part20 ショカン山ダンジョン攻略 その2
昨日マスケの町に到着して、早くも今朝ショカン山ダンジョンへの第1歩を踏み出すこととなった。今日と明日は僕とリズさんの為に崖登りの特訓の予定だ。
昨夜マスケギルドでの美味しい食事の後、シスターズからせめて今晩中に名前だけでも覚えて欲しいと言われ、様々なクライミング道具を見せられた、今日から実地訓練というわけだ。
マッパーのオーアールさんとはギルドの前で待ち合わせた、オーアールさんは朝からやる気満々だ。
「おはようございます、今日から宜しくお願いするっす。」
「おはようございます、今日はクライミングの練習でありますね。」
「オーアールさんは、クライミングの技術も確かだと聞いているっす、ご指導宜しくお願いするっす。」
「ご指導なんてとんでもありません、しかし自分にルートの確保からビレイヤーまでお任せください。」
ショカン山ダンジョンの洞窟内の状況をオーアールさんに教えてもらいながら、15分ほど山道を歩くと、大きく洞窟が口を開けているショカン山ダンジョンの入り口に着いた。
「ここがショカン山ダンジョンの入り口になるであります、そしてこちらが転移小屋であります。」
結構頑丈な作りの小屋が建っている、中に入ると白い布が一辺が2メートル程の立方体に吊り下げてある。
「ふむふむ、この布はマジックアイテムぢゃな。」
「はっ、流石一発で見抜かれであります、このマジックアイテムのおかげで空間認識を容易にしてあります、更に目標を探しやすくしているであります。」
「成程、内側から鍵が掛かるようになっているっすね。」
「はい、テレポーション魔法での事故は可能な限り避けたいであります。」
「成程、この小屋の安全は即ち僕たちの安全っすね、ここは信頼のおけるシスターズの皆さんに警護を任せるしかないっすね。」
「「「「はっ、お任せください!!」」」」
一が目をウルウルさせている。
「いよいよダンジョンに行くっすよ。」
ショカン山ダンジョンの入り口は思いのほか大きかった、洞窟の入り口付近はまだ多少の光が差し込むものの、その奥は暗闇で霞みどれほどの広さがあるのかわうかがい知れない。
「オーアールさんの経験上どれくらい深い洞窟だと感じるっすか?」
「かなり深い洞窟だと感じるであります、先に探索した冒険者の話をまとめると、入り口からほどなく東と西に道が分かれ、それぞれが多くの枝道を抱えているようであります。」
「成程、取り敢えず今日のところは訓練用の崖に案内してください。」
オーアールさんは数歩歩いただけで左上を指さす。
「ここが、訓練用にうってつけであります。」
「こんな近くだったんっすか?」
「はい、ここならまだ光が届き初心者用には完璧な練習場であります。」
オーアールさんの隣に立ち、5m程の崖を見上げる。
「70°ほどであります、垂直でありませんが、道具なしではちょっと難しいであります。」
シスターズの皆さんが用意してくれた、クライミング道具を並べ、一さんからレクチャーを受ける。
「ハーネスはしっかり確認してください。」
「さほど高い崖ではないので、トップにザイルを固定すればよいと思います、まずルート確保をするであります。」
「なんだい一そのルートってのはよ。」
「はい、姫様と勇者様が安全に登るため先にこのザイルを崖上に固定するのであります。」
「ああそんなことか、いいぜ俺がやってやる。」
「本来なら我らの仕事でございますが、お手数をお掛けします。」
「お持ちくださいルート確保は私目の仕事であります。」
「へへっ、競争だぜ。」
「わーいキョウソウ、キョウソウ!」
リリッカさんと、オーアールさんと、マリエッタはあっという間に崖を登り切った、リリッカんは左手の指2本を岩にかけ強引に体を引き上げパワフルに登った、オーアールさん確実に体を確保し昨夜教わった3点支持とはこのことかと思わせる見事なクライミングだった、マリエッタは手掛かりになりそうな岩をひらひらと舞うように登ったというより跳んだ感じだ。
「わーい、マリエッタが一番!!」
「ちぇっ、お前の身の軽さには敵わねえよ。」
「お二方とも見事であります。ハーケンを打つのを手伝っていただけますか?」
3か所にハーケンを打ち、ザイルを固定した後オーアールさんはザイルを伝ってするすると降りてくる。
「オーアール殿見事なセルフビレイでございます、ビレイヤーとしての腕も確信が持てました。」
「過分なお言葉恐縮であります。」
「では勇者様からお願いします。」
一と二からビレイデバイスとカラビナの装着を手取り足取り教えられ、何とか崖下に立つ。
「御覧の通りビレイデバイスを通ったザイルは下に引かれると摩擦抵抗が増え体の落下を防いでくれます、登るときは『ザイルを出して』とビレイヤーに伝え緩めてもらい、休みたいときには『ザイルを張って』と伝え引いてもらうこととなります、もちろんもし落下の危険があれば、ビレイヤーは全力で支えます。オーアール殿はビレイヤーとしての腕も確かなようなので、安心して任せることです。」
