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この星の魔法少女たちは、まだ戦えない! ~アコンプリス イン マジカルガール~   作者: 大恵
第2章

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第60話 新しい魔法少女と新しい獲物 1

「新たな魔法少女が確認されました」


 壁の大画面モニターに映し出されるホウキに捕まって飛ぶ少女の姿。

 これを指し示す官僚の報告を聞いて、会議室に集まっていた政府関係者たちは静かに頭を抱えた。

 沈痛な面持ちの面々を前に、面の皮の厚い官僚はお構いなしに報告を続ける。


「なお、タイダルテールの怪人剣道男……ですか? 怪人の発言から総統と呼ばれる組織のトップが難病である可能性と、それを治療できる薬品か道具の情報が示唆されていましたが……」


 確かに重要な情報だ。

 病気を治すなにかと、タイダルテールに総統と呼ばれる存在がいることが判明したのだが──頭を抱えていた閣僚は別の問題に(さいな)まれていた。


「タイダルテールの総統? 万病を治す薬? そんな未確定情報(こと)より、まずまた現れた魔法少女だ!」


 そんなこと呼ばわりされるタイダルテールと、総統の関連情報であった。


「ふ、ふふ……。さきほどホットラインで合衆国大統領(プレジデント)から、日本は魔法少女を育てているのか、と問われたよ」


 机に両肘を突き、指を組み合わせてそこに顎を乗せた伏せ勝ちな日本国の首相が渇いた笑いを漏らしている。

 おいたわしいと視線を向ける閣僚も、またおいたわしいほど目に隈が出来ている。


「で、そのあたりどうでしょうか? 魔女殿」


 面の皮の厚い官僚が無表情でメガネを直し、視線を奥に向けて訊ねた。

 長い楕円形のテーブルの端の席に、政府首脳と官僚の目線が向かう。

 そこには魔女がいた。

 いつの間にか、日本政府の中核に潜り込んでいるアングザイエティーズ・キスだ。


「それは魔法を使える存在の育成についてですか?」


 彼女は狼狽えるだけの政府首脳たちを見て楽しんでいたが、話題を振られ飲んでいた紅茶のカップを置き質問内容について確認する。


「できればそのあたりも聞きたいのですが、まず差し当たってこのアンミ・マジュスについて知っていることがありましたら、お聞かせ願いたい」


 面の皮の厚い官僚の質問は極めて穏やかで丁寧である。

 アングザイエティーズ・キスは、魔法少女エティーズ・ルテティアとしてではなく、魔女として日本政府に協力している……と、政府首脳たちは認識を誤魔化されている。

 魔法少女になると素顔を晒しているのに、誰かもわからなくなるという認識阻害。

 それを利用してアングザイエティーズ・キスは、「ここにいてもおかしくない存在」として紛れ込んでいた。


 この魔法は、「誰だお前」と思われても「嫌ですねぇ、私ですよ私」と言われれば、「そうだ。あなただった」と受け入れられてしまう。


 アングザイエティーズ・キスはこれを「|わたしもまたここにいる《エト・イン・アルカディア・エゴ》」という魔法として組み上げた。


 当初こそ、そうして政府中核に紛れ込んでいただけのアングザイエティーズ・キスだったが、今では頼り頼られる関係となっていた。


「私から言える事は、二つ。まず彼女は魔法少女ではありません。彼女の宣言通り、おそらく以前の私と同じ魔女です」


 ざわりと会場が浮き足立つ。

 以前の魔女と同じ、という本人の評価は、日本の政治中枢を揺るがす発言だった。

 なにしろ魔女アングザイエティーズ・キスは、犯罪者相手とはいえ東京周辺で暴れ回った。

 結果的とはいえ、政治中枢に入り込んだ彼女が協力を対価とし、過去の行動をうやむやにしている状態である。

 それがまた一人現れたとなれば、治安維持のため閣僚たちに緊張感が走るのも当然だ。


「ま、魔女ですか。どうしてそう思われるのですか?」


 首相が代表して尋ねる。彼はアングザイエティーズ・キスを完全には受け入れていない。

 アングザイエティーズ・キスが魔法での利益を供与しようとしても、誇示する精神力を見せている。

 よって、アングザイエティーズ・キスはこの首相を警戒している。


「私が言える範囲でいうならば、魔法少女は通常の条件ではなれません。そしてその手段は私の近くにあって、彼女に関係している可能性はほぼありません」


「手段とは?」


「条件含め、開示できません」

「わかりました」


 けんもほろろに質問を突っぱね、それを受け入れる政府官僚。


「ですが、魔法少女は無理でも、私がそうなったように魔女になることはできます」


「できるのか……」


 会場内の誰もが、互いの顔を見合わせて大変なことだぞと言葉をかわしている。

 少しでも安心したいのだろう。

 不安を共有したいのだ。


 アングザイエティーズ・キスはその名の通り、その口から言葉を出すだけでどこまでも不安を振り撒く存在だった。


「もちろん魔女の育成は簡単ではありません。個人の才能、魔法についての正確な情報の入手、適切な訓練と、かなりの運。今、知り合いに魔法の手解きをしているのですが、才能があるはずなのに芳しくなくて……」


