第22話 転校生
翌日
小夜が目を覚ます。昨日の朝が嘘のようにすっきりと目覚めた彼女は辺りを見渡す。
自分の部屋…17年間私と共に過ごしてきた自宅だった。外は今日も一段と気温が高く、今年一番の猛暑だと云う。
彼女はそれを家族の誰かがつけていたテレビの情報から共有し自宅を後にする。
「いってきます」
小夜がふと視線を送るとそこには誰もいない。
いつもは母が玄関越しで私を見送ってくれるのだが今日はその姿はない…
「…………………」
きっと忙しいのだろう。こういう日もある。毎日のことだもの…そう納得し登校する。
初夏の太陽が小夜の白い肌を焼きそこからひたすら汗を流す。小夜は片手で汗を拭いながら今日も快晴の空の下ひたすら歩いていく。
「ふー暑いなぁ」
昨日のように変な幻覚を見ることもなく、今日は寝起きもよかったおかげかいつもより早く学校に到着した。
教室に入るとまだ少し早いこともあってか生徒の数もまばらだった。
「おはよう」
教室に入り彼女が挨拶をするとまるでこだまのように他の生徒達も同じく繰り返す。
私は窓際の席につくと辺りを見渡す。まだ友人2人もきていないようだ。
(暇だなぁ、普段こんなに早く来ることないから時間の使い方わかんないや)
小夜は教室に備え付けられているエアコンの快適さと先程の登校中の気温差に気が緩み瞳を閉じた。
チャイムが鳴る。
「起立、礼」
小夜は目を見開くと無条件で席を立つと少し遅れて頭を下げる。
すると担任の先生の横に見慣れない男子生徒が立っていた。
「えー突然だが転入生を紹介する」
すると先生とその転入生は無言で相槌を打ち、黒板に名前を連ねる。
「山城 明 やましろ あきら といいます。途中からの転入で分からないことが多々ありますがよろしくお願いします」
転入生は特に目立つ印象はなく、黒髪で第1ボタンまでしっかりと止め、初印象としては及第点の作り笑顔でそう名乗った。
高校三年の、更にこの時期にクラスに新しい名前が刻まれ、席は小夜の後ろに案内された。
小夜はすぐ後ろの子ということもあって彼が着席した後に声をかけた。
「始めまして、私は冷煎小夜、短い間だけどよろしくね。山城君!」
小夜は少し気恥かしそうに笑いながら自己紹介した。
すると彼も笑顔で応答する。
「うん!こちらこそ宜しく。冷煎さん」
小夜はそんな乾いた笑顔を向ける転入生を少し不憫に思った。
(家庭の事情とはいえ、こんな時期に転校は辛いよね、きっと仲のいい友達もいたよね…あっそうだ!!)
「山城君!良かったら私の友達も後で紹介するね!…ええと」
小夜は視線を友人の席に向けて転入生に分かるように指を差す。しかし、そこはただの空席だった…仕方なくもう一人の友人の席にも目線をやったが、どうやら運悪くどちらも欠席のようだった。
「あはは…ごめんね…今日2人とも休みみたい…」
小夜は申し訳なさそうに謝罪すると彼は笑顔で首を横に振り口を開く。
「じゃあまた明日改めて紹介してね」
昼休み
いつも2人と食事を共にすることが多いため今日は久々に一人での昼食となった。
小夜は基本温厚で裏表もないおかげか、友人2人の休みを察してお昼の誘いを何人かに受けていたが、気乗りしなかったため全て断った。
いつも騒がしいお昼を共に過ごす小夜にとっては今日はとても新鮮で特別だった。
(ふふ…そういえば前に訓練が終わって倒れている私に○オンさんが軽食を作ってきてくれて、その光景を通りかかった○ライトさんがみて餌付けみたいだねとかいってからかってきたりしたな)
小夜は窓の空に視線を送りながらそんなことを考え少しおかしくなって笑う。
「………………」
彼女は急に真顔になる。
「…そんな記憶…知らない…」
小夜の記憶に映し出されたのは友人2人との思い出などではなく、どこか遠い国での思い出だった。
(2人は日本人じゃなくて、私より歳上で、でも2人とも優しくて…私も最初は嫌だったけどいつの間にか、あそこで笑ってた。街のみんなもとっても優しくて、私にいつも何か食べ物持たせてくれて…小さな女の子と遊んで…そこのお父さんのパンがすっごくおいしくで…)
(やっぱり、最近の私はおかしい…いったこともない国の、知らない人達と一緒に生活をして、全部自分の妄想のはずってわかりきっているのにそれを心で否定すると胸が熱くなって、すっごく苦しくなる)
(…こんな知らない記憶なのに…嘘にしたくない)
彼女は昼食に手もつけずに自分の席でうずくまる。
「冷煎さん?大丈夫かい?」
小夜は後ろの転入生だろう声の主に反応する。
「…何…が?」
彼女はとても今振り向ける状態ではなく返事をするのがやっとだった…
少しの沈黙があった。
そして彼は今日初めて会ったばかりの小夜に云った。
「今日時間あるかな?良かったらお茶でもしないかい?君に話さないといけないことがあるんだ」
「……ッッ!?」
小夜は何かを察したように返事する。
「…いいよ、ハンバーガーショップでいいかな?」




