醜い争い
俺は鉄格子を触ってみる、冷たい感触、固くて殴っても壊せそうになかった
壁まで辿る、鉄格子は壁にアンカーボルトで固定されていた
数秒、指で回そうとしたが、固く指を痛めただけで終わる
「出れそうにないな」
別に焦ってはない、悪い事に足を染めているのだ、監禁されるどころか、これ以上酷い目には何度も合っている、それでも毎回何とか生きて帰ってきたのだ
今頃急に俺が消えて、仲間はてんてこ舞いで俺のことを探しているだろう、見つかるのも時間の問題だ
ふと、大森を見やる、監視するように俺を見つめていた
目覚めてから二時間ほど経っている、その間ずっと俺のことを見つめていたのか?狂気的だ
彼の表情は彫刻のように固まっており、少なくとも、楽しくおしゃべりをする気分ではなさそうだった
一ヶ月前、俺はこの男の仲間に半殺しの目に合わされた
酷いもので、あの日以来脇腹が痛い、もしかしたら、どこかにヒビでも入っているのかもしれない
俺は壁に描かれた『茜を殺した者はすぐに贖罪しろ』の文字を見て
「なあ、贖罪って何だ?」
俺の問いに大森はむすっとした顔で答えた
「そのままの意味だ、自分の罪を償うんだよ」
大森は立ち上がり、椅子を蹴飛ばす
「さっさと言えよ、俺が全てやりましたって」
鉄格子越しに俺を睨む、こっちも負けじと顎を突き出し、にじり寄った
「俺はやっていない、アリバイがあっただろ、お前がご丁寧に付けてくれた手錠があったんだ、それなのに茜を殺す事なんてできない」
ペットカメラを見やる、もしこの会話を聞かれていたら、解放してくれるのだろうか
「ああ、そうだなっ!」
大森は俺の胸ぐらを掴んだ
「いいか?お前がどんなトリックを使ったのか知らないが、犯人はお前だ」
「はあ、手を手すりに繋がれたまま隣の部屋に忍び込んで、殺したというのか?一体どんなトリックを使えばそんな事ができたのか、ぜひご教授いただきたいね」
そう言うと、大森は少し怯んだように、胸ぐらを掴む両手の力を緩めた
俺はペットカメラを見る
「いいか?もう諦めろ、明らかに俺は犯人じゃない、だろ?」
大森は少し悩むように顎に手をやる
裏切った意趣返しだろうか、男は頑なに俺のことを犯人に仕立て上げようとしている
「俺がお前に手錠をつける前に茜を殺したんだろ、お前が原田の家に入るちょっと前に、茜の家に押しかけてぶち殺せば成立する」
「違う、第一、茜が殺された時間は、俺が手錠で手すりと繋がれている間だ」
「それはどうしてだ?」
「警察からの取り調べの時に聞かされなかったのか、原田が外で人を呼びに行った時に悲鳴が聞こえたんだ」
この悲鳴は原田だけではなく、他の住民も聞いていたらしい、声色が彼女の肉声だと周りの人の証言もあった
「録音されたものかもしれない」
「昔の推理小説じゃないんだから、第一外まで聞こえるほどのスピーカーなら音割れしててもおかしくない、だとしたら皆んな茜の肉声だとは思うはずがない、だろ」
「まあ、それもそうだな」
大森は倒れた椅子を直し座る
俺はペットカメラを見やると布団にくるまった
檻が圧迫感を持って、自分を押し付けているような錯覚に陥る
自分は一生ここから出られないのでは?そんな思いが脳裏によぎった
早く助けに来てくれ、と叫び出しそうになる
先程までの楽観的な考えは、自分を安心させるためだと遅れて気づいた
眠ろう、眠って意識を失いたい
目をつぶっても、なかなか恐怖で寝付けなかった