「あまり増やしてほしくないものですが……」

「自重します」


 首相の要望に、素直に頷くアングザイエティーズ・キス。

 彼女は実際、育成を諦めかけていた。

 才能あるものを探した方が早いという結論に、すでに達しているからだ。


 アングザイエティーズ・キスは紅茶を飲み終えると、アンミ・マジュスの映像が映る大型ディスプレイの前まで歩み出た。

 プレゼンをしていた官僚のパソコン連動型指し棒を受け取り、画面のアンミ・マジュスの髪飾りを指し示す。


「さて。ですがこの魔女に私は違和感をもっているのですが……。この髪飾り……から先はウィッグになっています」


 確かに髪色だけでなく髪質が違う。

 アンミ・マジュスは金髪なのに、髪飾りから先はブルネットである。


「確かにまったく色合いが違うが、魔法少女とは髪がグラデーションであることも変ではないのでは?」


 それがなにか? と政府首脳陣は首を捻る。


「確かにそうですね。……娘さんにお付き合いして、日曜朝のアニメをご覧に?」

「勉強しました」

「ご熱心で」


 この面皮厚め官僚。真面目である。

 どうやら娘や孫が見るからとか、実はオタクでしたという話ではないらしい。

 世界に魔法少女が現れたから、真剣に職務として魔法少女モノの勉強をしたようだ。

 アングザイエティーズ・キスはこの官僚に呆れながらも、好ましいと親しみを持った。


 魔女は真面目な人間が好きだ。


 ──話題を修正する。

 再度、アングザイエティーズ・キスはアンミ・マジュスの付け髪を指し示す。


「このウィッグ。おそらくベレニケの髪の毛を模した呪具でしょう」


「呪具? ベレニケとは?」


「星座にある【かみのけ座】をご存知ですか? その元となった神話で、戦勝を祈願するためエジプトのベレニケ女王が祭壇に(ほう)じたというものがあります」


「その神話の、ベレニケの髪を当該女子はつけているのですか?」

「あくまで偽物、いえ、あやかって作られた呪具です」


「偽物ですか……」

「本物じゃないなら……」


 偽物ならばいいのでは? という空気が場に流れたので、アングザイエティーズ・キスは補足する。


「神話級の能力はなくても、物品一つで魔法の効果を発揮できるというのは偽物でも脅威では?」


 指摘されて閣僚たちは、はたと気がついた。

 神話や伝説の現象レベルを起こせなくても、物理法則に反した魔法を少々使えるだけでも現代社会では大問題である。 


 もともと優秀な人物たちではあるが、魔法などいう埒外な存在を受け止めきれず、判断が少し鈍っているようだ。

 歳のせいもある。

 むしろサブカルにどっぷり使っている若者の方が、説明されずともこの問題点に行き着くだろう。


「他にも神話や民話、伝承をもとにして作られたと思われる模造品を、彼女は身につけています。そして……」


 画面が変わり、アンミ・マジュスが炎の魔法を打ち出す画像が映し出される。

 その手の腕輪を指し示し、アングザイエティーズ・キスは説明を続けた。


「この魔法。組み立てられ、アンミ・マジュスの魔力によって行使された痕跡が感じられません。おそらくこの腕輪の力かと」


 ここまで説明されれば、会議場のすべての人間が気が付く。


「では! このアンミ・マジュスはもしかしたら普通の人間で、ただ道具を使ってあなたたちのような力を使っているのですか?」


 官僚の一人が最悪の想定を上げた。

 誰でも、道具さえあれば、魔法などという物理にも現代社会にも反した能力を使える。

 統治側からすれば、恐ろしい事実であった。


「はい。相応の対価が必要でしょうが、使えます。ただアンミ・マジュスが普通の人間であるかはわかりません。魔女と想定して当たっていただいたほうがいいでしょう」


「そうだな。あなどらないほうがいい」


 人間かもしれないが、危険な力を使える魔女として対応する。

