5回目くらいのタイダルテール幹部会議とたぶん30回目くらいの会議
「ぶっちゃけ、笛奈。おぬしならスコラリス・クレキストとエティーズ・ルテティアを何セット分を相手できる?」
会議ということもあり、ディスキプリーナはおどろおどろい総統の席にくまのぬいぐるみを回収し抱いてしっかり座る。
そしてきっかけとして、笛奈に魔法少女たちのおおよその実力を尋ねる。
「ぬるっと始めないでくださいよ。あー、第五回目くらいのタイダルテール緊急会議を始めます」
アーが議事録用の録音のため、冒頭が挟み込まれる。ぐだぐだの会議である。
一瞬、会話が途切れたが、なかったものとして笛奈は質問に答える。
「アバターならあいつら2セット。オレ様じきじきなら、4セットってところだな」
「へえ~意外とギリギリっすね。笛奈さんなら、もうちょっと余裕あると思ってたっすよ」
「もちろん手加減を考慮してだぞ。遠慮なく数人ぶっ倒して、なんでもありなら何セットでも相手してやる」
ペーが意外だと言うと、なかなか負けず嫌いな笛奈はゴールを動かした。
そう強がった後、しばし考え冷静な意見も出す。
「……だが、ギリギリなのは事実だな。今までならいいがスコラリス・クレキストも、魔法で小技を使い始めたし、これから先、どこかで思わぬ不覚を取るかもしれない」
「うむ。ステッキから音声を出したアレじゃな。地味だが魔法も成長しているようで結構結構。で、エティーズ・ルテティアはどうじゃ?」
うむうむ、結構と頷きつつディスキプリーナはエティーズ・ルテティアについて尋ねる。
「その前に確認しておきたいんだが……」
笛奈は腕を組み、目を閉じて尋ね返す。
「なんじゃ?」
「エティーズ・ルテティアは、本当に小桜姫子なのか?」
「間違いない。ミンチル・ミンチルのログでもそうなってるのじゃ」
魔法少女の認識阻害は問題点はあれど、かなり強力である。
ディスキプリーナからエティーズ・ルテティアの正体は、姫子であると聞いているが笛奈は納得してはいなかった。認識阻害が正しく発揮されている証明である。
「MMからの連絡とかないんじゃなかったすか?」
「うむ。双方向性やMM側から能動的なものはない。だが、モニタリングできる情報はこちらにはある。位置情報とはそれじゃな」
ミンチル・ミンチルはプログラムされた存在で意思や魂はない。
しかし魔法少女の味方である以上、ミンチル・ミンチルが悪の組織に情報を与えてしまっているという形跡を悟られてはいけない。
もともとミンチル・ミンチルは異世界の子供用のおもちゃである。
保護者に行動ログを送る機能があるため、それを利用して最低限かつ限定的ながらディスキプリーナはモニタリングしている。
岸 小夏の位置がバレ、それを元に格闘怪人の出現場所を調整できているのもこれのおかげである。
「──と、これら位置情報と魔法少女機能を付与した情報はログをモニタリングした結果、エティーズ・ルテティアは小桜姫子と判明しておる」
アングザイエティーズ・キスのままでは正体にタイダルテールは気がつかなっただろう。
しかし、ミンチル・ミンチルが彼女を魔法少女にしてしまったため、その行動ログを解析され、ディスキプリーナに知られる結果となった。
「そうか。なら総統閣下を信用するとして」
一応、納得して飲み込んだ笛奈は、改めてエティーズ・ルテティアの評価を下す。
「エティーズ・ルテティアはあれだ。キレイにまとまって脅威はない。悪い事じゃないんだが、なにやってくるかわかるし、オレ様からしたら低レベルすぎるから評価がどうしても低くなる」
エティーズ・ルテティアである小桜姫子は、実家で武道を修めている。しかし、それはあくまで一般社会レベルでの話であり、表の世界のプロ格闘家レベルにも達していない。
魔法少女として基礎運動能力や反射神経が強化されているため強さは達人並みであるが、それでも笛奈目線ではまだまだだ。
笛奈が戦ってきた上澄み相手では、苦戦して順当に負けるだろうという評価だ。
「魔法っていう下駄履かされてると考えると、その下駄がどこまで高くなるか次第だな」
なまじ笛奈の専門分野であるため、エティーズ・ルテティアへの評価は厳しくなる。
