第12話 ボーダー
試験前日、ハイカカオット城客室(自室)
明日に備え、先程たらふく食事を取った小夜は満足そうにお腹をさすりながらいつもの寝間着に着替えベッドに座っていた。
部屋は薄暗く、ベッド脇の丸テーブルにランタンを置きその暖色の光に小夜とすぐ横で手を前に組んで立っているシルヴィが照らされる。
「…あのイオンさん、一つ質問があるんですけど明日の試験毎年どれくらいの人数が冒険者になっているんですか?」
本来毎年のように行われているギルド実力承認試験はその日はアルフォード王国の外からも参加者が訪れ現に今も王国検問所では入国審査のため、長蛇の列ができている。
外から来る者も試験参加者のみならず、付き添いや、この試験そのものを1つのイベントとして訪れる人達もいる。
そのため明日はただの試験だけの日ではなく、街も書き入れ時となるため、様々な行商人や滅多に出回らない価値のある物品を店頭に並び一種のお祭りになるそうだ。
数年前からのマナ災害のため幾度か中止の案は出たもののこの暗い時代だからこそということもあり、現在もまだ開催されている。
そんな大きな祭りだということは王国は勿論のことアルフォード地方で暮らしているものにとって知らない者はいなかった。小夜以外を除いて…
「一概にとはいえませんが、例年通りなら4人に1人程度でしょうか」
シルヴィはベッドに座り上目遣いで聞いてきた小夜の質問に答える。
「うえっ!?そんなに少ないの!?」
小夜は自身の予想より遥かに少なかったのか驚いた顔で聞き返した。
「いえ、恐らくそれよりも合格者は下回ると思われます」
「へ?違うの」
「はい、それはマナ災害が起こる前のデータです。ここ数年はどんどん合格率は減少傾向にあります。マナ災害以前は、試験内容が簡単な教科テストと、一定の水準で合格できる能力実技のみでしたが、マナ災害以降更に試験科目が追加されました」
「…追加科目ってなんですか?」
小夜が更にシルヴィに問う。
「…それは…私にもわかりません」
シルヴィの解答にへの字になる。
「わからない?」
「はい。3つ目の試験は受験者のみにしか教えられず、試験終了後も他言無用とギルドマスターから直々に王国に申請が出ており受理されています」
「そんな…それって対策の仕様がないじゃないですか!!しかも私初めてだしっ!!」
小夜がプンプンと試験の不平等さに異議を唱える。
「……それはどうでしょうか…」
「?どういう意味ですか?それって普通、前回不合格だった人達が次また受ければ有利になりますよね?」
不合格でもまた次受ければ合格率は上がる。それはどの試験に置いても明白だ。そんなこと考えなくてもわかることだった。しかしここで普段表情の変わらないシルヴィが眉を細め口を開く
「…これはあくまで噂なのですが…3つ目の試験で不合格になった試験者なのですが、次回以降の試験を受けた者はほとんどいないそうです」
「えっ?それってどうゆう…」
その言葉に先程まで暖かった部屋が一瞬凍りつく。そしてシルヴィは続けて云う
「…これも知人の門番から聞いた話なのですが…三つ目の試験の不合格の人数が…毎年少ないそうです」
冷たいダウナー声で放たれたその言葉に一瞬小夜はドキッとしたがすぐに笑顔になる。
「…またまた〜まさかイオンさん私を怖がらそうとしてます?その手には引っかかりませんよ!!その日王国から帰る人数なんてどれだけいると思っているんですか?いちいち数なんて覚えられないですよ。本当にその人がいったんだとしても見間違いですよ。確実に」
小夜が名探偵のように鼻を鳴らしながら得意げにアリバイを語るが、そのアリバイは一瞬で砕けた。
「これまでの三つ目の試験の終了時刻は、最短でも7時間、ゆうまでもなく深夜です。果たしてその時間から門の出入りをする人間なんて何人いるのでしょうか?」
笑顔で笑っていた小夜の表情が固まり青ざめる。
「…それって…つまり…」
小夜がおそるおそる聞く。
「…ええ、試験から何人も帰ってきていません」
さらっといつもの調子で答えるシルヴィだったが今はその冷淡さが恐怖をより引き立てている。
「…もう、イオンさんは…冗談きついなぁ…」
小夜は少し涙目になりながら語りかける。
すると小夜の目にはシルヴィがふっと笑ったように見えた。そして
「…私が冗談を云えるとでも…」
「…………………」
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ギルド本部 中央広場
「では、只今よりギルド実力承認試験を行います。参加者の皆様は係員の指示に従い行動して下さい」
ギルド本部の中央、そこは参加者約2000人をすっぽりと収納してしまうほどの中庭になっており、小夜達はそこに集められ先程の指示で何組かに分かれてそれぞれの塔に案内される。
小夜は昨日のシルヴィの言葉が頭をフラッシュバックしながら試験会場へと向かった。
そして小夜にとって初めてのギルド承認試験が幕を開けた。




