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第10話 最強は遅れてやってきた

炎岩獣  エンガンジュウ


 火山地帯に生息する生物で、捕食者を発見次第執拗に追い回し自身の熱を操り、対象者を火炙りにしてから骨まで残さず食べ尽くす、非常に残忍で獰猛な生物である。



炎岩獣は二手に別れた部隊の片方に向けて突進する。それは幸いにもミラージュの方だった。


「ブロック!!」


ミラージュが支持を出すと6人の近衛兵が大盾を構え前に出る。


ー肉体強化ー 硬 (こう)


敷き詰められた大盾に炎岩獣は勢いを止めることなく、ぶち当たる。


直後 ガンッッ!!  という音を立てて火花を散らし近衛兵と炎岩獣が競り合う。だが炎岩獣の、パワーが勝りジリジリと押されている。


「くっッッッ!!!」


「うおぉぉぉ!!踏ん張れェ!!」


必死に耐えていると、もう片方側のの近衛兵達からマナが溢れ出る。


中級魔法 バレットショット


口々に叫んだ数十名の近衛兵が手を突き出すように広げ対象に向けると銃弾のような鋭い水が炎岩獣にむけ放たれる。


複数の水銃弾は奴の横腹、背中、足、顔に直撃し、反対側によろける。しかし硬い皮膚で覆われた炎岩獣を貫く事はできず、水が蒸気に変わる。

 狙いを向こう側に変えた炎岩獣は体勢を変え走り出す。

しかし待機していたミラージュ側の近衛兵に先程と同じ水銃弾を浴びせられ再び翻弄される。


「わりぃな、ゴリラ野郎、俺達こういうのには慣れっこなんだわ」


そうニヤッと笑うと近衛兵達の間からミラージュが姿を現し背中の大剣を引き抜き、単独で炎岩獣に攻め入る。


武技ー仁王羅刹ー


ミラージュが持っていた大剣が紅く光り、彼の肉体が膨れ上がる。鬼神のような圧を纏い、大剣を上から下へと振り下ろす。


ドォォンッッッ!!



 刃からは想像できぬ衝撃音が響いた後、既にミラージュは炎岩獣の後ろで振り下ろしていた。


炎岩獣は固まったまま、やがて頭から縦にブシュッッッッという音を立てて両断される。


ウォォォォォォォォォッッッ!!!!!


ミラージュが振り返ると近衛兵が歓喜の声を上げる。

彼は大剣を肩にやり両断された炎岩獣を見つめる。

 先程までは顔を綻ばせていたミラージュだったがある一抹の不安が頭を過る。

 自身の体内に何千度と呼ばれる核を持つ炎岩獣だが、果たして何故コイツ一頭で地形を変え、生物が住めなくなるまでに至ったのか…


「まさか」


答えを導き出した出した時には既に奴らの手中だった。


ゴゴゴゴゴゴ


「なんだ!?どうしたんだいったい!?…えっ?」


突如地面から現れた巨大な手に近衛兵は握り潰されそして溶かされた。

 それを皮切りにいくつもの手が地面から生え出すと大量の炎岩獣が姿を現す。


「う、うわあああああああああああ!!!??」


周りの近衛兵が次々と逃げ出す。だが既に周りを囲まれた彼らは格好の餌でしかなかった。


「ま、待て!?落ち着けお前らッッッ!!!」


ミラージュの静止を無視し散り散りに逃げ出した近衛兵だったが、炎岩獣にとって群れをなさない蟻など脅威ではない。

 1人は踏みつぶされ、1人は焼かれて捕食され、逃げ出す地竜を運よく乗りこなし逃げ出したとしても炎岩獣の投石によって下敷きにされていた。

 残されたのは動けない近衛兵3名とミラージュのみ。炎岩獣達が最後の獲物を捕らえ距離を詰めていく。


「…お前まだ走れるか…俺が時間を稼ぐだからお前だけは生き残れ」


「…隊長ッッッ!!?」


「いけェッッッ!!!」


ー肉体強化ー 巡 (めぐり)

