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1話、失態

現在からおよそ28年前、西城康介の高校時代。

彼はどんなことを経験して、どんな過ちを犯していたのか。

    1998年7月2日 ○○私立第二高等学校、食堂奥のベンチにて



「昔から、なんでそういうこと言うかなぁ」


 俺はため息をつく。


 自動販売機で缶コーヒーを選ぶと、取り出し口からゴトッといって缶が出てきた。


 取り出すと表面がひんやりしている。


 俺は自動販売機の隣のベンチに腰を下ろした。


「……悪いことしたな、これは」


 京吾はベンチに座ったまま、眉間を押えて俯いていた。


 俺は黙ってコーヒーを開けると、少し口をつけて地面に置いた。


「駄目だろ、そういうこと言っちゃ」


 俺が言うと、京吾は「あぁ」と相槌を打った。


 彼は心ここにあらずな様子で下を向いていた。


 1時間前、音楽の授業中だった。


 今年から入ってきた新任の森本先生。


 授業はお世辞にもうまいとは言えないが、努力家で人柄も良く、若くて可愛いと主に男子生徒から人気を博している。


 今日、その森本先生は授業が始まるとプリントを配った。


 先生は「今日は特別に流行りの曲をやります!」と言った。


 歌の歌詞が書いてあるプリントで、曲は前に流行ったポップスである。


 先生は「皆さんが楽しんでくれると思って」と言ってプリントを回し、曲の伴奏を始める。


 皆、先生に続いて歌い始めた。


 いつもの堅苦しい曲に比べれば、自分たちの知っている好みの曲。


 生徒たちはそこそこ楽しんでいた。


 しかし、実はこの曲、流行ったのは半年ほど前。


 流行に敏感な若者からすれば、”少し前の曲”である。


 俺も、その他大勢も同じことは思っていたが誰も口にはしなかった。


 歌い終わり、先生も伴奏を終えた時。


 京吾が言ってしまった。


「先生、これもう誰も聞いてないですよ」


 教室の大半が心の中で「コイツ言いやがった」と思っただろう。


 俺も思って、そしてこれから起きることに頭を抱えた。


 そして気の強く正義感のある女子たちが「あんた失礼でしょ!」と叫んだ。


 その後、先生を慕う男子生徒たちまで京吾に喰ってかかった。


 ガタイの良い京吾はそれに引かず、負けず劣らずのひどい罵詈雑言を投げつける。


 気の強い女子たちは京吾に罵声を浴びせ、男子たちははやし立て、森本先生は慌てふためきそのうち泣き始めて……


 音楽室は一瞬で修羅場と化した。


 結局、隣の美術室から、赤い絵の具のついたカッターを持った教師が登場して一喝したため、事態は収束した。


 当然、その時間は音楽室から教室に戻って自習となった。


 隣で猛省する京吾にもう一本買った缶コーヒーを渡す。


 彼は黙って受け取り、ガリッ、と鈍い音を立ててタブを開けた。


「……森本先生、泣いてたなぁ」


 後悔で押しつぶされそうな顔をしてこちらを向く。


「まあ、泣いてたな」


 そう俺が言うと、京吾はまた目線を落とし、黙り込んでしまった。


 今のは「泣いてたな」なんて事実確認じゃなくて、励ましの言葉をかけるべきだったんじゃないかという気もしたが気にせず、コーヒーにまた口をつけた。


 しばらくして、京吾が呟くように言った。


「……ブラックコーヒー苦手なんだけど……」


「あ?なんて言った?」


「うっさい!なんでもないっ!」

読んでいただき、本当にありがとうございます!

今回からプロローグが終わり、本格的に康介に何が起こったのか語られていきます。

京吾と水田、それとその時はまだ生まれていない”すみれ”。それぞれのキャラクターに焦点を当てて、どんどん掘り下げていきたいです!

投稿頻度、文章の質ともにまだまだですが、どうぞよろしくお願いします!

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