Part 13 リズの休日
今朝も良い天気ですわ、リリッカさんとシャルさんは朝の日課のストレッチをしています、わたくしも朝のお祈りをしなくちゃ。
<大いなる慈愛の女神アリス様…>
さあ朝の準備をしくちゃ。
「歯ブラシ!」
「はっ!」
「歯磨き粉!」
「ここに!」
「お水!」
「これへ!」
完璧ですわ、もう一人でなんでもできますことよ。
「だー、リズさんそれじゃダメっす、歯ブラシは自分で取る!歯磨き粉も自分で付ける!水も自分で汲んでくる!」
「あう…」
どうやらこれではダメらしい、自立は難しいですわ。
「リズさん、洗面用の水も自分で汲んで、タオルも自分で用意するっすよ。」
「はい!」
あー、一が洗面用のお水を持って硬直していますわ。
「一さん過保護にならないように!」
「しかし、姫様に水汲みをさせるなど、本能が許しません。」
「本能ですか?でも一さん達は何時までもリズさんの傍に居る訳じゃないっすよ、その時苦労するのはリズさんっす。」
「うっ…御意。」
いけない、わたくしがちゃんとしないとシスターズにまで迷惑をかけてしまいますわ。
とにかくなんとか洗面を済ませると、シスターズが怒られていますわ。
「二さん、買い物中いきなり後ろの人を殴っちゃダメっすよ。」
「はっ、しかしいきなり背後を取られ、体が反応してしまいまして。」
「三さん、お店の食材にいちいち銀の針を刺さないように。」
「しかし、毒の確認は必須ではないかと。」
「タカスカの町にリズさんに一服盛ろうなんて人は居ないっす。」
「しかし用心に越したことは無いと?」
「それが過保護っす!最悪毒を盛られても自分で気が付けるようにならないと。」
「まあまあ、亭主殿今朝の所はそれ位で、シスターズよ、リズがなんでも一人で熟せる様に指導するのがうぬ等の務めよのう。」
「うっ…御意。」
まあどうしましょう、わたくし頑張らないと!
「ダンナ、リズは大分ましになっているぜ。」
「ええ、リズさんは良く頑張っています。」
「その頑張りを帳消しにしてしまうのが、過保護っす。」
「「「「申し訳ございません。」」」」
「ここはそうですね、強化合宿をしましょう。」
「なんだ?その強化合宿って。」
「はい、前から考えていたんですけど、これから旅の生活をするわけっす、野宿にも慣れておかなければならないっす、もちろんリズさんだけじゃないっす、僕も野宿に慣れなければならないっす。」
「つまり、キャンプぢゃなwww。」
「シャルさんやリリッカさんにはキャンプみたいなもんですけど、僕やリズさんは野宿の経験を積まないといけないっす。」
「まあそうだなダンナも、自給自足の野宿を経験しておくのも悪くないな。」
「当然シスターズの皆さんは留守番っす。」
「いや、しかし、ちょっとお待ちください、我ら影の者は野営術にも精通しております、姫様だけでなく皆様のお役にたつと心得ますが。」
「んー、野営術っすか?」
「はっ、如何にも。」
「確かに、知識と経験はあるに越したことは無いっすね。」
「御意!」
「ねえねえ、二、キャンプってなんですの?」
「はっ、皆でキャンプファイアーをしたり、バーベキューをしたりと、それはもう楽しい行事です。」
「まあ、楽しみですわ。」
「二さん!遊びじゃないっす、訓練っす!」
「ぎょ、御意。」
「ところで、亭主殿2,3日訓練するのは構わんが、想定はどうする?歩きか、馬か、馬車を使うかで大分条件が異なるが。」
「そうっすね、ここは荒療治で、一番厳しく歩く想定で行くっすよ。」
「歩きか、じゃ貰った鎧着ていくかな。」
