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この星の魔法少女たちは、まだ戦えない! ~アコンプリス イン マジカルガール~   作者: 大恵
第2章

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第63話 災害、災厄、のち激変 2

 新装備と新部隊と新ドクトリンお披露目のため用意された日米合同演習場に突如現れたタイダルテールの大幹部カナキャタクリズミクリィ。

 悪の組織タイダルテールの大幹部カナキャタクリズミクリィ将軍の正体は、もちろん笛奈(てきな)である。


 肉体年齢を十八歳程度に上げた笛奈(てきな)を模した旧式アバターで、その恰好はなかなかに過激であった。

 丈の短いビスチェに、パリッとしたデザインだが隙間だらけの短パン。

 短パンからは、パンツの紐が伸びて腰のくびれに引っかかっている。


 女幹部は露出が高くてエロくなくてはいけないという思想つよつよなディスキプリーナが、笛奈(てきな)の魅力を出すために必要のない夜なべをしてデザインした衣装だ。


 十八歳時点の笛奈(てきな)は、身長が180センチメートルに迫りかなりスタイルが良い。

 肉感的で野生味溢れるボディに、かっこよさ6、エロさ4の割合のバランスでデザインされている。


 彼女は女子にしては珍しく十五歳以降も身長が伸び、二十歳を過ぎたあたりでも鍛えるほど僅かだが背が伸びる傾向があった。


 なお、小夏と姫子はまだ学校で授業中なので、騒動に気が付くまで時間差がある。

 笛奈(てきな)はサボって保健室で寝て、アバターを操作をしている状態である。 

 もっとも福島と東京の距離では、いますぐ騒動を知って空を飛んでも二人は間に合わないだろう。


 カナキャタクリズミクリィこと、笛奈(てきな)は三十分で終わらせるつもりでここに立っていた。


 今回の目的は示威行為だ。


 悪の組織はいずれ倒される存在。だが、決して侮られてはいけない。

 これはメンツの問題ではなく、計画上どうしても脅威を持たれる必要性があるからだ。

 警察の機動隊と特別班を倒したカラテキック男はそれに適ったが、残念なことにこの怪人は一度負けている。

 再度登場させるにしても、再生怪人扱いなので設定上は弱いことにする必要があった。


 そこで悪の組織の大幹部がついに登場だ。


 ただし魔法少女たちを痛めつけるわけにはいかない。

 挫折は必要だが、圧倒的な脅威にいきなり晒されては折れたままになる可能性が……というのはディスキプリーナの言い分で、実際には彼女のシナリオ重視である。

 そして世間には魔法少女という希望を持たせておいて、それでいて大衆には悪の組織の恐怖を与える必要があった。


 当初、演習場と観客から得られた反応は戸惑いが大きかった。


 これは十八歳の笛奈(てきな)が、女性的に魅力がありすぎたせいだ。

 そのため例え演習場という一般人立ち入り禁止な場所でもあっても、コスプレイヤーか動画配信者が、目立つため暴挙をおこなったと思う者がいた。

 格闘怪人が今まで男性ばかりだったこともあって、女性の怪人が現れる可能性を考慮していなかった人たちもいた。


 ちなみ姿形は成長した笛奈(てきな)だが、性格と技は昔の知り合いを真似ているという。

 あらゆる格闘流派の真似が上手い笛奈(てきな)は、他人のモノマネも非常に得意だ。


「ワタシはカナキャタクリズミクリィ! タイダルテールの最高幹部であり、将軍を務めている!」


 カナキャタクリズミクリィ。

 その名の通り、彼女は爆発するような光を放つ変光星として、そして世界に大変革を齎らす存在として、今日、この場に現れた。


「カナ、カナカタ、カタカタクリズ無理ィ?」

「カタカナムズカシイ〜ネ」

「キャナキャタキャリーキャミーだろ」

「キャリーぱふぱふ?」


 演習場の兵士たちは、カナキャタクリズミクリィの名を一発で覚えることは難しかった。

 名前が長すぎた。

 噛むのも仕方ない。


「キャナ……カナキャタクリズミクリィだ!」


 笛奈(てきな)もだった。

 練習したのにこれである。

 本当に、こんなことで世界へ恐怖を振り撒けることができるのだろうか?


