第5話 偽りの花嫁
ドボボボボボ
ちゃぷ ちゃぷ
空を見上げると天窓は高く、上の方は湯気で霞んで見えない。少し温度にぬるさを感じたので大きなドラゴンを模した石像の口からお湯が噴き出ているところまで向かう。
その距離約20m。中心部まで寄るとやはりかなり温度に差が出るようで肩まで浸かる。
「ぽけーー」
ぽかんと口を空けながら、何故今自分がスーパー銭湯よりも広さのある浴槽に浸かっているのか分からない。
先程までお世話係なる人が5人ほど配属されたが途中で断った。なので現在このだだっ広いお風呂に1人取り残されている。
汗で汚れた制服はすぐに洗濯してくれるそうだ。まあ正直今日一日わけが分からず走り回って浸かるお風呂は格別なのだった。
「私、なんでこうなっちゃったんだろう」
ここには両親も仲の良かった友達もここがどこだかも分からない。なんともいえぬ不安が押し寄せ水面に映る自分自身を見つめる。
「失礼します」
いつの間にか、お世話係の1人がドラゴンの頭の上に立ち、小夜に話しかけてきた。
「うわあッッ!?びっくりしたあ!!」
小夜は遥か上から声をかけられ慌てて空を見上げると真顔でこちらを見ていた。ちょっとこわい…
「あの、なんでそんなところに…」
「先ほどから何度かお呼びかけたのですがこの広さのせいもあったのか応答がなかったものですから仕方なくこちらからの登場となりました。このような事態になり謹んでお詫びいたします。」
と深々とお辞儀をされる。どうやって登ったかのかも気にはなったが今はそれよりも、本題であった。
「どうしたんですか?」
小夜が下から尋ねると
「小夜様のお召し物ですが明日にはお返しできるかと思います。ですのでこれから国王陛下の所へはこちらでご用意した物で出席して頂いてよろしいでしょうか?」
「わかりました。こちらこそ急におしかけてすみませんでした」
お世話係の人は一度深く頭を下げると何も云わず消えていった。 どこへ?
一方その頃、先に風呂からあがったグエンは先に王の間にて、国王陛下と対談をしていた。
国王の間は地は全面大理石のような素材でできており、壁にはこの世界の名のある画家達の絵画が飾られている。
中央に赤いカーペットのようなものが引かれ、その先には3段ほどの段差と、いかにも王の座と呼ぶにふさわしいアンティーク調の高級感のある長椅子に男が腰掛けている。
グレンは先程の鎧の屈強そうな見た目とは裏腹に今は白をメインとし裏地は黒、そして青のネクタイを着こなした金髪貴族へと変貌していた。
相変わらずのキラキラエフェクトは健在で今の気品さととてもマッチしていた。
「国王陛下、先の説明にもあったように各地で甚大なマナ災害が確認されています。その影響により各国の国々で暴徒、謎の奇病などの報告が相次いでいます」
それに反応するように白い髭を顎に蓄え肩ほどまで伸ばした白髪の男が相槌を打つ。
男は左右の手指に宝石のついた指輪をいくつも身につけ赤をメインとした高級そうな布地で作られた服装を着こなしている。
顔には上から下にかけての古傷があり、そこから睨みつけるような眼光は国王の威厳を更に醸し出している。
「ただ待っているだけでは収束がつかないな…やはり早急に原因追求に赴く他ないか……分かった、グエン。我が国の入国検査をこれまで以上に厳重に行い被害を最小限に抑えろ。マナの影響受けている者を絶対に通すな。もしかしたら伝染の可能性もありうる」
「は、承知致しました。国王陛下」
話が一区切りすると先程まで険しい顔をしていた国王は口元を緩ませる。
「はは、相変わらず堅苦しいな、噂通りの騎士の鏡だな。今時実の父にそこまで律儀な子も珍しいと思うぞ?今は私とおまえだけなのだから、楽に話せ」
それを聞くとグレンは膝まついていた足を持ち上げ凛々しい顔を国王陛下に向ける。
「わかりました。父上」
「ところで、グエン?例の人間は連れてきたか?」
「はい、父上!少々時間がかかりましたが既にあちらで待たせております」
「おお!そうかでは早速ご対面といこうか」
「かしこまりました。小夜殿!!入ってきてくれ!!」
「小夜殿?」
グエンが呼びかけると外側の門番2人が分厚い扉を開門する。
するとそこには黒をメインにフリルの先や所々に赤を散りばめた上流貴族の服を着せられていた、小夜が立っていた。
風呂上がりのせいか艶めく肌と髪は服装も相まって彼女の気品と美しさを底上げしていた。
そして青く綺麗な光沢を放つ髪留めはこの国にはもちろん存在せずそれがより一層彼女の華やかさを演出している。現に門番の男どもは彼女に釘付けにされていた。
「はい、失礼します」
そういうと小夜はなれないハイヒールのような靴を履き少しずつ歩み寄ってくる。
グエンはキラキラとした表情でぎこちなく歩く彼女の手を引き王座へ向かう。
「???????」
国王陛下はその映像を瞼に焼き付けながらニッコリとしている。
(…あれ?なんか息子が嫁らしき人連れてきたんだけど?)
想定とかなり違った出来事に国王陛下は笑顔のまま固まった。
(待て待て、私、先日国の安寧のため西の大陸の国の姫と結婚させるってゆったよね!?お父さん、もう手紙送っちゃたんだけどなーグエンもいつものうっとおしいくらいのキラキラな顔で承諾してくれてたんだけど、何あれ嘘だったの!?遅めの反抗期!?え?うちの息子こわいんだけど)
どんどん青ざめていく国王陛下は先程までの気品のあるダンディーな影は一切なくなり、ただの1人のお父さんだった。そしてくわっと目を見開き、口を開ける。
「お前に息子はやらんッッッ!!」
覇気をまとった国王陛下はビシッと小夜に向かって指を差した。
小夜からしてみれば部屋に入ったらなんか急に知らないおじさんに指をさされて意味のわからないことを云われたのだった…視線をグレンに向けると頭にクエッションマークを浮かべたグエンが相変わらず笑顔で固まっていた。
小夜もわけが分からなかったがとりあえず笑顔を作って前に向き直る。
なんかヤバい人が目の前にいる。それが小夜の率直な感想だった。