「まあ、やっと着て戴けるのですね。」
リリッカさんはお城から届いた真紅の華麗な鎧に目を向ける。けぶらーとせらみっくで出来た鎧でせらみっくの装甲に彫刻しそこに金をあしらったそれは見事な物ですわ。
「なんて言っても軽いからな、それにしてもこのマントはなんだ、邪魔にしかならねえぜ。」
リリッカさんはそう言うと、鎧の真紅のマントを引きちぎる。まあー!ベルベットの素敵なマントですのに。
「山の中で汚せばちょうど良くなるだろう。」
「まあー、わざわざ汚すのですか。」
「こんな派手なもの着ていたら、修羅場じゃ目立ってしょうがねえ、的にしてくださいと言っているようなもんだ。」
「王宮の儀典用ではないからのう、我らは実用本位にしか考えられないのぢゃ。」
「そうっすよ、リズさんも実用以外の物を持てるほど余裕は無いっすよ。」
「はい、分かりましたわ。」
「じゃさっそく荷造りっす。」
シスターズの手を借り荷造りをしてみる、意外に難しいものですわ。
「なんだあ?リズは引越しするのか?」
「えっ、だからキャンプの荷物ですけど。」
「やれやれ、それを持って歩いてみろよ。」
「うっ、持ち上がりません…」
「リリッカさんの荷物はどこですの?」
「俺か?この鞄1つだぜ。」
リリッカさんが肩から下げている、ショルダーバックを見せられる。
「それだけですの?」
「おう、これで十分だ。布1枚、ナイフ1本、紐1本、これだけだ。」
「着替えは無いのですか?」
「良いかリズ、我らの目的は歩いて移動することぢゃ、その過程での野宿ぢゃのう、歩くのに邪魔な物は持てぬ。」
「はい…。」
「取り敢えずだな、俺と同じ物だけにしろよ、これだけ有れば何とか成るもんだ。」
「はい…。」
「僕もそうします、これだけで何とかする訓練っす。」
「それじゃ出発するか、おい三その荷物はなんだ。」
「あの…バーベキューの準備…」
「あーもう、分かったっす、帰って着たらBBQパーティしましょう、だから今回は諦めてください。」
「御意!」
☆☆☆☆☆
北の山に向かって3時間ほど歩きました、こんなに歩いたのは初めてですわ。
「ここらで、道から外れようぜ。」
「うむ、そうぢゃのう。」
「道から外れてどこを歩くのです?」
「藪の中だよ。」
「良いかリズ、もし敵に追われているとしよう、のんきに街道を歩いていては簡単に追いつかれてしまうのう。」
「そうっすね、あらゆることを想定しないとダメっすね。」
「あの~?お二人共とてもお強いのに、逃げることが前提なんですの?」
「逃げた方が後々面倒が無いんだよ。」
「まあそうぢゃな、ちょっとした盗賊団程度なら踏み潰してくれても良いのぢゃが。」
「相手が正規軍だったりすると、うっかり切り殺しちまったら賞金首に成っちまう。」
「まあ、正規軍相手に戦う事も有るのですの?」
「なんと言ったらいいのかな、世の中色々複雑でよ、有名な話を教えてやるよ、ある勇者が田舎の小さな村に立ち寄ったら、その村は、近くに住みついた悪龍に毎年若い女を生贄に差し出さねばならず、困っていた、そこで勇者は悪龍を退治したんだが。」
「その勇者はその後そこの国の王宮に呼ばれ毒殺されたという話しぢゃ。」
「まあ、人のために戦った勇者様がなぜ王宮で毒殺されるのですの?」
「ふむ、そこの王は悪龍に生贄を捧げる見返りに隣国で暴れさせていたのぢゃ、隣国は悪龍の被害に対処するため戦争を仕掛けることが出来なくなり、結果その国の平和は保たれていたわけぢゃ。」
