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Part14 小旅行その1 温泉街ソンキョ

「ふぁあ~、暇だな。」


「そうっすね、平和なのは良い事なんっすけどね。」


僕達はタカスカギルドで、暇を持て余していた。


「ナナさんなんか仕事は無いのか?」


「全くないわ、強いて言えばトール爺さんの小屋の雨漏りの修理位ね。」


「おいおい、雨漏りの修理までギルドで引き受けているか?」


「そのくらい暇って事よ。」


「ふ~む、ここはどうぢゃ旅にでも出てみるか?」


「あんな立派な家残して、貴方達まで出て行ってしまうの?」


「いやいやそういう事ではなくてのう、ちょっと一回りして帰ってくるだけぢゃ。」


「目的はなんっすか?」


「ただの物見遊山ぢゃWWWW」


「いやあの、宿命とか、勇者の使命とか?」


「そんなもの来る時が来たらどこに居ても来るものぢゃ、今は物見遊山で十分ぢゃ。」


「それじゃあよう、ソンキョで温泉入って、山登りもしたいな、それからアバスリの町に行って、海見てよ旨いものが食いてえなあ。」


「ふむ、それで決まりぢゃな。」


「まあ、なんだか楽しそうですわ。」


「そうっすね、厄介ごとが押し寄せる前に楽しめる時に楽しんでおきましょう。」


「物見遊山に必要ないかもしれないけど、一応ギルドの紹介状書いておくわね。」


☆☆☆☆☆☆


僕達は駅馬車も通る大きな街道を使い、まずソンキョの温泉街を目指すことにした。


「まずはミカワの町で1泊だな、それからソンキョだ。」


「ふむ、大仰な馬車が役に立つのう。」


「それじゃ出発だ。」


僕達8人を乗せた4頭立ての馬車は、田舎にしては大きく豪勢で目立った。天気も良く何事もなくミカワの町に着いた。


「小さな町っすね。」


「ああ、なんもねえ町だからな。それでも、駅馬車街道だからな宿くらいあるだろう。」


「ただいま、二と三が宿の手配に向かっておりますゆえ、今しばらくお待ちください。」


「大きな山っすね。」


「おう、オオユキ山って言うんだ、でっかい火山でソンキョの温泉街はオオユキ山の麓にあるんだぜ。」


「ふむ、20以上の山が集まって一纏めにオオユキ山と申すのぢゃが、ソンキョから一番近い山がクロ山ぢゃな、なかなか風光明媚な山で登山道もしっかり作られておるので、一度登ってみるのもよかろう。」


<僕は、残雪が白く残る山の頂上付近を見ながら、体力の心配をしていた。>


「宿が見つかりましてございます。」


「ふむ、ご苦労。」


「しかし、小さな宿で8人で満員です。部屋はツインが二つ、ダブルが二つで御座います。」


「ふむ、リリッカと同室は妾が引き受けよう。」


「うぅ、すまねえ。」


「姫様と勇者様は一番景観の良いダブルの部屋へどうぞ。」


「うん、シスターズや何か企んでおるのう?」


「滅相もない…」


「まあ良い。野暮は言わぬ。」


☆☆☆☆☆☆


質素ながら美味しい夕食の後、それぞれに寝室へ向かい就寝することとなった。


「そういえば、リズさんと二人っきりで寝るのは初めてですね?」


「そうですわ、御主人様お願いがございます。」


「なんでしょう?」ドキドキ


「寝るときに手を繋いでくださいませ。」


「ハイ?」


「こうして手を繋いで寝ると、赤ちゃんが授かると母上から教わりましたわ。」


「うっ。そっすか。」


「きっとかわいい赤ちゃんが授かりますわ楽しみですわ。」


「はい、判りました。これで良いですか?」


「はい、有難うございます。」


☆☆☆☆☆☆


翌朝、出発の準備をしていたら。


「この辺に教会は無いのでしょうか?高い塔が有るとよいのですけど。」


「なんじゃリズ、この辺だと高い塔は難しいのう、何をするつもりぢゃ?」


「はい、受胎告知を受けなければなりません。」


「なんと、亭主殿、受胎告知を受けるようなことがあったという事かな?」


「はい、手を繋いで寝ました。」


「ぶっはは。リズよ受胎告知はちょっと気が早いのう。」


「そうなんですか?」


「おい、受胎告知ってなんだ?」


ソンキョ温泉へ目指し馬車は走り出した。


☆☆☆☆☆☆


オオユキ山へ分け入り、急峻な渓谷の中にソンキョ温泉街があった。繁盛しているようで大きな宿がいくつも並んでいる。


「宿はアサヒ亭がいいな、リズが居なければ俺たちが泊まれる宿じゃないからな。」


「ふむ、ここは国家予算をあてにしようではないかWWWW」


「心得ました、皆様はちょっと観光を楽しんで下さい、宿の手配はお任せください。」


「おい、あそこに観光案内所が有るぜ、クロ山の登山道の事を聞いてみようぜ。」


☆☆☆☆☆☆


「申し訳ありませんクロ山の登山道は現在通行止めとなっていましてハイ、なんでも人食い熊が現れるそうでハイ、ソンキョギルドの長“両断”のガフさんも手を尽くしているのですがハイ、いまだ登山道の再開の目途は立っておりませんハイ。」


