時計を見ると、もう話し始めて一時間は経っていた。
「先生は今日仕事ないんですか?」
「いや、あるわよ」
俺は先生の方を見上げると、彼女は白々しい顔で目をそらした。
……サボっているのか
自分もよくサボるから強くは言えないが、教師としてそれでいいのだろうか、
そう思いながらも、二人だけの食堂で、ダラダラと時間が流れていく。
食堂に森本先生が顔を出すようになって、もう1週間になる。
しかし言っていた相談というよりは、ただ友達とだべっているような感覚だった。
「先生は彼氏いないんですか?」
「いないわよ。叩くわよ?」
先生が軽口をたたく。
少し笑う。
何だか空気がふんわりしていて、心地よい。
「あなたは気になる子いないの?」
「いないですね」
そう言うと先生は「つまんないのぉ」と口を尖らせた。
彼女がここまで恋愛脳だとは思ってもみなかったが、でも先生だって人間だ。
黒板の前で声を張り上げて授業をしている数学の先生も、規律に厳しくて嫌われ者の英語の先生も、人が好いと思っていた音楽の先生だって、一人の、普通の人間。
そう思うと、今まで堅苦しくて奇妙に思えていた”学校”という存在が受け入れられる気がした。
「先生行くわね、あんまりサボってるとに怒られちゃう」
「そうですか、さよなら先生」
「はい、さようなら」
先生は駆け足で食堂を出ていった。
俺はほっと息を吐きだし、ベンチから立ち上がる。
思わず右足に力が入らず、壁に手をついてしまう。
誰にも見られていないのを確認すると、何事もなかったように歩き出した。