 遠隔地で見えない飛ぶ目を使ってこの様子を見守っていたディスキプリーナは、訝(いぶか)しむしかなかった。


 この異常事態で、陸上自衛隊と米海軍海兵隊はどうすべきだったのか?

 できれば演習場に展開していた部隊は遅滞戦闘を行なって、他の兵士たちは観客席の避難誘導をするべきだったろう。


 しかしそれは結果論である。


 日米の指揮官は、カナキャタクリズミクリィの軽装ぶりを見ていけると考えてしまった。仮想敵として格闘怪人を想定し、日頃から厳しい訓練を積んできた自負もあった。


 見れば彼女の防具はないに等しい。むしろ肌色が多い。

 武器は手に持った長い鞭と、両腰に下げた紐の先に金属……左は分銅(ぶんどう)のついた流星槌、右は鏢(ひょう)がついた縄鏢(じょうひょう)を下げている。


 多少、遠距離攻撃ができるだろうが、小銃の前ではあまりに頼りなく見えた。

 そして日米ともに実弾装備がされた歩兵戦車二輌づつ、計四輌が配備、展開していた。

 新装備部隊が日米合同二小隊と、仮想敵として配置され、それら四輌に乗ってきた八小隊。

 どちらも新旧あるとはいえフル装備だ。


 負けるはずがない!


 現場指揮官と後方で連絡を受けた指揮所は、勝てると判断してゴーサインを出した。


「Hey! girl on the roof! If you're being mischievous! come down!(おい、屋上のお嬢ちゃん! いたずらなら降りてきな!)」


 カナキャタクリズミクリィが立つ模造ビルに、比較的、近くで待機していた仮想敵小隊の隊長が指揮所から命令を受けて呼びかけた。

 銃口は向けていないが跳ね上げればすぐに撃てるように、ローレディポジションでカナキャタクリズミクリィを正面に睨んでいる。

 いくら笛奈(てきな)が十八歳ボディでも、アメリカ人からすれば子供にしか見えないからガール呼びだ。


 相手が悪の組織を名乗っていても、問答無用では撃たない。

 アメリカ軍は正義の軍隊を謳っている。その謳い方が世界の全てには受け入れられず、疑問を持たれていようと、彼らは彼らなりに彼らなりの正義を標榜として行動を心がけている。

 一兵卒や現場の将校ならば、さらにその正義の感覚は誰からも親近感が持たれる正義に近くなる。

 つまり、女子供を撃つなど普通はない。


 カナキャタクリズミクリィは小隊長の優しい言葉に、不敵な笑みで答えた。

 

「You're the one who should climb up!(おまえが登ってくるんだよ!)」


 発言の途中、小隊長はカナキャタクリズミクリィの両腰の紐が解かれて伸びていることに気がついた。

 だが遅かった。


 体重と合わせフル装備で120キログラムに迫る小隊長の体が、引っ張られるように宙へ舞い上がった。

 いつ間にかアンテナ鉄塔と周囲の模造家屋の角を利用し、回折して迫った流星槌が、小隊長を背後から襲って吊り上げたのだ。

 そして高く舞い上がったところでカナキャタクリズミクリィが振るった鞭に捕まり、一気に引き寄せられて彼女の立つ屋上へ叩きつけられた。

 演習用のため安普請の天井が崩れ、小隊長は階下まで落下してしまう。

 ボディーアーマーがあろうと、加速まで加わった落下のダメージは大して軽減できない。

 まして旧式だ。

 一発で小隊長は戦力外となった。


「何をした! 動くな! 動けば撃つぞ!」


 異常な攻撃で小隊長が無力化された光景を見ても、まだ彼らは自制的であった。

 カナキャタクリズミクリィへ向け、小隊七名全員が一斉に銃口こそ向けたがまだ引き金にすら指をかけていなかった。


「隊長さんがやられたってのに、米兵さんは米兵さんだな!」


 皮肉のようなことを言いながら、カナキャタクリズミクリィは左手の紐を手繰った。

 するとどこからともなく不規則な軌道を飛んで迫った縄鏢が、一人の兵士のフェイスマスクを叩き潰した。


 カナキャタクリズミクリィの腰の巻取り機で回収されていく縄鏢。

 砕けたフェイスガードと折れた鼻から血を流して倒れていく兵士。

 逆方向から迫ってきた縄鏢が、後方にいた兵士のふくらはぎを刺す。

 

