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Part17 小旅行その4 4回目の事故

アバスリの行政官ファルバード・テリシアス・ギョーエフ伯爵は、自分の館に僕達を留め置き盛大に歓待するつもりだったが、今しばらく庶民の観光をしたいと丁重に断り、僕達は海洋亭に戻った。

シスターズからはリズさんをシスターズの護衛無に“クラーケン”退治に連れ出したことを、さんざんに嫌味を言われ続けた。

町では、勇者が“クラーケン”を退治したと噂になり始めたが、皆半信半疑であった。

海洋亭の支配人サーシャさんが手を振りながら走ってくる。


「ギョーエフ伯爵様のお使いの人が来ているわよ!」


「はい。」


「おお、勇者様“クラーケン”の死体が打ちあがりましたぞ、伯爵様がこれから検分に向かいます、ぜひ勇者様達にも御同行願いたいとのことです。」


「分かりましたすぐに伺います。」


「えっ、勇者様が“クラーケン”討伐を果たしたって、うわさは聞いたけど?最近行方をくらましたっていう勇者は偽物で、貴方達が本物の勇者様って事?」


「はい、黙っていて申し訳ありません。」


「んまあ~たいへん~」


☆☆☆☆☆☆


アバスリから南へ1㎞ほどの海岸に巨大な茹蛸が打ちあがっていた、“クラーケン”と呼ばれたその茹蛸は、思いのほか美味しいそうな匂いがした。

大勢の野次馬の先頭にギョーエフ伯爵が居て、黒鳥号と“クラーケン”の死闘の有様を大きな銅鑼声で熱弁していた。


「おお!勇者殿お越しになられたか!」

「皆の者確と見よ!この方こそ真の勇者フールファス殿である!」


大勢の野次馬の好奇の目が集まり、身の置き場がなくなった。


「あれが“聖乙女”エリザベート様か~綺麗だなおい~」

「あの小さいのが、“天変地異”か?確かに雰囲気が断然ちげーよ!」

「剣豪“紅蓮”ってあの娘か?ごっついけど結構可愛い顔してんぜ~」

「勇者?なんか頼りないな~」


何時もの感想が聞こえてくる。

茹蛸の中から取り出した、大きな黒焦げの塊を、行政官直属の兵士たちが砕き、中からラクナアの石板と、鯨撃ちの銛の穂先を探し出した。


「石板を無事お返しできました、汚してしまったのは申し訳ありません。」


「いや…どーであろう、ギルバーディア侯この石板は儂が持っていても何の役にも立たぬ、貴公が持っていてくれないかな?」


「この様な物は漂泊の身には荷が重すぎるのう、伯爵が然るべく保管していた方が良かろう。」


「そうであろうか?いや分かり申した、勇者殿がまたこの石板を必要とする日まで、儂が責任を持って保管致そう。」


やじ馬の中にボブさんを見つけた。


「ボブさん!銛を無事お返しすることが出来て良かったです。」


「やあ、若旦那じゃなくて、勇者様、この銛は市場に飾る事にしますよ、“クラーケンスレイヤー”って看板付けてさ。」


ボブさんは白い歯を見せた。


☆☆☆☆☆☆


海洋亭に戻ると“勇者様御一行御宿”の大看板が立っていた。

祝宴は10日も続き、僕達はアバスリの海鮮料理の専門家になってしまった。旅立ちの日は住民総出で見送ってくれた、ギョーエフ伯爵家のお抱え演奏団による送別の曲も華々しく、僕達は出発した。