「おいおい、“両断”のガフって、あの獣人の熊親父か?」


「ハイ、ガフさんは獣人で見た目はその…、かなり怖い方ですがハイ、誠実で心優しい人格者でソンキョでも人望の厚い方ですハイ」


「いやあの熊親父が人格者ってとこは認めるが、それよりあの熊親父を手古摺らせるってどんな化け物なんだ?並みの熊なら2頭や3頭くらいそれこそ両断しているはずだぜ?」


「なんでもハイ、ただでさえ厄介な熊に更に、たちの悪い物が憑いているらしいですハイ。」


「へへっ、あの熊親父の困り顔を拝めるなんて、ここまで来たかいがあったぜ。」


「リリッカさんお知り合いっすか?」


「ああ、ちょっとな。」


☆☆☆☆☆☆


「皆様宿の手配が整いました、こちらへどうぞ。皆様の部屋はスイートを用意しクイーンサイズのベッドを2つ並べ何時ものようにお休みいただけます、我らの部屋も廊下をはさみ向かい側に用意いたしました。」


「ふむ、ご苦労、それにしてもスイートか…」


僕らはチェックインを済ませ、宿の従業員やシスターズが荷物を運んでいる間、ロビーでお茶を飲んでいた。


「そこのお若いの。」


「へっ、僕っすか?」


「ふ~ん、色男子じゃな。妻を3人、使用人を4人何れも若い女子ときている、いやいや、大層な御仁じゃ。」


「へー、爺さん誰だい?」


「わしか?わしはトルードと申してな、このアサヒ亭の創業者で、今は息子に代を譲った、ただの隠居爺じゃよ。」


「ふむ、御老あそこに掛っている絵画はクロ山かな?」


「うむ、わしが偉い絵の先生をクロ山に案内した時に戴いた物じゃ、昔は毎日のようにクロ山の登山者の案内を務めたものじゃ。」


「でも、今は登れないんだよな?」


「うむ、あの祟り熊のせいじゃ。今日もうちの会議室で対策会議とやらをやっておるがの、ガフさんの手に余るようじゃ成す術なしじゃ。」


「へへ、俺たちが何とかしてやろうか?」


制止する間もなく、ギルドの紹介状がトルードさんの手に渡る。


「なんと、勇者様御一行で御座いましたか?大変失礼を致しました。」


「そんな、大層なもんじゃないっす。」


「勇者様のお力添えを戴けるのでございましたら、どうぞこちらへ会議室へご案内申し上げます。」


「もうリリッカさん安請け合いしちゃって、相手の正体も見ていないんっすよ。」


「心配すんなよダンナ、こっちにはシャルもリズもついている。」


「まあ、私がお役にたてまして?」


「ふむ、妾の予想ぢゃとリズの浄化の力が一番役に立ちそうぢゃのう。」


会議室に入るとそこは観光第1優先の観光協会と安全第1優先のギルドの対立の真っ最中だった。


「だから、登山客をギルドで護衛してもらった上で登山再開と言うのは~」


「何度も言うように並みの相手なら護衛もできようが、あの化け物だけは保障できん。」


「観光の名所が無くなるとソンキョの存亡の危機だ!」


「もし事故があったらそれこそ存亡の危機だろうが!」


「あー、皆の衆ちょっと良いかな?本日お立ち寄り戴いた勇者様が例の祟り熊の討伐に御助力下さるそうだ。」


「ども、フールファスです、宜しくお願いします。」


「…なんか頼りない…大丈夫なのか?…ザワザワ」


「俺は“紅蓮”のリリッカだ!」


「…おうあの…大変な剣豪と聞くぞ…天災じゃないか…ザワザワ」


「妾は“神を使役し者” シャルロッテ・トレファンス・ギルバーディアである、見知り置くが良い。」


「ダークエルフ?……天変地異か?…爆炎だぞ…ザワザワ」


「私はエリザベート・アグニア・バシレウスですわ、良しなに。」


「…バシレウス家のお姫様か?…確か勇者様に嫁いだと聞いたぞ…“聖乙女”か~…ザワザワ」


「勇者殿御助力感謝いたしますぞ。」


「まず、例の熊の情報をお願いします。」


「応、我はソンキョギルドの長“両断”のガフと申します。あ奴は只でさえずば抜けた体躯と、狡猾さで長年クロ山に君臨しており申したが、所詮ただの熊で人を恐れ自ら近づく事も無かったのですが、最近何か良くない者が憑いたようで、我らの攻撃を何者かが遮断しましてな、我らの矢や槍も剣も届かず傷一つ付けられない有様となり、あ奴は調子に乗り人を恐れる事すら忘れたようで、非常に危険な状態となり申した。」


