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プロローグ3話、言い直し

 その日は午後から雨が降っていた。


 天気予報では晴れると言っていたのに、酷く外れた予報だったようだ。

 

 服の中が湿って気持ちが悪く、じわりとにじんだ汗をハンカチで何度もぬぐう。


 傘に落ちる雨が、ボン、ボン、と鳴り響いてうるさかった。


 時刻は7時を指しており、俺は駅前のガードレールに腰かけて京吾と水田を待っていた。


 帰宅ラッシュでにぎわう人々が流れて行くのを、ただぼうっと眺める。

 

 そうしていると、人ごみの中からこちらに歩いてくる背の小さな中年が見えた。


 しだいに近づくと、白く染まった短い髪に、丸い眼鏡、少し出たお腹で京吾だとわかった。


「久しぶりだなぁ、康介、元気してたか?」


「ああ、久しぶりだな京吾」


「水田は遅れてくるってよ」と京吾が言った。


「そう」と俺はいった。


 雨だったうえに、二人とも腹が減っていたのでとりあえず駅前の居酒屋に入ることにした。


 店に入ると、青年の店員に端の方のテーブル席に通され、席に着いた。


 店員に生ビールを2つ頼んだ。


 すると、彼が口を開いた。


「今日は、いい知らせがある」


 そう言って、京吾は封筒を取り出した。俺はそれを受け取り、中身を見る。


「来てくれないか、娘の結婚式」


 手紙の中身は、招待状だった。


「娘さん、結婚したのか、めでたいな」


「ありがとう」


 彼は、本当にうれしそうにはにかんだ。


「水田も来てくれるそうだ」


 今日はその件で呼んだらしく、前祝いのようなものらしかった。


 ビールが来ると、京吾は娘の結婚について語った。


 お相手は地元の公務員で、とてもハキハキとした感じのいい男だそうだった。


 京吾の娘とは大学で知り合い、3年間付き合って、今年入ってようやく結婚に踏み切ったらしい。


「心配したんだけどよ、いざ会ってみたらいい人そうでな、安心したわ」


「そうか、そりゃよかった」と俺は相槌を打った。


「式はホテルの式場でやるんだが、予定あうか?」


 俺はカバンからスケジュール帖を取り出し、確認した。しかし、ちょうどその日はすみれの見舞が入っていた。


 予定を前倒しにして、見舞を一日ずらせば、式の日は開けられないこともなかった。


「見舞いだけど、まあ、ずらせば……」


「”そんなもん”いいじゃねえか」


 京吾が挟んだ言葉に、目を見開いた。


 いつもならそんなこと言わない奴なのだ。しかし今日はアルコールが入っていたし、めでたい話で浮かれてもいた。


 そして、アルコールが入っているのは俺も同じだった。京吾の娘の話だけで神経を使っていたのに、触れられたくないところまで触れられて、

 ガコンと、歯車が狂った。


「……いいよな、お前はさぁ」


 俺がそういうと、京吾は自分が気のない言葉を言ったことに気付いたようだった。


「すまん、そういうつもりじゃなかった」


「……いいよ、別に」


 俺はジョッキに口をつけ、数秒黙ってから、思いっきり笑って見せた。


「すまんすまん、いいんだって、めでたいんだから、楽しく飲もうぜ」

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