崖に向かい登り始めると意外とホールドが多いことがわかる、これなら何とかなりそうだ。
<3点支持!3点支持!両手両足のうち3か所はホールドを保ち、動かしていいのは1か所だけ!>
頭の中で何度も繰り返し“3点支持!”を唱え慎重に登る。
「ダンナ、岩からもう少し体を離したほうが登りやすい!」
成程リリッカさんの言うとおりだ。ちょっと慣れてきたとたん左足を載せていて岩が崩れる。
「のわ~!」
ザイルがピンと張り、落下が止まる。
「大丈夫でありますか?しっかりホールドを確保したら合図してください。」
何とか、崖を登り切った。
「へへっ、ダンナだいぶましになったよ、最後のほうはもうザイルなんか要らなかったんじゃないか?」
「まだまだ練習が必要っす。」
崖を登り切った先にはまだ洞窟が続き、もう光が届かなくて、暗い穴が口を開けていた。
「マリエッタは?」
「ちょっと先を見てくるって、行っちまったがあいつは暗くても見えるようだし、心配ないよ。」
腹ばいになり崖下を見下ろすと、リズさんが崖にへばりつき、その左右を一と二さんが挟むようにして、一つ一つ手取り足取り教えている。
「あの調子なら大丈夫そうっすね。」
「ああ、リズの奴は結構感がいいな。」
リズさんが登り切った。
「お疲れさまでした。」
「ううっ、腕と背中が痛いですわ。」
マリエッタも帰ってきた。
「うんとね、この先大きな坂があって、危なそうな奴はいなかったよ。」
「マリエッタご苦労様、今度から一人で行っちゃだめっすよ。」
「うん、はーい!」
「もう少し先まで行ってみましょう。」
「はっ、ここから先はだいぶ暗く成るであります、照明の用意はいらないと聞いているでありますが。」
「はい、こうするっす。」
僕は、ビジュアルだけの炎をボール状に圧縮したファイアーボールを一人4個づつ、全員分をその周囲に散らし、ヘルメットのお椀にも嵌め込んだ。
「これは便利でありますね、こんな照明があるなんて、初めて知ったであります。」
「のう、亭主殿、この照明は一人づつトレースしているようぢゃが、亭主殿の消耗は大丈夫なのかのう。」
「はい、出すときにこの人の周りと意識するだけっす、その後何かを意識しているわけではないっす。」
「ふむ、漂流者の魔法は便利ぢゃのう。」
「んー、これからこのファイアーボールを使う機会が増えるので、ファイアーじゃ紛らわしいので、ライトボールと呼ぶっす。」
「ふむ、そうぢゃのう。」
「なあ、ダンナこのライトボールの数はどれくらいイケそうなんだ?」
「んー、限界まで試したことはないっす、かなりイケると思うっす。」
「ふむ、これから初めてのダンジョン攻略ぢゃな、まず先頭からの並び順を決めようかのう。」
「はい、そうっすね先頭はシャルさん使い魔を出してもらえるっすか、次はオーアールさん、次はシャルさん、次は僕、次はリズさん、次はマリエッタ、最後はリリッカさん、これでどうっすか?」
「なんで、先頭が俺じゃないんだ?不意打ち食らったらオーアールじゃ心もとないぜ?」
「自分はルートの選定のため先頭が望ましいであります。それに危険なのは先頭の次が最後尾であります。」
「そういうことぢゃ、それに脳筋には別な仕事もあるでな。」
オーアールさんは額に左の人差し指を指し眉間にしわを寄せている。
「この先しばらくは動く者は無さそうであります。」
「マッピング魔法の連続使用かのう?」
「連続で地形を探れば動く者は検知できるであります、ただあまり小さなものや、レイスのような霊体、待ち伏せタイプの動きのない者には、意味のないものでありますが。」
「いや、それでも助かります、さあ出発するっす。」
僕たちは、岩の隙間を通ったり、攀じ登ったりしながら道なき道を進んだ。
「いやこれは思ったより大変っすね。」
「いえこれでも、勇者殿のライトボールのおかげでかなり楽に進んでいるであります。」
やがて急な上り坂が見えてくる。
「30°程でありましょうか、100メートルほど続いているようであります。」ザイルによるルートを作ったほうが良さそうであります。」
「ルートの確保はオーアール殿に任せるとして、妾が後方のサポート護衛を務めようぞ。」
オーアールさんとシャルさんがザイルを要所要所で固定しながら、急な坂道を登ってゆく、二人とも身軽に登っているが、もし足を滑らせたら滑落が止まるか心配だ。
「次の方登ってください。」
坂上から声がかかる。
「勇者様、ザイルにアッセンダーとカラビナを通してください、アッセンダーはこの通り一方向にしか動かなないようになっています、ザイルが固定されている支点を通るときはまずカラビナを先に移動させ、それからアッセンダーを付け直すようにお願いします。」