「ですが、彼女の魔法は脅威ですね」
アーがエティーズ・ルテティアの評価を補足する。
「攻撃的ではないにしろ、使用してくる魔法は多彩かつ実用的です。戦闘以外でも評価に値します」
ゼネラリストであるアーにとって、エティーズ・ルテティアは有益であり脅威であり未知数という評価となる。
「わかっている時点で、一度に広範囲への数十人からの治療は脅威です。物品の修復も可能。あれほど劇的な効果は賛辞するほかありません」
「うむ。そうじゃの。あれはこっちの世界からしたら、魔法というより奇跡に見えるじゃろうな」
「なあ、ディスキプリーナ。お前らの世界じゃ、エティーズ・ルテティアがやってるようなことってどうなの? 普通なのか?」
「基礎技術になっているので、個人でやるより道具を使っておるのじゃ」
「どういうことっすか?」
「うむ。例えるならば、誰でも時速百キロメートルで走って隣町に行けるんじゃが、それはちょっと息が切れて疲れるから、安くて使いやすいボタン一つで走る自動運転の車を使うという感覚じゃ。これなら荷物もいっぱい運べるし身体一つより便利なのじゃ。そう考えるのじゃ」
「あー、なるほど。そらすごいっすね」
「やっぱ、すげぇな。お前らの世界」
誰でも高い能力を持ち、それを簡単に安価で再現し代用道具が溢れる世界。
改めてノイズィ・スラッシュの脅威を認識する笛奈とアーガーペーたち。
「簡単にいえば……。戦闘では天才的センスを持つスコラリス・クレキスト。魔法の才能が高いエティーズ・ルテティアってことっすか」
「うむ。姫子がどんなきっかけがあったか知らんが、自力でこの世界のシステムロックを解除したのは、称賛に値するするのじゃ。まあ、おかげで魔女アングザイエティーズ・キスなどという存在にも、なってしまったわけじゃが……」
自分がプロデュースできなくて口惜しいと、ディスキプリーナはくまのぬいぐるみを抱きしめる。中綿が圧迫されて変形し、助けてくれとくまのぬいぐるみが腕を上げているように見えた。
「なんなんすかねぇ……アングザイエティーズ・キスって」
「魔女というのはこちら側の言い方じゃが、まあ人間を止めたって話じゃ」
「だ、大丈夫なんですか? それ?」
ペーの疑問に軽く総統は答え、アーは深刻に受け止めた。
「安心せい。別におかしいことではない。それをいったら、ほれ。そこの笛奈。人間を止めかけておるじゃろ?」
「ほー」
「そうか」
「なーんだ」
「おい納得すんな、お前ら」
安心するアーガーペーたちに、拳を握り絞める笛奈。
「人より上の存在になっただけじゃ。おそらく過去の英雄や勇者、神話で神として崇められている存在はそういったもんじゃろう」
ディスキプリーナは常に上から目線だが、実際に彼女たちと比べてしまうと人類は後塵を拝している。
そうだったのか、と納得する4人の中で、アーがふと気が付く。
「……待ってください。じゃあ、笛奈さんもシステムロックを外して、魔法を使っているのですか?」
「笛奈のは魔法でもないし、外れてもおらん。肉体のリミッターが外れているだけで、魔法をロックしておる世界のシステムに、笛奈は触れてないのじゃ。……まあ、あれじゃ。パソコンでいうならば、配布されているあらゆるアプリをダウンロードしていてCPUはオーバークロックで爆速じゃが、アプリもOSも裏機能は使っておらんのでただすごいだけみたいなもんじゃ」
「確かにオレ様は、肉体機能がすごいだけで技は全て既存の武術だからな」
志太流が存在しない理由は、独自流派となるほど体系化していなからだ。
過去の天才が作り出した技術体系を、広く吸収して最大限に生かしているだけに過ぎない。
彼女はすでにある技術を極め高める才能はあれど、新しい格闘技を生み出せるほどの天才ではないのだ。
「じゃあ、笛奈さんが人間の知能を持った、ただのゴリラってわかったところで──」
「ぶっとばすぞ」
「逆に、魔法少女ちゃんたちの欠点はなんすかね?」
ペーよりゴリラ扱いから真面目な話を振られたので、笛奈はしばし考え答える。