「ダンナ、本当にこっちで良いんだな?」


「はい、少し僕は旅慣れないといけないっす。」


僕達は今まで来た駅馬車が通る大きな街道を外れ、北のモンベの町を目指した。


「モンベまで、途中1泊は野宿であろうな、小さな集落はあるが、宿泊施設は期待できぬのう。」


「モンベを出たら海を離れまた山のなかだ、ナユロの町まで野宿が続くぜ。」


「ガンバリマス。」〈ヒキッ〉


☆☆☆☆☆☆


モンベの町を後にして1日僕たちは峠の手前で野宿することに決めた。


「リリッカ気がついておろうよ。」


「素人だ。襲ってくることはないだろう。」


いきなり、僕達の足元に矢が何本も討ち込まれる。そして、如何にも野盗で御座いますと言わんばかりの3人組が姿を現す。


「妙な動きをすると、次は体に矢が突き刺さるぞ!」


カカッ!と僕たちの足元に矢がさらに討ち込まれる。


「へへ、金と食料だけおいていきな、後は見逃してやるからよ。」


「おい、見逃してやるって、誰に言っている?」


リリッカさんが口元に凶暴な笑みを浮かべ野党に向かい歩を進める。

リリッカさんの足元に更に矢が撃ち込まれる。


「てめー、動くなって言ってんだろう!」

「次は刺さるぞ!」


「当たらねえ矢は、避ける必要すらねえな!」


「ふん、そこぢゃな。」


木立の上の方にシャルさんが魔力を飛ばしたと同時に女の子が落ちてきた。

ギャン泣きする女の子にリズさんが駆け寄る。


「まあ、大丈夫?怖くないからね。」


樹上から落ちてきた女の子をよく見ると、弓を持っているので足元の矢はこの子がやったのだろう、ピンクの髪の毛と尻尾がふわふわで可愛い、しかも猫耳だ、右眼が碧く、左目が黄色い。リズさんにヒールを掛けてもらい落ち着いたのだろうやっと泣き止んだ。


「で!どうするよ?」


「「「降参です!」」」


「へっ?」


野盗たちは武器を投げ出し跪いた。


「あっしら、本当は只の農夫ですら、こんなの持ってみても使い方がわからないんですら。」


「マリエッタの弓矢にビビらない本物に出会っちまったら、そこまでと覚悟を決めていたですら。」


「こんなあっしらでもちっとは野盗稼ぎをしたですら、賞金がついているかも知れやせん、どうぞ旦那たちの路銀の足しにしてくだせえ。」


3人揃って両手を前に突きだし神妙な顔をしている。

ちょっと鑑定を使って彼らを見てみると、“大地の恵み”“豊穣の神の加護”“開拓の手”といったおよそ野盗に似つかわしくないスキルが並ぶ。


「ただ旦那、マリエッタだけは助けてやって下せえ、この子はあっしらがだまして利用しただけですら、この子はただの一人も傷つけたことはねえですら、そういう事が出来ねえ子なんですら。」


野盗3人組から拝み倒され、改めてマリエッタを鑑定して見る。


名前:マリエッタ

性別:♀

Lv:43

二つ名:“ピンクの”“神弓”

スキル:“スナイパー” “オッドアイ”“運命の男”

〈くそ女神の笑声が聞こえた〉


「ふむ、亭主殿はまた事故を起こしたようぢゃな。」


「どういう事だよ!」


「オッドアイの獣人は只ならぬ宿命を持つと言うがのう、この子も亭主殿の宿命に引き付けられたのかのう。」


「まあ、マリエッタちゃん私たちと一緒よ。」


なぜかマリエッタはもうリズさんに懐いた様だ。


「事情を話してください。」


「へえ。」


彼らはぽつぽつと身の上話を始めた。先祖伝来の農地を耕していたこと、飢饉にあった事、租税を免除してもらえるよう地方行政官に頼んだが免除されなかったこと、先祖伝来の土地を捨て夜逃げしたこと、親族全てと生き別れた事、マリエッタと出会ったこと、冬の苦しさに耐えかねて野盗を始めた事。


「苦労されたんっすね。」


「天罰覿面ですら、ダンナ達に出会ってこれ以上罪を重ねずに済むですら。」


「まあ!その行政官許せませんわ、飢饉の時には租税を免除すると、父王から命を受けているはずですわ!」


「リズよ、中央には租税の免除を申し立て、実際には租税と称して年貢を取り立て自らの私腹を肥やす、珍しい話でもないのう。」


「んまあ!んまあ!絶対に許しませんことよ!」


野党たちの手を縛ろうとしていたリリッカさんを制止し。彼らを立たせた。


「自ら罪を悔い改めた人を改めて縛することもないっす。」


「ダンナ?どうするつもりだ、こいつ等どうせ縛り首だぜ?」


「ん~、一寸考えがあるっす、あまり使いたくない手ですけど。」


珍しく、怒りを露わにしているリズさんを宥め。耳打ちをした。


「リズさん、手紙を書いて欲しいっす。」


☆☆☆☆☆☆


僕たちは、峠を越えた後ナユロの町へは向かわず、直接タカスカの町へ向かう人通りの少ない山道を選んだ。当然食料は自給自足となったが、マリエッタは本当に有能な狩人であった。


