第21話 家族
自宅につくと小夜は今日の疲れを癒すためにまずお風呂に入る。
今日は起きてから1日何かがおかしい…なにも変なことはないはずなのに、それなのにずっと違和感がある。小夜はぶくぶくと湯船で口を鳴らす。
(おかしいな…こんな気持ち今まで一度もなかったのに…疲れてるのかなぁ)
彼女は風呂から上がると心ここにあらずといった様子で家族と卓を囲み食事をする。
パクっ
「…小夜…それお父さんのからあげだぞ」
「うん」
パクっ
「お姉ちゃん?どうしたの?何かあったの?」
「…いや何もないよ」
パクっ
「そうなのよ、この子朝からおかしくって」
「別に私はいつも通りだよ」
パクっ
「母さん、とりあえず小夜に俺のからあげ取っていくの止めさせてもらえないか?」
小夜の母は、静かに首を横に振る。小夜のテリトリーに入った食べ物は誰にも止められないということは母だけではなくここにいる家族が至極当然のごとく理解しているからだ。
パクっ
そして、小夜は父の最後のからあげを平らげる。
「キレイな皿してるだろ。嘘みたいだろ?一口も食べてないんだぜ?俺…」
一家の大黒柱が静かに泣いた。
小夜は己の腹を満たすとそそくさと自分の部屋に行ってしまった。その様子を見ていた小夜の家族達は顔を見合わせ心配する。
「………………」
小夜は自室へ戻るとノートを開き来たる大学受験に向けて勉学に励むもあまり芳しくない。
「将来か…」
残すところ半年となった高校生活に彼女は未だ目標も行きたい大学も決まっていなかった。
コンコン
「小夜今、時間空いてるか?」
外から父の声が聞こえてくる。
「どうしたの?お父さん?」
小夜は父の提案で夜の散歩に出掛けることにした。彼女にとっても、いいリフレッシュになると感じたのでありがたかった。
夜は夏前だというのにひんやりと涼しく散歩をするのにはいい気候だった。
小夜と父は2人並んで河川敷を歩く。耳を澄ますと下の草むらからは既に昆虫の鳴き声が聞こえ、それを彩るように草木と水面を月の光が反射して美しい。
「いつぶりだろうなぁ。こうして娘と2人きりで話すのは…」
父が河川敷を歩きながら、腕組みをして小夜に語りかける。
「うーん、確かに全然ないかも?基本、外にいくにしてもお母さんとか家族一緒だもんね」
小夜は適当に相槌を打ちながら空を見る。まだ夏の夜空が未完成なのが見て取れる程に星はまとまりがなくあちこちに分散しているようだった。
それでもこうして空を見上げることがほとんどなくなった小夜にとってはとっても輝いて見えた。
「そういやさ、帰りにお母さんが醤油と牛乳買ってきといてって云ってたよ?」
その言葉に父はポカンとする。
「小夜…お母さんからお金は?」
すると小夜が、父のほうを向き悪戯に笑いながら
「お父さんのポケットマネーからだって」
それを聞くと父は目に見えて落ち込む。
「確かに、以前無断でゲーム買ったけど…さ、まだ根に持ってたのか…」
父の言葉に小夜は反応する。
「どんなゲーム買ったの?」
普段ゲームには微塵も興味のない小夜が内容を聞いてきたので父は少し意外そうな顔をして答える。
「おっ、小夜もゲームの良さに気付いたのか?」
「気付いたというより、なんでか気になっちゃって…」
「よくある王道RPGゲームさ。勇者が魔王を倒すために仲間と冒険しながら旅をして困難を乗り越えて強くなるゲームなんだ。ただ力が強いとかそんなんじゃないぞ!主人公や仲間達は色んな困難を分かち合いながらそこから絆が生まれて精神的にも強くなっていくんだ」
父の興奮気味の力説に小夜は一言
「ふーん」
と、答えた。
「どうだ?小夜もやってみるか?」
「いいや、なんとなくわかる気がするし」
「そうか…」
父は密かに自分の子供と一緒にゲームするのが夢だったりしたのでしょんぼりする。
「てゆうか、弟とよくやってるじゃん…」
「いや、あいつとは格ゲーが多いし、なんか滅茶苦茶強いし、一緒にやってるというよりはなんかライバルみたいな感じだ」
「うわー大人げなー」
小夜は苦笑いで答えるとちょうど河川敷の半分のところで止まった。父もそれに習い横に並び月に照らされた川を見る。
「小夜、ありがとうな」
「何が?」
父は笑いながら小夜に顔をむけ答える。
「そりゃあ、生まれてきてくれてさ」
小夜は父の突然の言葉に少し複雑な気持ちになる。
「へ?どうゆうこと」
「ま、小夜もお母さんにならなきゃわからないかもしれないけど、親にとっては子が生まれてすくすく育ってこうして今も隣を歩いてくれるだけですごく幸せなんだよ」
父は優しい笑顔を私に向けると言葉を続ける。
「だから、今度は小夜が自分で決めた道を行きなさい。今度は小夜自身が幸せになっていく番だ。楽な道じゃないのかもしれない、でもきっとその時は側にお前を支えてくれる人がいるからね。それは父である俺が保証する。小夜は他人を幸せにできる人間だ。私達がそうであったように」
「…お父さん」
小夜自身も今のこの気持ちは理解できていなかったが父のその言葉が胸に強く響き、少しずつ少しずつではあるが剥がれていたパズルのピースが埋まっていくのを感じていた。
「ありがとう、お父さん私頑張ってみるよ」
小夜は真顔でそう父に答えた。2人は最後にもう一度笑うとまた歩き出した。
「そうと決まればスーパーまで競争するか!!負けたほうが母さんの買い物のお金を出す!!よし。よいどん!」
父が急に走り出す。
「うえっ!?ちょっとずるだよ!!待ってよ!?」
小夜も慌てて走り出し競争が始まった。
(そうか、ここからは私が選択する番なんだね)