「…………スコラリス・クレキストの動きに合わせられる仲間はそうそういないって問題があるな。エティーズ・ルテティアが共闘できているのは、オレ様がまだ手加減しているからだ。本気出すと、オレ様もエティーズ・ルテティアも考えつかないことを、とっさにしてくるだろうな、あのスコラリス・クレキストは」
「エティーズ・ルテティアはどうじゃ?」
「…………武道をやっていたからそれらしく戦えるが、あいつはどうも戦闘向きじゃない。たまにいるんだよ。そこそこ強くなれるけど、自分より強者を倒せる資質がないってやつ」
笛奈の評価は厳しく、呆れ気味の色が混じっていた。
きっとそういった者たちを、かつて多く見てきたのだろう。
「格上に弱いのじゃな。ジャイアントキリングをできるかも知れない可能性の塊であるスコラリス・クレキストと、安定しているが強さに順当なエティーズ・ルテティアか」
感慨深くなんどもなんども仰々しくうなずくディスキプリーナ。
そしてしばらく目を閉じ、なにか思いついたように呟く。
「うむうむ。悪の組織らしくなってきたのじゃ〜〜」
「おい、こいつ、オレ様たちが真面目にやってんのに、ごっこ遊び気分だぞおい」
「せめて最後まで真面目にやってほしいですよね」
「人類なめてるっすよね、総統」
「相当なめてるってか? がはは!」
笛奈とアー、ペーが不満を漏らす中、ガーは偶然のダジャレに気がつき愉快そうに笑った。
ほとんど会議に参加していないガーも、なかなか組織を舐めていた。
困ったもんである。
◇ □ ◇ 魔 ◇ □ ◇
「では、これにて緊急閣僚会議を終了いたします」
日本の政治中枢で、国家を背負う政治家や官僚たちが一斉に息を吐き出した。
「はは、これで三十回目くらいだったか? 緊急閣僚会議?」
「タイダルテールの怪人が現れるたびにこれでは、大変ですな」
世界が大きく変わった日から、政治と行政は息つく暇がない。
怪人への対策、魔法少女の取り扱い方、法整備に諸外国への対応。
どこか緩いタイダルテールと違い、永田町と霞が関はこの一か月は眠らない街と化していた。
「次の議題は会議を開く条件でも決めますか?」
「そうですな。法整備よりも早急に決めませんと身体がもちません」
冗談めかしていう閣僚も、その目は真剣そのものである。
ペットボトルの水で喉を湿らしてから、首相は会議室の一角に視線を向けて訊ねる。
「どう思われますかな? 魔女殿は?」
視線の先、そこには鬼がいた。
昭和の時代から、魑魅魍魎が跋扈するだの百鬼夜行など言われていたが、令和の自体になってついに鬼が現れた。
魔女アングザイエティーズ・キスが、永田町の鬼として座っている。
ほかの閣僚たちの席に置いてある飲料がペットボトルの水であるのに対して、アングザイエティーズ・キスはウェッジウッドのカップとソーサーを持って紅茶を嗜んでいた。
紅茶を一口飲み、香りを楽しんでからカップを置く。
「それは遠回しに、あの時は苦労したということでしょうか?」
「いえ、皮肉ではないのですよ、魔女殿」
アングザイエティーズ・キスも世間を騒がせた張本人である。
事実、当時の政界は上を下への大騒ぎだった。
「まあ、お騒がせしたのはご迷惑をおかけしたとは思っていますが、謝罪は控えさせてもらいますね」
「こちらも追求しませんよ」
アングザイエティーズ・キスは、決して自分が悪いことをしたなどとは言わない。
政治家たちも理解しているのか、それ以上は何も言わない。
「それで会議の条件については?」
「私は不定期で気軽に参加している立場なので、この点で意見する立場ではないと思います」
「そうですか」
言葉みじかに確認しあう様子から、すでに魔女が日本国の中枢に食い込んでいることが伺いしれる。
笛奈はエティーズ・ルテティアを脅威と見ていない。強くはなるが、真の強者に出会えば地金を晒すタイプだと思っている。
だが、エティーズ・ルテティア…………いや、アングザイエティーズ・キスの強みはシンプルな戦いで発揮されるものではなかった。
ディスキプリーナが悪の組織ごっこで満足しているころ、魔女アングザイエティーズ・キス=小桜姫子の方がよほど悪の道を邁進しているようだった。