 これらの光景を見て、指揮を受け継いだ分隊長は叫んだ。

 

「ぅっ! 撃て撃て!」


 普段ならば女子供を撃つような兵士たちではなかった。だが普通ではない状況を見てからの行動は速かった。

 明確な敵対行動があって、残った小隊の隊員たちは銃をカナキャタクリズミクリィに向けて引き金を引いた。


 フル装備の大の兵士が、宙に放り出される光景を見て、兵士たちには若干の焦りがあった。

 死角から襲ってくる流星槌や縄鏢を警戒して、やや動きが硬い。それでも高い位置にいるカナキャタクリズミクリィは、絶好の標的に見えた。


 しかし実は下から上を撃つというのは、非常に困難である。

 兵士たちはよく訓練されているだけあって、もちろん当たらないわけではない。

 だが高所にいるカナキャタクリズミクリィは少しかがむだけで、ほとんどの射線から身を隠してしまう。


「撃ち続けろ! 頭を上げさせるな」

 

 射線が通っていないならば制圧射撃を続けろと、緊急時に指揮を受け継ぐ分隊長が指示を飛ばす。

 小隊で狙撃的な支援を行うマークスマン(選抜射手)が、ポジションを確保するまでカナキャタクリズミクリィを屋上に貼り付けるのが目的だ。


 この隙に、カナキャタクリズミクリィは小隊員を減らしていくことにした。

 十分な遠心力を受けて周囲に放たれた流星槌(りゅうせいつい)と縄鏢(じょうひょう)が、生き物ように死角から兵士たちに絡みつき、引き倒していく。

 まるで模造街のあちこちに、流星槌と縄鏢を持った仲間が潜んでいるかのような攻撃だった。実のところ、あちこちの障害物を支点とし軌道を変えて襲ってきているのだが、そんなことは兵士たちにはわからない。


 マークスマンも移動中、この攻撃によって高所から引き落とされて無力化された。 


 そして銃を撃ちながら倒れる兵士たちは、非常に危険である。

 近くに立っていた仲間を誤射するものもいた。

 演習用に火薬が少ない弱弾装ライフル弾、かつ撃たれた兵士の脊髄プロテクターがなければ、致命傷だったろう。


 混乱する小隊の間にカナキャタクリズミクリィは降りた立ちながら、右手の流星槌を振り回す。

 もう小細工はない。

 嵐のように分銅が兵士たちを薙ぎ倒し、小銃を破壊して無力化していく。

 

 開始わずが数秒で、一小隊が無力化された。

 残りの部隊は、それぞれが移動を開始していた。

 もうカナキャタクリズミクリィの位置から、新装備部隊と残りの旧装備部隊の姿を見ることはできない。


『さすがなのじゃ、カナキャタクリズミクリィよ』


「はっ! オレ様を苦しめたあの女の技にはまだ及ばないがな! それに……お前の世界で作られたこのザイルがなきゃ、ここまでの技はできない……!」


 ディスキプリーナが通信機越しに褒めるが、笛奈(てきな)は珍しく謙遜して見せた。


 今回、武装は異次元製である。

 異常に頑丈で非常に軽い紐で、腰に下げた巻取り機から二百メートルに渡って伸ばして巻き取ることができる。


 障害物を使って回折させると射程はかなり短くなるが、それでも恐ろしい技と恐ろしい射程であった。

 小銃相手でも市街地など条件があるが、笛奈(てきな)の技量をもってすれば対抗できた。


『道具がとびきりとはいえ、それらが絡まらず振り回せるのはお前の技なのじゃ!』

 