「まあ、そこの王様にとっては平和保つために必要悪だったってこった。そういう訳でつい親切心から、国の敵に成っちまうなんて良く有る話だ。」
「でも、父上はそのような為さり様はしませんわ。」
「ホッカ国は島国であるし、王も賢明ぢゃからのう領土争いなど無縁でいられのぢゃが、地続きで国境を接している国にとって領土争いなど日常茶飯時ぢゃ、戦争を避ける為なら多少の生贄位珍しいことではないのう。」
「リズさん相手が国でなくても、規模の大きい組織だったり、まともに相手にする位なら逃げるが勝ちって有りそうっす。」
「うむ、たった4人で戦争する訳にはいかぬからのう。」
「ようし、そういう訳で本格的に逃走訓練だ。」
道を外れ藪の中を歩き始めのですが、あまりの歩き難さにびっくりしましたわ。
足元には大きな石や木の根が無数にあり、しかも枝葉で見えづらいったら。
「きゃん!」
もう何度転んだことでしょう。
「のわ~」
御主人様までよく転んでますわ。しかも邪魔な藪や枝をかき分けて歩くのってとっても疲れますし、あっちこっちに打撲傷を負ってしまいましたわ。
「今日はこの辺で野営にするか。」
ちょっとした広さの岩が平らになっている場所でやっと一息つきました。
「リズは当然として、ダンナまで丸で平らな処しか歩いたことが無いみたいだな。」
「はひ、申し訳ありません。」
「すいません…」
「まあ、これからの事を考えると足場の悪い所を歩く訓練が必要だな。」
「はひ、僕もここまで歩けないとは思っていなかったっす。」
「こればっかりは慣れるしかないからのう。」
「ところで、一よ、ケブラーの服は刃物には強いが、打撃には効果が薄いのう、要所をせらみっくで装甲し、せらみっく製のヘルメットが望ましいのう。」
「はっ、早速具申いたします。」
「まあしょうがない、とにかく飯にしよう、シャルの食材はなんだ?」
「うむ、兎が6羽ぢゃな。」
「俺は、雉が4羽だ。シスターズの方は?」
「野草を少々採ってまいりました。」
「まあ、何時の間に?」
「ダンナとリズがジタバタしてる間、暇だったからなWWWW」
「良いか、火を使えるのは明るいうちだけぢゃ、追手が居ないのであれば、獣避けに一晩中火を絶やさないのが原則ぢゃが、逃走中という想定では、ここに居ますよと追手に教える様なものぢゃ。」
「火を使うのはしょうがないとしても、なるべく煙は上げたくないな、薪も良く考えないといけないぞ。」
「まあー、難しい物なのですね。」
「じゃあ、一と二とリズで薪探しを頼む、ダンナと俺とで獲物の下ごしらえだ、シャルと三と四は偵察ってとこかな。」
「さあ、姫様あちらの沢の方に薪を探しに参りますぞ。」
「なぜ沢なんですの?」
「薪は煙を上げぬ様、良く乾燥した油分の少ないものに限られます、その様な枯れ木を探すのは沢の傍が最適なので御座います。」
沢伝いに良く乾燥した枯れ木を探しながら、良く乾燥した枯れ木は曲がらない事、お互いをぶつけ合うと、カン、カンと高い音がする事、沢が増水した時に周りの木を押し流す為沢伝いに薪に調度良い枯れ木が多い事等を学びましたわ。
一と二は集めた枯れ木を器用に紐でくるくると纏め、背中に背負う。
「まあ、この紐はこのように使うのですのね。」
一と二は何かぼそぼそと相談して
「姫様大変申し上げにくい事なのですが、多少なりとも薪を背負って戴きたいのですが。」
「もちろん望むところですわ。」
紐の使い方を習いながら、何とか薪を背負ってみました、それにしてもちょっと背負っただけなのに、なんて歩きづらいのでしょう。
