第23話 小夜の選択
「冷煎さんどれにしますか?」
小夜は一通りメニューを見ると転入生に云う。
「新作のシェイクで」
「じゃあ僕もそれで」
放課後のファストフード店で男女が向かい合って並ぶ光景は他の誰かが見ようものなら基本そういう風に映るものではあるが、もちろん両者にそういった感情はほぼないに等しかった。
チュー
小夜は無言でシェイクをすする。夏を感じさせるようなトロピカルな風味が口の中を駆け巡り、乾いた喉を潤わせる。
「山城君、新しい学校はどうかな?」
転校初日にして友人と呼べるに値するかも怪しい関係の彼女の最初の言葉はそれだった。
「うん、それなりに楽しいよ」
屈託のない笑みを浮かべる転入生に小夜は満足げに答えた。
「それは良かったよ」
「……………………」
「……………………」
「冷煎さんはここによく来るの?」
「うん、友達と時々、この前も来たよ」
そうゆうと転入生は目を細める。
「そう、僕と同じだ」
そう云うと彼は続けて口を開いた。
「ねぇ冷煎さん、僕に何か聞きたいことがあるんじゃないのかい?」
不敵な笑みを浮かべる彼の声はいつもより少し低かったように思えた。
小夜はテーブルから転入生に視線を戻すと伝える。
「ねぇ、あなたは何者?」
小夜はいつもの明るい声ではなく、落ち着いた棘のある言い方をする。
「どうしてかな?」
質問を質問で返すなと誰かが云っていたがその時の彼女には何故か彼が何を望んでいるか理解できた。
そしてー
「ここは私の知ってる世界じゃないんだよね?」
それを聞くと彼は笑った。
「意外だなあ。君はもっとそうゆのには疎いのかと思ったよ。確かにここは君がいた場所じゃない…けどもう一つの君の可能性でもあるんだ」
小夜は真っ直ぐな視線を彼に向け続けている。
「単刀直入に言おう。僕は本来この世界から今君がいる異世界に召喚されるはずだった人間だ」
小夜は驚きその疑問について問う。
「それって…なんであなたがそんなことを知っているの?召喚される前は異世界なんて認知してないでしょ?」
「そうだね。けどこの空間は特別だ。過去、未来、そしてあったかもしれない世界線が全て共有されている。だから僕が転移者であった記憶もあるんだ。君はこの世界のオーナーによって異世界にいた記憶を忘れ去られちゃってたみたいだけど、その口ぶりを察するにもう全部思い出したようだね」
小夜はこの店に入ったその瞬間から今までの全てを思い出していた。
この2日間で小夜は少しずつ失ったものを拾い集めてここにくることで完成する…それがさっき分かったのだ。そう、この始まりの場所で。
すると彼は小夜に選択を迫った。
「君ももう気づいてるよね。ここは幻じゃない。この世界での選択が君の未来を大きく変えるってことも」
小夜はその言葉に唾を飲む。
「つまり、私がここで、あの扉を開けなかったら…」
「そう…君は今まで通りの生活に戻れる。もちろん向こうには本来いるはずだった僕がいくよ」
その発言に小夜は戸惑う。
(ここで私が行かなかったらいつもの日常に戻れる…また友達と、家族と一緒に平和な毎日を続けられる…けど…)
「君は異世界になんて一切興味のない女の子、それに間違って連れてこられた人間だ。更に君の目的はここに帰ることだ…もう迷う必要はないんだ。大丈夫、後は本当の転移者に任せてくれ」
そうゆうと彼は席を立ちその場を離れるとあの扉に向かう。きっと彼が扉を開けたらこのままこの世界が現実になる…そう彼女には理解できた。
そして小夜は彼から目線を外し真剣な面持ちで下を向く。
(そう、これでいいんだ…これは私が望んだこと…私は別に異世界に興味なんてないし勝手に連れてこられただけだったんだ。これで終わるんだ)
そう彼女は納得する。
しかしふとあの時の父の言葉が頭をよぎった。
「だから、今度は小夜が自分で決めた道を行きなさい。今度は小夜自身が幸せになっていく番だ。楽な道じゃないのかもしれない、でもきっとその時は側にお前を支えてくれる人がいるからね。それは父である俺が保証する。小夜は他人を幸せにできる人間だ。私達がそうであったように」
「…そうだ…私にはもう、向こうで帰りを待っててくれる人がいるんだ…その人達を見捨てて私だけ勝手に帰るなんてできないよ」
この3ヶ月、たった3ヶ月だったが小夜にとっては多くのものを貰ってそしてそれをみんなに届けたい…そう思った。
あの世界は小夜にとっては楽しくもあったが、昨日笑ってた人が平気で死に、多くの人が犠牲になったりもする、そんな無情な世界。
でもそんなどうしようもない世界だけれどみんな必死に大切なもののために生きている。そんな美しく儚い世界だと教えてくれた場所でもあった。
そして小夜の目に再び光が宿り、立ち上がると彼の腕を掴んだ。
彼は驚いてこちらを振り返ったがすぐに冷静になる。
「君はあの世界のことを知ってそれでもいくのかい?」
彼がそうゆうと小夜は静かに凛々しい顔で頷いた。
「うん。みんなが待ってるから!」
その言葉を聞いて彼は諦めたように笑い後ろに下がる。
「全く、偽物が本物の変わりをするなんて変わってるね。この物語は」
そう呟くと彼は消えた。
そして小夜はあのドアノブに手をかける。後ろに友人2人と、家族の気配を感じた。だが小夜は振り向かない。次に逢う時は世界を救った後、そう思ったからだ。
「じゃあーみんないってきます」
「「いってらっしゃい!!」」