 ディスキプリーナは手放しで笛奈(てきな)を褒めた。


「そうかい。ありがと……よっ!」


 日米の兵士たちの姿が見えないにも関わらず、カナキャタクリズミクリィは流星槌と縄鏢を交互に放った。

 それらは残っていた兵士を無力化し、紐は腰の巻き取り機によって回収される。


「よし、旧式装備の部隊は終わり……っと。…………なんだ?」 

 

 もう一小隊を無力化させたところで、周囲の模造ビルと模造家屋が爆発をして倒壊を始めた。

 

 建物は崩れて模造電柱は倒れ、模造電線も無くなったため、

 演習の予定でビルを破壊する計画があったのだろう。

 爆破と歩兵戦闘車の火砲を使って、日米は演習場を平らげた。

 カナキャタクリズミクリィの周囲は、まるで空爆の跡地か、大崩壊後の都市の様相と化している。


「おいおい、仲間を巻き込み…………ああ、ボディアーマーがあるし豆腐みたいな建築材だから、押しつぶされることもないか」


 建造物は取り壊しを想定していて、映画のセットよりは頑丈という作りだった。コンクリートも鉄筋が入っておらず、砂の割合も少なくおからのような作りだ。

 瓦礫に多少高さはあるとはいえ、流石に流星槌を回折させることは難しくなった。


 小銃と拳銃を破壊された兵士は、怪我をした仲間を救出しつつ撤退していく。


「やるなぁ日米の諸君。一発でオレ様……あの女の技を見抜いて対策を考えたか。仲間が生き埋めにさせるのも思いっきりがいい」


 模造の家屋が完全に破壊されなくても、不規則に崩れた障害物を支点にするのは難しい。


 崩壊には巻き込まれなかったが、今のカナキャタクリズミクリィは少し高い瓦礫の上で姿を晒している状態であった。

 日米の部隊も姿が見えているが、数で囲んでいる側が有利だ。

 こうなってしまえば、カナキャタクリズミクリィは十字砲火の的である。


 無力化された仲間を救出している部隊がいる中で、ほとんどの部隊がカナキャタクリズミクリィへ向けて小銃の引き金を引き絞る。


 一斉に射撃され、カナキャタクリズミクリィは絶体絶命──。


 ではなかった。


 小銃弾が殺到する中、カナキャタクリズミクリィは振り回す流星槌と縄鏢の中心で、涼しい顔をして立っていた。


 何もないはずの空中で流星槌が回折し、新たな回転運動魔で加わり加速していく。

 日米の兵士たちが撃てば撃つほど、流星槌と縄鏢の暴風はより荒れ狂っていく。


「何もない空中でザイルが曲がるだと!?」

「ありえない! どうして軌道が変わる!?」


 攻撃が通じないだけでなく、脅威が増していく光景を見て、訓練された兵士たちに動揺が走っていった。


「なにもないわけじゃないんだよねぇ。オマエたちがばら撒いた弾が、オマエたちを削り取るんだよっ!!」


 カナキャタクリズミクリィは少し恍惚とした様子で、流星槌と縄鏢を振り回す。

 銃弾を逸らしつつ、銃弾のエネルギーをもらって屈折し、加速し、周囲全体の嵐を巻き起こす。

 撃てば撃つほど、加速し、暴威を振るう流星槌と縄鏢は、ボディーアーマーを着込んだ兵士たちを巻き込んでも止まらない。


 まさに鉄塊の嵐となって、カナキャタクリズミクリィは演習場を駆け巡る。


 まさに|カナキャタクリズミクリィ《大災害》。

 

 新装備お披露目のため訓練された部隊は、大災害によってこの日、沈黙した。

 

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― 新着の感想 ―
すげぇ、カナキャタクリズミクリィ将軍! 前に見たイラストから、某雲耀の太刀する楠部の牛乳娘みたいに大太刀かと思ってましたが、確かに縄っポイの持ってた。 でも、発射された弾丸を起点に縄を操作するのは基地…
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