「姫様背負った薪の幅をイメージし通れる場所を探すのです。」
「はい。」
カニの様に横歩きになりながら、何とか岩場まで帰って着ましたわ。
「おうリズ、上出来じゃないか。」
御主人様は羽毛だらけになりながら、雉と格闘していますわ。
「おう、シャル戻ったか?で、どうだった。」
「ふむ、付近に怪しいものは見当たらぬ、大型の肉食獣も居ない様ぢゃ。」
「それにしても亭主殿は不器用ぢゃなWWWWW」
「兎の方はお任せください。」
「へえ、三どうする気なんだ。」
「はい、偵察の途中調度良い粘土を見つけましたので、持ってまいりました、これで兎を包み蒸し焼きにします。」
「おう、皮をはぐ手間が省けて助かるぜ、なにせ思った以上に雉に手間取ったんでな。」
「姫様、火起こしは何時も使っているファイアースターターで十分なのですが、雨が降っていたり十分に乾燥した薪が手に入らない場合、ちょっとばかり面倒になります。」
「ああ、いい手が有るぜ、教えてやるよ。」
リリッカさんは拳ほどの丸い石を両手で握り、「ベキッ」と捩じ切った、その石の断面を細い枯れ木にあてがうと煙が立ち始めました。
「なるべく硬い石が良いんだ、一気に捩じ切ると結構な熱を持つんだよ。」
「リリッカさん、それを教えてもらっても真似できないっす。」
「えー、そうなのかコツさえつかめば簡単なんだけどな?」
「ふむ、そうだ良い物が有る、これを皆に与えよう。」
シャルさんは、真ん中に穴が開いている平たい手のひらほどの石と細い棒状の石を取り出しましたわ。
「これをこうして。」
平たい石の穴に、棒状の石を差し込みんだところ、平たい石に何か不思議な文字の様なものが浮かび上がり、周りに水蒸気が昇り出しました。
「炎ほどの熱は無いが、煮炊きする分にはこれで十分ぢゃ。」
「マジックアイテムに妾の呪文を封じてあるのぢゃ。然程強力なマジックアイテムでは無いのでな安価に手に入る、いくらでも作れるのう。」
「へえー、そんな便利な物もっと普及してもよさそうっす。」
「アイテム自体は大した物では無いがのう、封じている呪文はギルバーディア家の秘術ぢゃ。」
やっぱり、シャルさんって凄い方ですのね。
あら、シスターズの皆は手を後ろに隠し涙目になっていますわ。
「影の野営術ではどんな手段が有るんっすか?」
「はっ、我らの未熟な技の及ぶところでは御座いません…」
「まあ、それじゃしょうがない、早いとこ飯の準備済まそうぜ、シャル一気に焚火を頼む。」
「うむ、皆少し後ろに下がれ。」
ドン!
薪を積んだ処にいきなり3mほどの火柱が立ちあがりましたわ。
「う~む、ちまちました仕事は苦手ぢゃ。」
「ぷぷっ。」
「リリッカさん笑っちゃダメっすよ、誰でも得手不得手はある物っす。」
「それでは、食事の準備をしながら、周囲にトラップを仕掛けたいと思います。」
「トラップって何?」
「はっ、敵が近づくのを事前に察知したり、あわよくば自動的に迎撃で来る物です。」
「凄いそんな便利な物が有りますの?」
「はっ!」
「無用ぢゃ、妾が周囲にバリアで結界を張るのでな。」
「でも、僕とリズさんがシャルさんと逸れたら?」
「心配無用ぢゃの、これも小石のマジックアイテムに呪文を封じた物を皆に配ろう。」
「ううっ、影の野営術斯くも役立たずとは…」
「一さん、相手が悪かっただけですって。」
☆☆☆☆☆
三日が過ぎ疲労困憊で自宅にたどり着きました、私と御主人様は暇を見つけては、山歩きを練習することになりましたわ。
そして、三が用意したBBQパーティは殊の外楽しいかったですわ。