「マリエッタ!おめー本当にすごいな!百発百中じゃねーか、お前の腕ならもっと狩れるだろう。」


「んー、食べる分だけでいいの、欲張っちゃいけないの、少しだけ分けてもらえればいいの。」


「マリエッタちゃんは本当に良い子ねえ。」


マリエッタはリズさんに抱きしめられ屈託なく笑っている。


「亭主殿は浮かぬ顔ぢゃのう?」


「はい、マリエッタは良い子過ぎて。」


「亭主殿、良い子というだけで世は渡っていけぬ、いつか誰かが教えねばならぬことぢゃ。」


「もうちょっと良い子でいさせたいっすね。」


「ふふん。」


野党たちの山野草に対する知識は驚くべきものであった。


「ああ、その山菜は美味しいのですが、灰汁を抜くのに木灰を使って一晩かかります。」


「心配ねえですら、小麦粉を使って一発で灰汁抜きできるですら。」


「!」


☆☆☆☆☆☆


僕らは7日かけてゆっくりと進んでいた。その間野党達とも打ち解け楽しい旅行となっていた。


「旦那、もう十分ですら。旦那があっしらに縄も掛けず最後に楽しい時を過ごさせて下さったのは本当に有り難いですら。でもこれ以上は未練になるですら。」

「旦那、有難うごぜいやした、家族がいたころを思い出したですら…グズッ」


「そうですね、頃合いですね明日タカスカに向かいましょう。」


「「「へい!」」」


その頃二はサッポの都で用事を済ませ、タカスカに向かい早馬を駆っていた。


☆☆☆☆☆☆


タカスカのギルドの牢に野党3人組とマリエッタは収監された。


「んー、貴方達久しぶりね、“祟り熊”を退治したとか、“クラーケン”を退治したとか、大活躍だったみたいね。」


「いやー、それ程でも…ところでナナさん、あの野党達の処分なんですが。」


「はい、はい、うちの掲示板にも手配書が乗っているわ、安いけど一応賞金首よ、2~3日で縛り首になり賞金も出るわ。」


「そこなんですが、縛り首はちょっと待ってほしいんっす。」


「ん?」


「もうすぐ返事が来るはずなんっす。」


「?…まあ、貴方が待てというなら役場のほうにもそう話しておくわ。」


☆☆☆☆☆☆


タカスカの家に落ち着いて数日が経った頃。


「あれ?リズさんはどこかにお出かけですか?」


「あー、リズの奴はまた、マリエッタを牢から連れ出して遊びに行っているぜ。」


「勝手に囚人を連れ出していいんっすかね?」


「ふん、リズに意見出来る様な者はこの辺りにはおらんのう。」


ナナさんからから呼び出されタカスカギルドへ向かう。

するとそこには、正規軍の第2師団第2大隊長のヒュバートさんが居た。


「おお、勇者殿久いですな。」


「はい、ヒュバートさんもお変わりなく何よりです。ところで今日は?」


「はい、勇者殿が捕縛した野盗の件で中央の決定を伝えに参りました。」


「なんか大事になっちゃいましたね、ご足労かけて申し訳ありません。」


「いえいえ、これも任務ですから。おっ、町長も姫様もそろいましたな、では始めましょうか。」


野党たちはヒュバートさんの前に畏まりおどおどしている、死刑判決が言い渡されるのだから無理もない、しかも地方の町長あたりで済むがはずが正規軍の高級将校まで来ているのだから。


「申し渡す。野盗を働きしこと自白により明白である、当然死刑となるべきであるが、その情状に汲むべきものがあり、また人に身体的危害を加えていないことに鑑み、罪一等を減ずるものとする、今後は正規軍の一員として国につくすくことを命じる。」


「へっ、あっしら助かるんですか、でも軍じゃあっしらなんか役に立つとは思えないんですら。」


「実はな、ワッカの屯田地において厳しい土地でもあるのだが、どうも今一つ作物の出来が思わしくない、そこで諸君らの力を借りたい訳だ。」


「畑なら、また畑ができる!どうせあきらめた命ですら死んだ気で頑張りやす。」


「うむ、頼んだぞ。そこの軍曹から制服を受け取り任地へ赴いてくれ。それと軍曹に生き別れになった家族のことを詳細に伝えるように、我らで何とか探して見よう。」


「「「有難うごぜいやす。」」」

野盗たちの顔は涙でぐちゃぐちゃになっている。


「次はマリエッタについてだが、野盗の共犯というよりただ利用されただけと判断し、人の危害を加えていない事でもあるので、今回は御咎めなしとする。しかし、勇者殿の適切な後見者が必要という意見は至極もっともである、よって後見者として勇者殿が適任と判断し以後マリエッタの後見人として勇者殿にマリエッタの処遇を任せるということです。」


「キャー、マリエッタちゃん一緒に暮らせるのよ。」


マリエッタはリズさんに抱き寄せられ幸せそうに笑っている。


<この子はどういう人生を歩んできたのだろう、野盗に拾われるなんてあまり幸せに生きてきたわけじゃなさそうだ。>


「ふむ、亭主殿上手くまとめたのう。」


「ダンナもう事故は勘弁してくれ。」


「僕は事故を起こす気なんか初めっからないっす。」


☆☆☆☆☆☆


野盗たちは全部ではなかったが家族とも再会を果たし、本当に必死に頑張ったようだ、また“あの様な”人材を見つけたらぜひ紹介してほしいとヒュバートさんから手紙が届いた。


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