第26話 メイドの真髄
広大な森を月夜の明かりに照らされたメイドが森を駆ける。それはただ奴から少しでも距離を取るために…
「ハッ…ハッ…」
シルヴィは小夜を抱え全速力で疾走するものもふと立ち止まる。
「グエン様が敗れたとはいささか考えにくいですが、万が一のことも考えないといけないですね」
目の前にはあの白銀の少女がそびえ立っていた。
シルヴィは木を背もたれにして小夜を下ろすと、すぐに向き直る。
相変わらず彼女は無表情のままであったが、その瞳には蒼い炎が宿っていた。そしてー
ー肉体強化ー 全真 (ぜんしん)
するとシルヴィのメイド服はなびくようにゆれ、体中のマナを包むようにして纏う。
基本肉体強化は 巡 硬 見心 の三種類に派生しその都度状況に応じて仕え分けたり、危険だが重ね技として運用していたりするがシルヴィのこれは全く別のものである。いや元々はこれがこの強化術の本来のあるべき姿だったのかも知れない。
巡の攻撃力への運用
硬の防御力への運用
見心の反応速度の運用
それら3つのチカラの流れはそれぞれ性質が異なり重ね技として利用している際にも、身体の部位と部位で違う性質を促しているだけであり、ただの両手持ちなだけである。
しかし今の彼女のマナの流れはその3つの性質を一つに束ねたものであり、それが1つのマナのチカラの流れとして顕現している。
無論この境地にたどり着いたものはシルヴィ含め今現存する人類ではほとんどいない。それどころかこの技の存在を知る人間でさえほぼ皆無である。それほどに強大で圧倒的なチカラは長い歴史の間、厳重に隠蔽されていた。
シルヴィはそのことも重々承知の上の上でこのチカラを解放し身に纏ったのである。
「フーーー」
彼女が肺から空気を巡らせ外に吐き出すと一気にそれをぶつける。
初撃、シルヴィの拳が炸裂する。だがまたしても少女にすんでのところでかわされる。
しかしシルヴィが放った拳は地面をえぐり、周りの空気をもダメージに変える。そして、少女はその風圧の餌食となり吹き飛びそのまま森に消え大木を何本もへし折った。
オーラを纏ったシルヴィはそのまま森をみつめる。
「……来る……」
その刹那、彼女が神速で森から飛び出しシルヴィの背後を取るとそのまま、飛びかかるように刃物を突き出すがまるで後ろに目があるようにシルヴィは身体をよじりその勢いのまま少女の頭を掴み地面に叩き落とす。
地面はクレーターのように広がり、破片が飛び散る。
そして掴まれたまま少女は唱えた。
中級魔法 エクスプロージョン
その手はいつの間にか、シルヴィの下腹に当ててあり、少女は自爆覚悟で発動する。
すると辺りが一瞬、光に包まれたような感覚に陥りそのまま爆裂し、火炎のような火花が飛び散り、爆風が吹き荒れる。
「んん…んんん。むにゃむにゃ…もう食べられないよ…えへへ」
風の幻聴かー何かの声が聴こえた気がしたがおそらくきのせいだろう。
そして立ち込める煙雲の中から一人のメイドが飛び出す。
彼女の服は汚れあちらこちらに焼き付いた後が残っていたがそんなことには気にも留めなかった。
「これが本当に人の戦いですか…」
そして、爆炎の中、こちらを覗く赤い目が映る。
「くっ…」
奴の生存を確認した矢先、少女が飛び出しこちらに駆け寄る。
シルヴィはすぐさま横の大木を手刀でバターを切るように切落としそれを片手で少女の方へ投げ飛ばす。
大木は凄まじいスピードで目標に向かうが、少女はそれを片手ではじき返そうとする。
しかし
跳ね返そうとした腕がえぐれそのまま、身体ごと再び爆炎に飲み込まれる。
全真状態のシルヴィは触れたものに直接マナを送り込んで一時的にだが能力を付与することができる。
先程の大木には硬のスキルと同様に鋼鉄の護りを与え、その鉄の塊をぶつけた。
爆炎に大木という燃料が加わり、更に燃え広がり地獄の業火へと化す。
シルヴィは全真を解くと、その場で膝をつく。
「ハアハア…」
この状態は常にマナを高出力で放出し続けるようなものであり、その燃費の悪さから、完全なる短期決戦型の状態だ。
「とんだ山火事ですね」
彼女は次々と燃え盛る木々に背を向け小夜の元へと戻る。
パキッ
「!!?」
乾いた枝を折る音、炎の中には、あの少女が立っていた。
「そんなはずは…確かに手応えはあったはず」
シルヴィは半分絶望したような顔でそういった。
少女はゆっくりとこちらに近づきながら、ねじれた腕や、燃えた身体を、瞬時に再生していった。
シルヴィは切り替え、構えを取る。しかし先程の全真はすぐには使えない。
シルヴィは構えを取りながらも思考を巡らせる。
(なんとしても小夜様だけは御守りしないと…だとしたらもうあの手しか…)
そしてシルヴィは覚悟を決めると、別の力を腹の奥底から引きずり出す。
突如彼女の周りが赤黒く染まり、彼女を包むマナの色が変化する。シルヴィは近づいてくる少女を威圧するように大気を震わせる。
そしてシルヴィが口を開き何かを呟こうとしたその時、いきなり目の前にクロノが現れ、少女に手をかざす。
幻級魔法 メニピュレートタイム
「シャット」
すると少女はまるで最初からいなかったかの如く姿を消した…いや消されたというべきか…
シルヴィはその一連の流れを目視した後その力を再び眠らせる。
「ハア…ハア…どこにとばしたのですか?」
シルヴィはそれをクロノに確認する。
「さぁ?適当」
クロノは何かひっかかったような口ぶりで適当に答えると燃え盛る炎に手をかざし消した。
「シルヴィ!!大丈夫か!?」
遅れてグエンが駆けつける。
「ええ、もう終わりました」
そうゆうとシルヴィはクロノの方を見つめる。
「そうか…」
グエンは十分伝わった様子を見せると、小夜を抱え森を後にしシルヴィもそれに続く。
ただクロノだけがしばらくそこに居座り続けていたのだった。