 認識を新たにした閣僚、官僚たちに対し、アングザイエティーズ・キスは食い入るように画像の新たな魔女を観察する。


「しかし、これは……すごい呪具です。たぶん……ジャハンナムの手枷? その片割れでしょうか? 宗教的タブーに触れてまで、地獄の炎を撃ち出す呪具を造った罰当たりな魔法使いがいるとは驚きです……。あ、本当の地獄からではありませんよ。模造品による模造の地獄の模造の炎です」


 画面を注視して考察を始め不安になるような一言を漏らしたため、またも場の閣僚たちが騒ぎだしたので、慌ててアングザイエティーズ・キスはフォローを入れた。

 地獄の炎ではないと言われたが、それでも炎は危険である。

 どこでも爆炎を放てるとなれば、安全、治安、防災、全ての面において危険極まりない。


「アンミ・マジュスの能力は、こういった呪具を作れるのか、探し出す能力があるのか?」


 官僚の一人が、アンミ・マジュスの能力の可能性を示す。

 なかなかいい考察だとアングザイエティーズ・キスは感心した。

 同じ魔女でも探知系か、制作系という可能性は彼女も想定していなかったからだ。


「なるほど。タイダルテールがモニュメントを手当たり次第に探している中、魔女アンミ・マジュスが一回で目標が埋め込まれたモニュメントを探し当てたことを考慮するに、何かを探し出す魔法を持っている可能性が高いと考えていいですね」


 少なくてもタイダルテールより、高い捜索能力を持っているのは確実だとアングザイエティーズ・キスは推測した。

 問題は探知、捜索はアンミ・マジュスの魔法なのか、呪具なのか。


「もしくは、アンミ・マジュスは実働部隊で、もう一人、探す能力に長けた魔女がいるかも。あとそういった呪具も持っている可能性。そして作る能力……。ああ、これを別の魔女が作っているという可能性もありますね」


 複数いるかもしれない可能性を示唆し、閣僚官僚たちは唸って黙り込んだ。


「そこで、お願いが一つあるのですが」


 黙り込んでいた閣僚たちに、アングザイエティーズ・キスが提案をする。


「呪具を日本政府で探して、確保してほしいのです」


「まず、それが日本にあるのかね?」


 首相が深刻な表情で懸念を上げる。


「少なくても私は一つ、確認しています。そして、今回現れたアンミ・マジュスは複数、相当量を身につけています。あるのは確かです。問題は人的リソースを割いた捜索能力と、購入資金ですね」


 アングザイエティーズ・キスは少し困りがちに、手でお金のサインを作ってみせた。

 さすがの魔女も、資金面で難があるのだろう。

 

 魔女が見た目の年相応な経済力であることに気がつき、首相は不安が拭えて少しだけ安堵した。

 彼女は超越した存在ではあるが、まだ日本社会に縛られている。それがわかっただけ今日は御の字であるという表情をみせていた。


「わかった。大々的に捜索するとなると、政府が探すのでは本物があると騒ぎになるだろう。極秘裏になるがかまわんかね?」


「はい。もちろん所有権は日本政府に。私としても呪具が拡散したりするのは望んでいないので」


 デジタル対応差し棒を官僚に返しながら、アングザイエティーズ・キスはウィンクをしてみせた。


「では。いつでもお呼びください。気が向いたら必ずお伺いしますので」


 つまり魔女殿次第ですな、と首相が言い返す前に、アングザイエティーズ・キスは黒い影となって闇に消えていった。

 

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― 新着の感想 ―
やはり世界的にも悪の秘密結社や魔法少女は気になる存在なんですね。 科学で証明出来ない事柄は怖いからね。 そして日本の政治中枢にするっと入ってる魔女。 確かにヤバイ。
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