ー肉体強化ー 硬 (こう)


既に自身にウォーターサークルをかけ続けているミラージュが更に追加で重ねる。


「ウォォォォォッッッ!!!!!」


ミラージュは叫ぶと目の前の炎岩獣を大剣で貫いた。

すぐさま、隣の個体が拳を振り下ろすが、彼は見切ったかのように受け流した大剣の反動で腕をきり落とした。


ー肉体強化ー 見心 (みしん)


同時に魔法とスキルを重ね続け猛進するミラージュを後ろで震えながら見ていた近衛兵が辺りを見回す。

 1人はもうほとんど息がなく、残された1人は足が血塗れで原型を留めておらず目を背けたくなる。するとその近衛兵が真剣な面持ちで口を開いた。


「…俺のことはいい!!お前だけでもいけッッッ!!」


「ッッッ!!クソッッッ!!」


「…今…まで…たのしかっ…たぜーー」


グシャ


彼は歯を食いしばりひたすら走る。後ろを振り向かず。

 先程まで激しい音が鳴り響いていたがもうその音も聞こえない。

 近衛兵は目を腫らしながら崩れそうな足を無理やり前へ進ませる。


生き残る生き残る生き残る生き残る生き残る生き残る生き残る生き残る生き残る生き残る生き残る生き残る


だが検討虚しく目の前を空中より飛来した炎岩獣に阻まれる。奴は最後の獲物を捕らえたことに満足しているように興奮しているようだった。


ちくしょう


近衛兵は膝から崩れ落ち、最後の瞬間を感じていた。

炎岩獣がその太い腕を近衛兵に振り下ろす。


ザシュ


突如近衛兵の顔に血飛沫がかかる。自分の?いや違う。恐る恐る顔をあげた。

 するとそこには腰から上のない炎岩獣と1人の男が立っていた。


「すまない、本当にすまない」


彼はいつもの表情ではなく苦い顔をしていた。


「グ…グエン隊長!!!」


その瞬間に今まで堪えていた涙が噴き出る。


「…みんなが…ミラージュ隊長がぁぁぁぁ!!!」


「わかっている。まずはここを片付けよう」


近衛兵の後には既に数十頭の炎岩獣が忍び寄っていた。

絶望する近衛兵の後ろで再びグエンの剣が抜かれる。

キィィィィン


鋭い眼光のグエンの瞳は奴らを捕らえると次の瞬間消えた。


次に現れた時は炎岩獣の群れの中だった。

剣に無数の血をベッタリと付着させると、刀を回転させついていた血を瞬時に落とす。

 すると同時に数十頭の炎岩獣が切り刻まれ、倒れる。

既に残り数頭になった炎岩獣だったが、彼等は自分らのプライドを傷つけられひどく怒り狂いグエンを睨んでいる。しかし少し近づいたところで本能が理解する。


闘ったら死ぬ


そうしてゆっくり迫りくるグエンに畏怖した炎岩獣は散り散りに逃げ出す。


チッ


誰かが舌打ちをしたあと、再びグエンは消えた。

炎岩獣は時速200を超えるスピードで火口山を下山するため勢いよく助走をつけ、崖から飛び立つ。2キロほど下に森が広がり炎岩獣は降下していく。


グシャ


だが背後から鋭く太い鋭利なものが突き刺さり獣は空中でバランスを崩し回転するように落下する。先程自分が飛び立った崖には金髪の男が立っていた。

 炎岩獣はその小さい脳で理解した。突き刺さった物は仲間の一部だということを確信し堕ちていった。


グエンは唯一残ったミラージュの形見の大剣を引き抜くと悔しそうに近衛兵の元に戻った。


「さあ、帰ろう」


悲しげな笑顔で近衛兵に云った。




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