プロローグ4話、気遣い
つまみを頼んだころ水田が到着した。
彼女は長く伸ばしていた髪を肩まで切っていた。
「久しぶりですね、康介」
「うん、久しぶり」
俺がそう言うと、水田はさっそく店員を呼んでジョッキを頼んだ。
仕事帰りにそのまま来たのか、黒のパンツスーツ姿だった。
「遅れてごめんなさい、ちょっとやることが残ってて」
「いいよ、京吾から聞いてた」
彼女はキョロキョロと辺りを見回す。
「その京吾はどこ行ったんですか?」
「ああ、ちょっと席外してる」
数分前、京吾は酔ったから風に当たってくると言って店を出た。しかし、彼は少量のビールで酔うほど酒に弱くはなかった。
大方、テンションが上がって頭を冷やしに行った、というところだろう。
先ほどのあの発言は、たまたま歯車が変にかみ合っただけで彼に非はなく、むしろあの程度で目くじらを立てた俺がおかしいのだ。
しかし俺に、彼が離席するのを止める勇気も、口実もなかった。
「そうですか」
そう言ってうなずくと、水田は何の断りもなく俺のビールに手を付けた。
そして何事もなかったかのように飲み干した。
俺はおどろいて、すこし笑った。
「どうした、そんなに飲みたい気分か」
「仕事で嫌なことがありましたから、少しだけ」
俺は今飲み干された分、追加でジョッキを頼んだ。
彼女が俺の注文する姿を見て「あなたも?」と言ってきたので、「ちーがーうー」と、思いっきり否定した。
自分のビールを飲み干された上にすっとぼけられて、しかめっ面をする俺を見て水田はケラケラと笑った。
目尻にシワがくしゃりと浮かんで、なぜか安心感を覚えた。
「……京吾と喧嘩でもしましたか、顔が暗いですよ」
「まあ、ちょっとね」
俺はかいつまんで、さっきのことを話した。
水田はその間、黙って頷いてくれていた。
「そうですか、気にしないほうが良いですよ。彼は口滑らすのが趣味みたいな人ですから。昔から」
彼女はそう言うと「昔から」と、もう一度かみしめるように口にした。