ザイルとアッセンダーに気を使いながら慎重に登ってゆく。
<登りもきついけど、けっこうザイルにつながったアセンダーが重いっす。>
坂の四分の一程登っただろうか、何とか滑落もせずオーアールさんとシャルさんが待つちょっと足場の良い所へ着いた。
「ふむ、これなら大丈夫そうぢゃな、次は我らのすぐ後、多少の間隔で続けて登ると良い、ザイルは皆で持てば楽ぢゃからな。」
全員無事に登り切った、ザイルを最後尾のリリッカさんが回収してきた。
「俺が最後尾ってこういう事かよ!」
「うむ、脳筋にうってつけの仕事ぢゃ。」
「それに亭主殿、こういう坂は登りよりも下りのほうが体力的にも精神的にもきついからのう、覚悟しておくことぢゃ。」
「ハイワカリマシタ<ヒキッ>」
途中足場の良いところで休憩をはさみながらなんとか急な坂を登り切った。
「オーアールさんどうっすか?まだ先があるっすか?」
「もう少しであります、途中ひどく狭いところがあるようでありますが、マッピング魔法の感じでは通過に支障は無さそうであります。」
少し歩くと、腰高の位置に直径1mほどの穴が開いていた。
「この穴の先僅かでありますが、洞窟が続いているであります。」
オーアールさんが自分の荷物を穴の先を放り投げる。
「間抜けなアンブッシュだとこれに引っかかってくれるのでありますが。」
ライトボールを穴の先に4つほど送り込む、シャルさんの使い魔も穴の先に送り出してみたが特に変化は見られなかった。
「よしまず俺が行くぜ。こんな所アンブッシュが居ないほうがどうかしているからな。」
リリッカさんが穴を超えた刹那。
“紅”が一閃し切っ先が天を向く、同時にリリカさんの周囲に毛むくじゃらの太い杭が何本も打ち込まれた様に見えた。
僕は穴の前に跪き、穴の向こうを確認した、すると巨大な蜘蛛がリリッカさんの上で爪先立ちになっている、“紅”が一瞬早く蜘蛛の動きを制したようだ。
「でぃやぁぁ!!」
“紅”が更に一閃すると、蜘蛛の脚が数本断ち切られる。
「ウンゴリアントぢゃ!亭主殿そこを退け!」
シャルさんの使い魔が炎を纏いウンゴリアントに絡む、更にマリエッタが穴の向こうに飛び込み矢を乱射する。ウンゴリアントはすごい速さで逃走した。
「リリッカさん、大丈夫っすか?」
「おう、何んともねえよ、ただチョッと野郎の唾液が掛かり毒食らっちまった。」
僕たちはリリッカさんの周りに集まり、リズさんのヒール魔法を見守った。
「衣服に着いた毒は毒消し草で解毒しましたわ、体に付着してしまったぶんはヒール魔法が効いていますわ、もう大丈夫ですことよ。」
「おう、助かるぜ優秀なヒーラーが居るってのは心強いな。」
「マリエッタの矢はね、目を二つ潰したの、後は硬くて、弾かれちゃった。」
奥に様子を見に行ったオーアールさんとシャルさんが戻ってきた。
「ここから10mほど行ったところで急な下り坂になっているであります、5m程下り坂が続いて行き止まりになっているであります、ウンゴリアントはその行き止まりで身を潜めているようであります。」
「野郎絶対方を付けてやる。」
僕たちはウンゴリアントが潜む急な下り坂の前まできた、かなり急峻な坂道で、しかもつるつるしており、足場もなさそうだ。
「オーアールさんウンゴリアントの潜む所は枝道などはあるっすか?」
「いえ、きれいな一本道であります。」
「このまま降ることはできそうもないな。滑って落ちて奴の餌になるだけだ。」
「ここがあ奴の巣なのであろうよ、あ奴の体で洞窟が磨き上げられたのぢゃろう。」
「行けないのなら、来させるだけっす。」
僕は大量の水球を次々に出現させ、下り坂に放り込む、そして終には足元まで水で満たされる。
「ほほう、考えたのう、どれちょっと効果を加速させてくれよう。」
シャルさんが小石のマジックアイテムを一掴み取り出し、高速詠唱と共に水の中に放り込む、すると気泡が沸き立ちどんどん水温が上がっていく。
「とどめは俺に任せてくれ。」
リリッカさんがズイっと前へ出て“紅”を構える。程なく水の中に揺らめく影が見えた。
僕はライトボールを4つ水の中に沈めていった。
ウンゴリアントは水面下で逡巡していた、巨大な牙と頭部、赤く光る6つの目、目であった場所に突き刺さった2本の矢が見える、牙を震わせこちらをねめつけ、何を考えているのかは伺い知れないが、凄まじい敵意が感じられる。
「へへっ、さあ来な!」
ザバッと巨大な水しぶきを上げウンゴリアントが飛び出した、“紅”が牙と牙の間に突き立った、リリッカさんは刃を上向きに捻り更に切っ先を天に振り上げ頭部を断ち割る、ウンゴリアントは杭のような足を痙攣させ水の中に沈んでゆく。
「ふぃ~、とんでもない奴だったな。」
リリッカさんが笑みを漏らす。
帰りの急坂も、崖降りも無事やりこなし初日の探索は無事終了した。