“両断”のガフさんは並の人間の3倍はあろうかと言う体躯と、物凄い髭面に、ぶっとい牙が見え隠れし、物凄い迫力であったが、頭の丸い熊耳がチャーミングだった。


「へへっ、熊親父~困っているようじゃないか?」


「リリッカてめえ~、親父殿の敵の虎はどうした?」


「へへっ、家でおとなしく敷物やってるぜ~。」


「ほほう、これはお前の事も少しは認めなければならぬかな?」


「あの、ガフさん例の祟り熊は何か弱点のような物は無いんっすか?」


「うむ、弱点と言えるほどではないが、火は嫌がるようだ。」


「う~ん、これはともかく祟り熊と遭って、取り敢えず火柱で囲み、リズさんの浄化を試みて、シャルさんが状況次第で、憑き物が何とか成ったら、リリッカさんとガフさんにお任せする、と言う事でやってみましょう。」


「火は困る、山火事などあったら大変だ!」


「大丈夫っす、枯葉1枚焦がしませんよ。」


「勇者殿?ちと作戦が大雑把すぎないか?」


「僕らはまだその祟り熊を見ていないので、作戦も何も。」


「まあそういうことぢゃ、明日出たとこ勝負で。駄目だったらそれこそ作戦を考えようではないか。」


「応、取り敢えず明日色々と試してみるという事だな?」

「我がギルドからも精鋭を連れて行こう、夜明けと共にでよろしいか?」


「はい、宜しくお願いします。」


☆☆☆☆☆☆


白々と明るくなる頃、ソンキョは良い天気だった。


「勇者殿準備はよろしいか?」


「はい、宜しくお願いします。」


「あ奴はもはや人を恐れる事さえ忘れている、今日中に遭遇するだろう。」


「ガフ殿、我らに任せよ、この勇者は見た目こそ頼りないがのう、色々と持っている男ぢゃ。」


「何にせよ、我らにはもう成す術がないのでな、ここは頼りにさせてもらう。」


「ふむ、では参るかのう。」


「応、出発じゃ!」


ギルドからガフさんを始め4人程、観光協会から3人程応援に来ていた。

登山道から外れ、険しい獣道を暫らく歩いた。


「おい…あの勇者が腰に差しているのヒノキの棒じゃないか…ザワザワ」


「ふん、あれが只の棒に見えるようじゃ、未熟じゃの。」


「えー、でもガフさんどう見ても棒ですよ?」


一寸広く開けた場所で、祟り熊は待っていた、のっそりと後ろ足で立ち上がり自信たっぷりに巨大な体躯を晒し僕らを睥睨していた。


「熊の頭の上の黒いもやもやはなんっすか?」


「ふむ、あれが憑き物と言う事ぢゃろう、あれなら何とか成りそうぢゃ。」


「じゃいくっすよ。」


僕は盛大に祟り熊の周りに火柱を立てた。熊が立ち竦む。


「リズ、今ぢゃ、浄化を頼む。」


「はい!大いなる慈愛の女神アリス様…」


黒いもやもやが、大きくうねる。


<苦しそうだ、効いているぞ。>


トチ狂った祟り熊が炎を纏ったまま、僕めがけて突進してくる。

<駄目だ!逃げられない!>


「のわ~!」


僕は咄嗟に“きくいちもんじ”を祟り熊に突きだした。するとなぜか祟り熊が停止し、憑き物が苦悶の声を上げる。


「亭主殿、暫し耐えよ!」


そこにまた見てしまった、あのボロを纏った骸骨を。

骸骨が触れた途端に黒いもやもやが雲散霧消してしまった。


「リリッカさん出番っす!」


「おー!」


「応!」


リリッカさんが一瞬速かった、“紅”が熊を真横に薙ぐ。

続いてガフさんの巨大な鉈が熊の上半身を真上から両断する。


「ひゃー、熊が3つに成っちまった、剥製にして観光名物にしようと思っていたのに。」


「熊親父ぃ、俺の勝ちだぜ。」


「ちっ、ぬかったわ。それにしてもお前よくあの炎の中に飛び込めたな。」


「へへっ、慣れってやつさ。」


「シャルさん、なぜ死神なんっすか?」


「あの憑き物の正体はのう、この森に住まう小さき者達の残留思念が僅かづつ堆積し凝り固まったものぢゃ、だからリズの浄化に力を奪われたのぢゃ、この世に残りし無念をもあの世に持ち去るのもあ奴等の務めぢゃて。」

「それにしても、“きくいちもんじ”はあやかしの者に良く効くようぢゃのう。」


「勇者殿、鮮やかな手並み感服いたしましたぞ。リリッカの事も安心して任せられそうだ。」


「そうだ、火事は大丈夫か?…うん、焦げた匂いもしないぞ。」


「全くどんな魔法を使ったのやら…さすが勇者様だ。」


☆☆☆☆☆☆


トルードさんは庭園露天風呂を僕たちの貸切にしてくれた。


<生きていて良かった!転生して良かった!>


祟り熊は3つに分断されたまま剥製にされ、“3裂熊”として新たな観光名物となった。


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